3月2日(火)
とある書店を訪問したら、いきなり店長さんに「ああ、呼んでるなぁ」と呟かれる。てっきり『リコウの壁とバカの壁』の注文を出そうと思っていたところに僕が訪問したのかと思ったが、それはまだ平台にしっかり積まれていた。
「いやさぁ、実は来週半ばで退職なのよ、リストラ…」
世間では年末あたりから景気が良くなってきたと声高に叫ばれている。株が上がった、増益、V字回復。しかし、出版業界は一見芥川賞効果などで活気づいているように思えるが、それは文芸書という限られたジャンル内の話であり、全体としてはまだまだとても回復の兆しまでは現れていない。
特にこのリストラにあってしまった店長さんのお店のような町の50坪程度の書店さんは、一段と単行本の配本が渋くなり、またかつては一番の柱だった雑誌も送品が減らされる一方で、景気回復どころか、冷え込み続け凍りついているような状況だ。
あるところで書店さんの適正件数というのが話題になったことがある。
そのとき挙がった数字は、なんと驚くことに今の半分以下であった。それはもちろん読者にとっての適正ではなく、出版社や取次店から見た適正件数だった。そして閉店していくのは小さなお店からになるのだろうと。
小さなお店が苦しむ原因はの多くは、やはりどれだけ努力しても、即現金になる可能性の高いベストセラーが手に入らないからだろう。努力はしているのだ。毎日毎日ファックスを流し、電話注文もする。足があれば神田村や転売を廻る。それでも本が入らない。
特に最近は、出版社側が刷り部数を極端に抑えるため、町の書店さんへそれらの本が入ることはほとんどない。いや、町の書店と書いてしまうと語弊があるか。100坪、200坪のお店だってそうそう簡単に本が手に入らなくなっているのが現状だ。僕は多くの書店で、もう買い切りでも良いから、本が欲しいという叫びを聞いているし、努力しても無駄なら辞めた方が良いという悲鳴も聞いている。
結局、出版社側は利益を圧迫する返品を抑えるために、見える範囲、見えやすい範囲へ、配本する傾向が強くなっている。それは結局オンラインで在庫数が見えたり、あるいはチェーン展開しているところとなる。となればやはり初期投資やランニングコストがかかるPOSレジなどを入れられない書店さんは苦しい。
誰に向かって言えば良いのかわからないけれど、みんな一度しっかり考えた方が良いんじゃないか。本当に今の流れで良いのかと。
書店さんの数が今の半分になって、そうなればきっと本を買うためにわざわざ電車や車に乗らなきゃいけなくなるだろう。子供や主婦はどうやって本に接するのか。都心部にいれば不自由を感じることはないだろうが、地方の人はどうするのか?
今、売上が悪いなら、今後良くなる可能性を増やさなきゃいけないんじゃないか。今の流れが、本当に良くなる可能性を増やしているのか。
そしてこれは出版社全体にいえることだと思うけど、自分が減数しているそのスリップ、あるいは注文を無視して捨てているスリップ、その1枚1枚がお店を閉店に追い込み、店長さんや社員さんあるいはアルバイトさんから職を奪っていることを想像するべきだろう。
店長さんは最後にこんな話をした。
「やっぱり本が好きなんだよなぁ。だから生活していければ何でも良いという考えで次の仕事を探したくはないんだ。49歳、そうそうこの業界に仕事はないだろうけど、僕、あきらめないよ」