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3月24日(月)

 書きたいことは山のようにあるのだが、やはり本屋大賞の発表を間近に控えたこの時期、なかなか書く時間が取れない。それどころか営業に出かけるのも至難の業で、気づくと一日中社内でメールやら電話をしていたりして、一日が終わってしまう。まったくもって不完全燃焼で眠れない。

 眠れないのは、勝てない浦和レッズのせいではないかと指摘したい人も大勢いるかと思うが、日本人の一番の美徳は、「他人を思いやる心」であるから、間違っても私の前で、サッカーの話はしないで欲しい。

 先日も冷たい雨の降るなか、ヴィッセル神戸に敗北し、その後1時間以上に渡ってスタジアムに居残り、社長やGMに浦和レッズへの愛情をぶつけて帰宅したのであるが、家に着いてすぐ娘から「勝てないね」と言われた瞬間、思わず号泣してしまった。娘は父親が初めて泣く姿にビックリしたようであるが、営業マンが突然泣き出したら書店員さんもビックリするだろうから、サッカーの話はしないにかぎる。

 それにしても今一番後悔していることがあって、それはなぜ私は、日本サッカー協会指導者ライセンス「公認S級」を取得しておかなかったのか?ということだ。S級どころか、C級も持っていないので後悔も何もないのだが、嗚呼、ここに前監督オジェックより選手とコミュニケーションが獲れ、現監督エンゲルスよりも長く浦和レッズを知り、そして「サカつく」や「ウイイレ」で辣腕を振るった男がいるというのに監督になれないとは残念無念である。靴のセールスマンからミランの監督になったアリゴ・サッキになるチャンスを逃してしまった。もう代理人のフリをして、浦和レッズにメールを送るのも辞めよう。

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 営業に飛び出す。そしてやっぱり営業は楽しい。

 八王子にできた有隣堂さんを初訪問。文具を含めて500坪の本屋さんなのだが、入口付近の棚が低いためか異様に広く感じる。

 そしてひとつ驚いたのは、入口付近には実用書が展開されていてその奥に文庫、そして一番奥に文芸書という売り場構成である。というか、これが現実なんだろうと思い知る。もはや書店の入り口に文芸書をドーンと積むなんていうのは夢物語なのだ。

 旧知のSさんが店長で着任されていたのでお話を伺うと
「とにかく児童書が売れてます」とのことなのだが、確かに入口付近でフェア展開されいた仕掛け絵本のコーナーや児童書売り場に母子がたくさんいた。

 それと「広いですねー」と印象を伝えたら「それが年配のお客さんが多いので、広すぎるって怒られたりするんですよ」と苦笑い。

 そうなのか……。大きいことは強み!という流れのなか書店業界は動いてきたと思うのだが、実は多くのお客さんは、自分の欲しい本をすぐに見つかることを願っているだけなのである。特に高齢者の方は、500坪の店内を歩くのも、大変なのだろう。

 そのことを聖蹟桜ヶ丘店のくまざわ書店のS店長さんに話したら、「日常的に必要な本屋さんというのは100坪でも広いくらいだよね、きっと」と言われる。しかも検索タッチパネルなどを導入して探しやすくなっているとはいえ、高齢のお客さんはなかなか利用しない。「うちではなるべくお客さんに声をかけるようにしています」とのことだが、有隣堂のSさんも「都心のお店ではお客さんと接する機会が少なかったけれど、ここはじっくりお客さんと話ができる。楽しいですよ」と話されていた。

 その後訪問した啓文堂書店府中店では、先日ここで書いた「雑学文庫ダービー」の話を伺ったのが、現在11冊並んでいる雑学文庫のなかから、一番売れたものを雑学文庫大賞として発表し、ドーンと展開していくそうだ。

「前にやったおすすめ文庫大賞はスタッフだけで選んだんですが、今度はお客さんにも参加していただきたくて」とKさんはその趣旨を語る。

 こうやって話を伺っていると、当然ながら書店さんは接客商売であり、人と人が交差する仕事なのだとわかる。高齢化社会が始まる今、地域によってかもしれないけれど、それこそが強みになる時代が、また来るのではないかと思った。

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