第85回:佐藤賢一さん

作家の読書道 第85回:佐藤賢一さん

中世や近世のヨーロッパを舞台にした歴史小説を中心に発表、歴史的人物を活き活きと描写し、史実の意外な裏側を見せて楽しませてくれる佐藤賢一さん。カエサルやアル・カポネ、さらには織田信長など、時代や場所を広げて執筆する一方、今月からいよいよフランス革命を真っ向から描く大作の刊行がスタート。そんな歴史のエキスパートの読書歴には、驚きがつまっていました。

その6「いよいよ大作を刊行開始」 (6/6)

革命のライオン (小説フランス革命 1)
『革命のライオン (小説フランス革命 1)』
佐藤 賢一
集英社
1,620円(税込)
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――だからこそ、今、『小説フランス革命』全10巻という直球の大作に挑んだといえるのですね。今月からいよいよ刊行スタートです。

佐藤 : フランス革命ということに関しては、ヨーロッパの1番のトピックだと思うし、ヨーロッパ史の流れが集約されている部分がある。これをきちんと書いておくことで、僕自身も、この後の人も、その後の活動がしやすいというところがある。

――どの角度からどう書くか、いろんなアプローチが考えられたと思いますが。

佐藤 : 何か切り口を設けてパッと書いて、フランス革命とはこうでした、というのではどこまで伝わるのか不安だし、そういう作品はたくさんあった。それを越えることはできるのか、作品単体ではなく、ヨーロッパのものは書きにくい、という状況を変えられることができるのか、を考え、それには質を上げないといけないし、量的にもインパクトが必要だと思った。そう思ったからといって、許されるわけではない。でも編集者に持ちかけたら「やってみましょう」と言っていただけて。そういうところでも、恵まれていると思うんです。

――三部会の召集、テニスコートの誓い...。ミラボーら歴史の授業で習った名前がたくさん出てきます。ロベスピエールといえば恐怖政治というイメージですが、こんなに誠実な好青年だとは! ちなみにフランスでも、こうした歴史小説って人気なんでしょうか。

佐藤 : 向こうでは歴史小説の時代は終わったとも言われていますね。フランスで歴史小説というと、中世のほうに興味が向いている気がします。ロマンあふれる世界として中世をとらえている印象。フランス革命は生々しくて、思い切った小説が書けないのかもしれないですね。ロベスピエールなんてどう扱っていいか分からないところがあるんです。パリに行くとミラボーやダントンらの銅像があちこちにあるけれど、ロベスピエールだけ銅像がない。今回の小説は、今の時点で未定の部分もあるし、自分でも分からないから書くところが大きいけれど、終盤になるまでの主要人物の一人がロベスピエールなんです。彼がどう変わっていくか、なんでああなってしまったのか、そこは楽しみにしていただければ。

――今回は一気に2巻を刊行、今後は3月と9月に1巻ずつ刊行されていく予定。長距離走となりますね。

佐藤さん写真

佐藤 : この連載を始めてから、5キロくらい痩せました。

――"革命痩せ"ですか! 10巻刊行するまでにどんなことに...。そんな状況では、ますます読書から離れてしまいますね。

佐藤 : 読むことは読みます。文芸誌が送られてくるので、そこからぱっと読める純文学などを読んでいますね。『すばる』に載っている荻野アンナさんの『殴る女』の連作が面白い。歴史小説を書いていると、大きいことを言う時には言わざるをえない。なんだか自分でも無理しているな、格好つけているな、と思っても書かざるをえない時がある。そういう時に、そうではない、等身大のものをパーッと出されると、ハマってしまうことがありますね。

――ご自身が、歴史から離れたものを書く可能性はありますか。

佐藤 : 今のところは考えていないです。

――30代が視野を広く、ということが課題だったとすれば、今年40歳を迎えられた今、40代の展望は。

佐藤 : 30代でやったことを肥やしにして、40代は濃い作品を描いていきたい、という気がしています。まだ技術的にも最高傑作を書くつもりはなくて、荒削りで完成していなくてもいいから、力のあるものを書いていきたいですね。

(了)