WEB本の雑誌

6月8日(金)

山本一力『銀しゃり』(小学館)を読了。江戸時代の鮨職人を主人公とした、とても心地の良い時代小説だった。時代背景や貨幣の価値あるいは物の大きさなどがさりげなく説明されていているので、時代小説初心者に特にオススメ。

新小岩から上る営業、なのだが、残念ながらH書店Hさんとはお会いできず、残念無念。そういえばいつも訪問する時間帯が一緒で、それがいけないのかもと反省する。

亀戸のY書店さんでは意表をついて講談社学術文庫やちくま文庫が売れるとうかがいビックリ。日頃のベストでは、いわゆるテレビものとかばかりが売れるのに…。あっそういう大きい数字にならないお客さまがいるってことか。しかし併設しているもうひとつのシブイフェアはまったく動きがないとかで、この辺が難しいところか。

錦糸町のB書店さんは僕の好きなお店ランキングに常に上位ランクされているお店なのだが、棚やフェアから、あるいはSさんが作るコピー誌からこんな本ありますよという心意気が伝わってきてとても楽しい。

この日行われていた「人生に役に立たない本フェア」なんて、ひねりが利いていて面白いし、そこに集められていた本も、確かに直接役立たないけど、実は間接的にとっても役立つんじゃないの?と思うような本が並べられていて素晴らしい。

そんな棚を眺めつつ、担当のSさんに「男は黙って『鯨の王』ですよ」なんて押し売りならぬ、押し薦めをし、ひとしきり売れない話で盛り下がる。がSさんの偉いところは、売れない理由を決してお客さんや出版社のせいにしないことだ。

「年間7万7千点も本が出ているんですから、面白い本がないわけではないんですよ。そのなかからしっかりセレクトして、お客さんにお伝えする、それがうまく出来てないから売れないわけで、これは書店員の責任です」とキッパリ話す。

いやいや出版社だって問題はたくさんあるわけでと思わず頭を垂れてしまうが、それだけ売ると言うことにブライドを持っているのだろう。こういう書店員さんがいるかぎり、僕ら出版社は安心して本づくりに専念できる。そういえば、第1回本屋大賞の受賞スピーチで小川洋子さんも同じようなことを話していたっけ。

「(前略)これまで多くの書物を書いてきましたが、自分の書物が世の読者の心に届いているのか、常に不安と孤独を感じていました。でも、今日会場にある手作りのPOPを見て、「あなたの作品をしっかり世に届けていますよ」といういうみなさんの思いが感じられ、みなさんに背中を押され、励まされた気持ちです。明日からまた読者の心に届くよう書物を書いていきたいと思います 。」(本屋大賞ホームページより http://www.hontai.or.jp/jyusho2004.html


おそらく多くの編集者、営業マン、出版社の人間は同じような不安を抱えているのではなかろうか。

でも大丈夫! 多くの書店員さんが今必死に売ろうという気持ちになっているのだ。だから書店員さんが自信を持って棚に置きたくなるような本を営業していきたいと、錦糸町を後にして強く想うのである。