【今週はこれを読め! エンタメ編】中2男子のおバカな友情物語〜黒瀬陽『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』

文=松井ゆかり

  • 別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや
  • 『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』
    黒瀬 陽
    早川書房
    1,512円(税込)
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 "男子がいちばん愚かしいのは中学時代、女子は高校時代"というのが私の持論だ。私の弟や息子たちを観察した結果&自らの来し方を振り返っての反省をふまえての見解である。さらに補足すると、"男子のバカは概ね低レベル、女子のバカは小賢しさを伴うものである"という気がしている。本書の主人公・小林とその仲間たちは中学2年生、まさに脂ののったおバカたちだ。

 クラス替えを機に、小林はバスケ部を辞めた優等生の祐介とともに最も"イケとる"グループに参入しようと画策する。祐介はあまり気乗りしない様子だったが、「キューピッドさん」(私の時代には「コックリさん」と呼ばれていた占いと同じものか)をきっかけにヤンキーグループの丸ちゃんたちとなかよくなることに成功した。さらには、丸ちゃんの彼女であるリサさんの親友である吉川さんとつきあうことに。初デートに臨む中学生男子の、背伸びしすぎてほぼつま先立ちになってる感がたまらない。そこからなんだかんだあり、小林は一足先にグループ替えをしていた祐介にならって三軍グループに混ぜてもらうことになる。そのグループを構成していたのは、肥満児のTK(小室哲哉を意識した自称)、天然ボケのジョー、タイ人のクルンだった(クルンのあだ名は、バンコクの正式名称が「クルンテープマハナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラアユッタヤー・マハーディロッカポップ・ノッパラッタラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーンアワターンサティット・サッカタットティヤウィサヌカムプラスィット」であり、タイでは一般的に"クルンテープ"と呼ばれることに由来している)。

 そして、タイトルの『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』の元ネタは、「新世紀エヴァンゲリオン」で主人公・碇シンジの口から発せられる「別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」(←を、広島弁に翻訳したものがタイトル)。標準語の方がスマートではあると言ったら広島の方々に失礼だろうか。しかし、味わい深さでいえば「じゃあの」の圧勝だろう。1996年という年は、個人的には"長男を出産したメモリアルイヤーであるとともに阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件があった1995年"の翌年ということで、激動の社会情勢がちょっと落ち着いてきたところという記憶がある。とはいえ、夫につられて私も「エヴァ」はリアルタイムで視聴していたので、このアニメーションがある種の社会現象のように受けとめられていた感覚は共有できるし、中学生たちならなおさら感情移入していただろうと思う。今やあまねく知られるようになった"中2病"。そのイメージを体現しているような小林たちの心情や行動を読み進むにつれ、10代半ばくらいの若者(と若者と同程度の精神年齢の人々)を表す言葉として、言い得て妙だなと感心せずにはいられない。

 夏休み、イケとらんグループの面々は"イケとる誓い"を立てる。具体的には、祐介が「勉強できると肩身せまくて、不良が威張っとんのはおかしいわ!」と主張し、「わしら二学期んなったら、それぞれなんか"イケとる"ことするって、誓い合おうで! 脱・地味な学校生活! 脱・"イケとらん"グループ!」ということになったのだ。最終的に彼らはイケとる誓いを達成できるのか...?

 さて、もちろん男子中学生はバカなだけではない。小林たちの友情は初めから"何があっても揺らぐことのない固い絆"というわけではなかったのだが、徐々に相手を思いやる心が育っていく様子に胸を打たれる。グループが5人になって間もない頃にTKを鬱陶しがってプールに誘わないよう提案するなどということもあったし、お互いに気持ちの行き違いがあったときにすぐに謝れなかったりもした。学校というのは、たまたま同じ年齢・近隣在住の子どもたちが集められる空間であり(私立校の場合はまた事情が違うだろうが)、学年が変わったり卒業したりしたら人間関係は途切れてしまうことは往々にしてある。しかし、そのような便宜上の集団においても真の友情を育む子どもたちもいるだろうし、そもそも1年限りの関係であってもそのときはほんとうに大切な友だちだったのであればそれでよいではないかとも思う。何か窮地に陥ったりトラブルに巻き込まれたりするたびに結束を強めていく14歳の少年たちの姿には、心に迫るものがある。大人になるに従って、損得勘定で友だちを選んだり、疎遠になった仲間に連絡をとるのをためらったりするようになるのは、多くの人々にとって身に覚えのあることに違いない。でも、14歳のときには可能だったのに、大人になって同じようにできないなんてことがあるだろうか。心から望むなら私たちはいつだって14歳の頃の気持ちに戻れるのだと、この小説によって教えられた。ありがとう、小林。ありがとう、イケとらんグループのみんな。そしてありがとう、黒瀬陽さん。

 著者は、本作(受賞時の『クルンテープマハナコーン(ry』を改題)で第20回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。あとがきによれば「一度は出版の道が閉ざされた」作品だそうで、『別れ際にじゃあの〜』が我々の前に書籍の形で現れてくれたことに感謝したい。早川書房のサイトにある〈広島版スタンドバイミー〉というキーワードは、まさに本書の魅力を簡潔に表している(たぶん、ヴィジュアル的にはリバー・フェニックスやウィル・ウィートン風メンバーはいなさそうな気がするけれども)。

(松井ゆかり)

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