【今週はこれを読め! ミステリー編】みんなちがってみんないい短篇集『休日はコーヒーショップで謎解きを』

文=杉江松恋

  • 休日はコーヒーショップで謎解きを (創元推理文庫)
  • 『休日はコーヒーショップで謎解きを (創元推理文庫)』
    ロバート・ロプレスティ
    東京創元社
    1,166円(税込)
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 これ、前作より好きかも。
 だって、現時点で望みうる最高水準のミステリー短篇集だろう。
 ロバート・ロプレスティ『休日はコーヒーショップで謎解きを』(創元推理文庫)のことである。

 そして前作とは同じ作者の本邦初紹介作、『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』(創元推理文庫)だ。ミステリー作家のレオポルド・ロングシャンクス(通称シャンクス)がしろうと探偵になって数々の謎を解いていくという趣向の連作短篇集で、もちろんとてもおもしろかった。最近の翻訳ミステリーは、現代作家の個人短篇集が紹介されることが少なくなっているので、この作者を発見して東京創元社に企画持ち込みまでしてくれた訳者の高山真由美氏におおいに感謝したものである。

 今回の『休日はコーヒーショップで謎解きを』はシャンクスものではなく、独立した短篇ばかりの作品集だ。高山氏が編者も務め、作品の順番まで決めている。あとがきを読むとロプレスティはこの企画がよほど嬉しかったらしく、『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』の形式を踏襲して、各篇ごとに「著者よりひとこと」という解説を書き下ろしている。それだけではなく、順番の案まで送ってきたそうなのである。収録順はその案に配慮しつつ高山氏と編集者が相談して決めた、とのこと。楽しい作業だったろうなあ。

 金子みすゞの言葉を借りれば「みんなちがって、みんないい」。

 各篇の内容はばらばらで、しかもすべてがいい。巻頭の「ローズヴィルのピザショップ」は穏やかな空気の流れる田舎町が舞台のお話だ。メアリーとクリフの夫婦が経営するピザショップは、近くの大型チェーンに押されて閑古鳥が鳴いている。そこに現れたイタリア系の客二人、ニックと彼のボスらしい老人・ヴィンスは、店の料理を気に入って上得意になってくれる。それが呼び水になったのか、ピザショップの経営も軌道に乗り始めるのである。すべてが順調だが、メアリーたちには一つ気にかかっていることがあった。喉まで出かかっているその疑問を、どうしても口にすることができない。鄙には珍しいほど洗練された物腰のニックとヴィンスに問いたい質問、すなわち「あなたたちはマフィアなんですか」という一言を。

 舞台はピザショップの店内に限定されていて、舞台劇にでもしたら受けそうである。ミステリーとしての構成が巧みであるのは当然として、特筆したいのは二人の客の存在によって周囲の人々が元気づけられ、表情までが明るくなっていく展開があることだ。思わず笑みを浮かべながらページを繰ってしまう話の進め方で、読者を物語の中に絡め取っていく。この、起承転結を意識した構成力がロプレスティ最大の武器である。続く「残酷」は打って変わって殺し屋を主人公にした犯罪小説だが、前半と後半で話を反転させるやり方が実に巧みで、しかも一旦流れに乗ってからの加速の付け方が気持ちいい。本篇の「著者よりひとこと」には作家にとっての重要な企業秘密が明かされているので、ぜひお話に最後まで目を通した後で見てもらいたい。そしてもう一度小説を読み直すと、新鮮な発見があるはずだ。

 収録作の中にはいわゆるヒストリカル・ミステリーも含まれている。アメリカ史の一場面を切り取り、虚構を綯い交ぜにする形で物語が作られているのだ。「列車の通り道」という短篇は、馬車と鉄道が並存していた時代を舞台にしており、西部小説として読むことができる。そのころ、東部から西部に向けて孤児列車と呼ばれる便が走っていた。家族がいなかったり、親に養育能力がなかったりして天涯孤独の身の上となった子供たちが、いまだ過疎状態であった西部に送られていたのである。その歴史的事実を背景にした小説で、結末の一行が実にいい。この話と収録作では最も古い「宇宙の中心」、そして後述する「赤い封筒」の落ちが本書で私のお気に入りになった落ちだ。ロプレスティは最後の一行を書くのが非常に巧い作家だと思うが、この三篇はどれもいい。

 ヒストリカルのもう一篇、「消防士を撃つ」は1967年、世界的に人権や民主主義を求める運動が激しかった時代であり、アメリカにおいては公民権を巡って黒人と白人との間に緊張が高まっていた。マーティン・ルーサー・キングが暗殺されたのはその翌年のことである。本篇には作者自身の記憶が色濃く反映されているという。作中で重要な役割を果たす主人公の姉・ケイトのモデルは、ロプレスティの実の姉である作家、ダイアン・チェンバレンだ(『勇気の木』などの邦訳あり)。

 もっとも不思議な始まり方をするのが「二人の男、一挺の銃」で、立て籠もり犯に人質にされた男が、犯人のために三人の男が登場する物語を創作されるように強要される、という出だしからしてもうおもしろい。その閉塞的な状況がどのように打破されるのか、という密室劇への関心で読者はページを繰らされることになるわけで、私は『ノックの音が』などの一連の星新一ショートショートを連想した。もう一篇、刑事がある女性の家を訪ねてくる場面から始まる「共犯」も登場人物の会話のみでほぼ進んでいく話だが、「二人の男、一挺の銃」とは風合いがまったく異なる。

 冒頭に書いたとおり独立した短篇だけを集めた一冊である。連作じゃない短篇集大好き。もっと出ればいいのに、とは思うが、本書にはロプレスティが創造したシリーズ・キャラクターが二人登場している。一人は「クロウの教訓」の〈おれ〉ことマーティー・クロウで、私立探偵の主人公が対象を尾行しているはずの場面が意外なことになる冒頭から心を掴まれる。彼は本篇を読んだだけだとしょぼくれ探偵のイメージが浮かぶ。他の登場作ではどうなのだろうか。

 もう一篇が巻末の「赤い封筒」で、収録作中では最も分量がある。これは古典探偵小説を意識した一篇で、最後には関係者をすべて集めて「さてみなさん」と探偵が謎解きをするのである。舞台は1950年代後半のニューヨークはグリニッジヴィレッジに設定されている。ビートニク詩人が精力的に活動していた時代で、作中にもアレン・ギンズバーグなどの実名が出てくる。探偵役のデルガルドもビートニクで、そのことが話の展開上大きな意味を持つのである。物語の終盤近く、348ページで彼はあることを明かす。そこを読んで私はびっくりした。いまだかつてこういう探偵はいなかったのではないか。

 ミステリーとしての骨格が優れているのは当然として、特筆したいのは交わされる会話の見事さである。デルガルドと、彼に乗せられて探偵助手のようなことをさせられる主人公、〈ぼく〉ことトマスとの会話は見事に噛み合わない。いや、ビートニク詩人とアイオワ出身の朴訥な青年の気が合うわけがないか。その出自の違いなども絡めて、作者はもどかしい会話を構成している。また、ここの文化摩擦に関するやりとりがあるから落ちが見事に決まるのである。ロプレスティはデルガルドものの続篇を執筆中らしいが、このコンビは人気が出そうだ。

(杉江松恋)

  • 日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)
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    ロバート・ロプレスティ
    東京創元社
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