WEB本の雑誌

7月4日(水)

 通勤読書は、我が後継者・ウェイン・ルーニーの自伝『悪童自伝 物語は始まったばかり』(ランダムハウス講談社)。昨シーズンまではやたらとカードを貰い退場するイメージがあったが、今シーズンはグッと成長し、マンチェスター・ユナイテッドのリーグ優勝に大貢献したルーニー。何だかもうベテランや中堅のイメージがあるけれど、彼はまだ21歳の青年と呼ぶにも早いような若者で、ならば世間知らずの「悪童」なのかというと、自伝を読む限りとっても謙虚でのんびり屋さんのようだ。

 以前読んだロイ・キーンやガスコインの自伝は、まるでロックンローラーのような強烈な個性の固まりだったが、こちらはビックリするくらい普通の青年である。ならば面白くないのかというとそうでもなく、鏡を前にしてハゲに悩んだり、通常は朝7時30分に目覚ましをかけ…なんて律儀に生活が綴られていて、プレミアのスター選手が意外と地味にそして単調に暮らしていることがわかり面白い。しかし21歳で自伝が出る人生というのはすごい。そしてルーニーの今後が非常に楽しみだ。

 また同じくサッカー本として読み始めた『日本人よ! 』イビチャ・オシム著(新潮社)は、自著であるので期待したのだが、本人が語る「オシムの言葉」は例の「オシムの言葉」でなく、普通の言葉であった。書かれている内容は今まで方々で語られてきたオシムのサッカー感であり、特に驚きはなく、まあオシムのサッカーを知るにはちょうど良い入門書ではあるだろう。しかしこういうタイトルを付けるのがよくわからない。サッカー本では売れないから、日本人論、あるいはビジネス書のようなところの市場を狙っているのだろうか。そうならば、何だか哀しい。

 ただいくつか気になって点があって、やたらFC東京の平山の名前が挙がるのだ。それは期待していることの裏返しなのか、そして日本人化といいつつもやはりデカイのが必要なのかと疑問に思うのと、我が浦和レッズに関して、世界の潮流の良くない部分(勝つことを重用しし過ぎるサッカー)として論じていることだ。

 まあ確かに田中達也復帰以前の浦和レッズのサッカーはそういう部分があったかもしれないけれど、今はボールも人もかなり流動的に動くようになっており、そして何よりオシムが嘆く日本人の大人しさを超越したチームであることを忘れてはいけない。鈴木啓太はポンテや山田に遠慮せず怒鳴っているし、ポンテとワシントンがつかみ合いになりそうなこともあった。しかしそれはすべて勝利のためであり、岡野雅行はそんなチームを「98年のW杯予選のときに似ている」とたくましく思っているそうだ。

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 営業は小田急線。

 本厚木の有隣堂さんを訪問すると、文庫各社(新潮社、角川書店、集英社)の夏100フェアに合わせて「有隣堂厚木店スタッフが選ぶ2007夏の文庫ベスト39」なんて手製のパンフレットが置かれていて早速いただく。こちらは各社の夏100のなかからお気に入りの文庫を手書きPOPつきで推薦されているのだが、文庫夏100といえば各社力の入ったフェアだから何もしなくてもそれなりに売れるだろうが、そこにこうやって一手間かけるというのがうれしいというか、書店さんの魂を感じてしまう。

 また町田に移動してから伺ったH書店さんでは、新潮社の文庫の販促の仕方の上手さをC店長さんから伺う。それは今になって爆発ヒットしている志水辰夫著『行きずりの街』に合わせて、他の既刊本にも帯を付けてきたり(『情事』の売れ行きがダントツだとか)、本屋大賞発掘部門の投票から『家族八景』筒井康隆など3点にコメント入り帯をつけたり、また城山三郎さんがお亡くなりなったときも追悼帯を用意したりと、こういう点に関しては群を抜いているだろうとのこと。なるほど、なんて頷いていたら「本の雑誌社も人のところの本を売り出すばかりでなく、自分のところで売れる本をしっかり作らないとね」なんて言われてしまった。ぐさっ!

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夜は西荻のK書店さんと往来堂さんを見学し、酒。
書店員さんは他の書店さんを見るときどういうところに注目するのかと思っていたら、Kさん入るなり「この什器良いねぇ」と呟く。ああ、やっぱり全然見るところが違った。しかもお互い店長さん同士だから、話す内容もシビアで、賃料や人件費など、まさに経営の話で、非常に勉強になった。