第85回:佐藤賢一さん

作家の読書道 第85回:佐藤賢一さん

中世や近世のヨーロッパを舞台にした歴史小説を中心に発表、歴史的人物を活き活きと描写し、史実の意外な裏側を見せて楽しませてくれる佐藤賢一さん。カエサルやアル・カポネ、さらには織田信長など、時代や場所を広げて執筆する一方、今月からいよいよフランス革命を真っ向から描く大作の刊行がスタート。そんな歴史のエキスパートの読書歴には、驚きがつまっていました。

その4「影響を受けた作家はカエサル」 (4/6)

カポネ
『カポネ』
佐藤 賢一
角川書店
2,052円(税込)
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カエサルを撃て (中公文庫)
『カエサルを撃て (中公文庫)』
佐藤 賢一
中央公論新社
802円(税込)
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ガリア戦記 (岩波文庫)
『ガリア戦記 (岩波文庫)』
カエサル
岩波書店
972円(税込)
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――読書生活はいかがですか。

佐藤 : そこからは書くほうが忙しくて、なかなか読めない生活が続いていますね。いけないなと思いながら。ただ、時々書評や推薦文を書いてほしいといって本が送られてくるので、そういう時は、なかなか小説が読めないなかでこの本とは縁があるのかな、と一生懸命読むようにしています。

――その後、20世紀はじめのニューヨークを舞台にした『カポネ』など、時代や場所を変えて執筆されているのは、興味に広がりが生まれたということですか。

佐藤 : 僕なりの、作家の人生計画というか。30代のうちはいろんなものに手を広げようと思ったんです。40、50代になると新しいものをやるのも億劫になると思うし、失敗もしにくい。30代のうちなら失敗しても大目に見てもらえるし(笑)、新しいことを1から始める体力や気力もあるかなと思って。ヨーロッパ史の中でも、古代史や近代史のほうに手をのばしたり、アメリカの現代史まで視野を広げたり...。

――例えば『カエサルを撃て!』を執筆された時には、カエサルの『ガリア戦記』を読まれたりしたのですか。

佐藤 : ああ、『ガリア戦記』は二度目に凝った作品というか。最初は引用するところ、使うところばかり読んでいたけれど、読むうちにだんだん自分はラテン語ができるんじゃないかという気になるんですよね。なぜかというと、非常に簡潔で分かりやすいんです。2000年ののち、何千㎞も離れた東洋の人間が読んでも不思議なくらいに分かりやすいのだから、当時の人間は本当に書かれてあることをダイレクトに感じていたんだろうなと思う。文章の力を改めて感じました。文章という面で、カエサルには影響を受けた気がします。キケロなんかを読むと、自分はなんてラテン語ができないんだろうと思うのに(笑)。

――『ガリア戦記』を、ラテン語で読まれたんですか!

佐藤 : たいがい訳がついていますから。フランスのものはフランス語の対訳がついているし、アメリカのものだと英訳文がついているし、イタリアのものはイタリア語の訳が...。もちろん日本語訳も出ていますしね。

――佐藤さんは、何カ国語に通じているのですか。

佐藤 : 英語とフランス語くらいです。ただ、スペイン語やイタリア語は、フランス語から類推できるので読めるところもある。ドイツ語も、英語の延長と思って頑張ろうと思えば読めますから。

――頑張ろうと思えば......いや、それは難しいかと。

佐藤 : それは大学院の時の経験ですね。ラテン語で中世の古文書を読むゼミだったんですが、それがイギリスの古文書なら対訳は英文だし、フランス語のものなら仏語訳だし...。どの国の何語を専攻しようが、そのゼミに出ている限り、ラテン語をやるか、訳に頼って英・仏・独の三カ国語をやるか、迫られていたので。

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