WEB本の雑誌

6月12日(火)

 通勤読書は、『瞳さんと』山口治子著(小学館)。

 もっとも愛する作家のひとり、山口瞳の奥さんが書かれた山口瞳論。山口瞳の小説やエッセイのなかでしばしば奥さんの神経症のことがその本人の奥さんの目線で書かれるとこれだけ奥の深いものだったのかとビックリする。また山口瞳のご両親の凄さも、他人の目線で描かれることによって一段と伝わってくる。

 また「書く」ということが、どれだけ家族や兄弟に影響を及ぼすか、あるいは作家の妻というものがどれだけ大変なのかということも思い知るが、それでも夫・山口瞳に素晴らしい作品を書いて貰おうとする奥さんが美しい。

 そして山口瞳が死ぬまで続けた週刊誌連載『男性自身』の連載依頼の際の、新潮社の編集者の言葉がすごい。

「生活は僕が保証します。山口さんには、エンドレスで原稿を書いていただきたい」
 その後この編集者は、奥さんのところにもやってきてこう約束したらしい。
「連載原稿は1回三万円、月4回なので計12万円になります。これを生活費にあててください。一生保証します」

 昭和38年の12万円がどれくらいの価値なのか僕にはわからないけれど、「一生」というのがすごい。

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 直行で6月18日搬入の新刊『本を読む兄、読まぬ兄』吉野朔実(著)を持って取次店廻り。受領書を忘れないよう気をつけながら御茶ノ水、飯田橋、市ヶ谷を廻って、帰社。そして今度は浜本と、吉野朔実さんのところへ訪問し、サイン本作成。

 相当冊数があったにも関わらず、吉野さんは嫌がることなく「これで本が売れるならいくらでもしますよ」と優しい言葉をかけていただき、うれしいかぎり。しかしその瞳には、やはり作家オーラというか、表現者オーラが宿っていて、僕なんぞは思わず焼けこげてしまいそう。やっぱりすごいな、吉野さん。