9月18日(木)
- 『なみのひとなみのいとなみ』
- 宮田 珠己
- 朝日新聞出版
- 1,575円(税込)
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嫌な予感がしていたのだが、ドーンと落ちた。
先週から何だかジワジワと腹の立つことが起き、スウェーやクリンチをしてかわしていたのだが、週末になんだコノヤローと真剣に腹がたつことがあり、しかもそのときの自分の対応もすっきりしなかったと考えているうちに落ちてしまった。いやもしかしたら山野井泰史さんのことで落ちこんでしまったのかもしれない。いやいやクウェートに行けない自分が嫌になっているのかもしれない。
参ったなあと思いつつ本日も営業に出かけたのであるが、その店頭にて我らがタマキングこと宮田珠己さんの新刊『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)を発見! 早速購入し、いつもなら山手線の人になるのであるが、宮田さんの本が電車で読めるわけがない。どうしたって「クククッ」と笑い出してしまい、周りの人に不審者がられたところで、あわてて「♪わたしの青い鳥〜」なんて歌って誤魔化すことになるのだから。
というわけで人気のない公園に向かいベンチに座って心おきなく「クククの人」になったのであるが、数篇読んだところで気が付いた。電車のなかで笑っている人より、人気のない公園で笑っている方が危険なのではなかろうか。すでに随分笑って気持も軽くなったので、ここは先を読みたい気持をぐっと我慢し、営業に戻ることにしたのである。
帰宅後、心おきなく『なみのひとなみのいとなみ』を読もうと思ったら、娘と息子が起きていた。息子はここしばらく「レスキューフォース」という戦隊ものにすっかりやられており、変身しては寝転がっている私の顔面に膝蹴りを食らわしてくるのである。邪魔なのでカニバサミしてもだえ苦しませていると、今度は娘が「ポケットモンスタープラチナ」が進まないとDSを差し出してくる。これでは全然読めないではないか。
というわけで作戦変更し、娘と息子を寝かせようとしたのだが、いつの間にか自分が寝ていて、目覚めたら11時。ガバリと起きだし、居間で『なみのひとなみのいとなみ』を読みだしたのであるが、1行読んでは「ククク」と私が笑うもんだから、妻にうるさいと蹴られてしまった。
35年の住宅ローンを背負わせられておきながらなぜかこの家には私の部屋がない。寝室も居間もダメなら、あとはトイレしかない。というわけで本を持ってトイレに向かったのであるけれど、トイレに入るとどうしたものかズボンとパンツを脱ぎたくなる。結局、下半身を晒して『なみのひとなみのいとなみ』を読み続ける。
宮田さんはこの本に対して「もうぜんぜん統一感はないし、僕には日常エッセイが書けない」と会う度に苦しい話していたのだが、何をいう宮田珠己。充分過ぎるほど面白いではないか! しかも初めは「ククク」と笑わせておいて、途中から「そうだそうだタマキング」と唸らされるエッセイが詰まっている。おかげで私はパンツとズボンを履いて居間での生活に復帰できた。
もしかすると『なみのひとなみのいとなみ』は、今までベトナムの盆栽とか巨大仏とかシュノーケルとかどちらかというと地味なもの地味なものと目立たないものを書いてきた宮田珠己の読者の間口を一気に広げる作品になるのではなかろうか。
『永遠の出口』森絵都(集英社文庫)の文庫解説で北上次郎は「本書は森絵都が、児童文学を離れて新しい地平をめざした記念すべき一冊である。面白い小説はないかなと思っているあなたに贈る挨拶がわりの一冊だ。凄みのある一冊だ。」と紹介しているのだが、まさに『なみのひとなみのいとなみ』は面白いエッセイはないかとおもっているあなたに贈る、宮田珠己からの挨拶がわりの一冊になるだろう。例え本人にとってそれが不覚であろうが。