第91回:柴崎友香さん

作家の読書道 第91回:柴崎友香さん

ふと眼にした光景、すぐ忘れ去られそうな会話、ふと胸をよぎるかすかな違和感。街に、そして人々の記憶に刻まれていくさまざまな瞬間を、柔らかな大阪弁で描き出す柴崎友香さん。本と漫画とテレビを愛する大阪の少女が、小学校4年生で衝撃を受けたとある詩とは? 好きだなと思う作家に共通して見られる傾向とは? 何気ない部分に面白さを見出す鋭い嗅覚は、なんと幼い頃にすでに培われていた模様です。

その2「コクトーの衝撃」 (2/6)

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――いいなあと思う表現は、その後どんなものがありましたか。

柴崎 : 小学校4年のときに教科書に載っていた、ジャン・コクトーの詩が衝撃的でした。「シャボン玉の中には 庭は入れません 周囲(まわり)をくるくる回っています」という、たった3行の詩。それに感動して、先生にこれがいかに素晴らしいかってしつこく言っていた気がします(笑)。私はわりと、現実的な子供だったんです。サンタクロースがいるって言う子が不思議でしょうがないくらいで、子どもらしくないなと思ってた。だから『一年一組せんせいあのね』を読んで、発想の自由さを羨ましいと感じていたんだと思います。コクトーの詩は、3行だけで、シャボン玉ではなくてまわりの世界が回るというふうに、世界を変える表現ができることに感動しました。こんなに短い、子供にも分かる言葉で、こんなに格好いいことができるんだ、って。その気持ちはずーっとあって、自分もそういうことをやってみたい、という気持ちが自分の基礎、自分の原動力になっている。そのときはコクトーが誰だかも知らなくて。ずっと後になって、すごい人なんだと知りました。

――ではそのままコクトーを読み漁ったりしたわけではなく。

柴崎 : 図書室に本もなかったですし(笑)。当時は図書館にあったルパンやホームズや江戸川乱歩を読むことが楽しみでした。週に一度の図書の時間に本を4冊借りることができるんですが、その日のうちに全部読んでしまう。だからはやく次が借りたいっていつも思っていました。図書委員になってPTA用の本棚のも勝手に読んだりしてました。

――自分でも書いていたというのは。

柴崎 : だいたい授業中にノートに書いたり、テストの時間に解答用紙の裏に書いたり。それは小学校から高校生までずっと。漫画も本当に好きだったので、漫画を描いたり、絵を描いたり、文字を書いたり。

――ああ、じゃあ何かをまとめてノートに綴るという感じではなかったんですね。日記をつけたりはしなかったのですか。

柴崎 : 私はすごい三日坊主なので(笑)。まったく根気がなくて、1回も続いたことがなくて。夏休みの宿題の日記も、8月30日くらいにまとめて書くので捏造ばかり(笑)。何の本を読んだかぐらい、忘れてしまわないように書き留めておこう、とは思うんですが、新しいノートに3回くらい書いて終わってしまう。後半は真っ白、というノートが山積みです。今に至っても改善されていない(笑)。ネタ帳みたいなものを作ろうと思っても、続かないんです。

――漫画はどのようなものを読んでいたのですか。

柴崎 : 小学生の頃が、『少年ジャンプ』の黄金期だったんです。『ドラゴンボール』『北斗の拳』『キン肉マン』とか。学校に行ってもみんな『ジャンプ』の話ばかりで「ジャンプ放送局」の小ネタまで必死に読んでいました。土曜日に町の米屋さんで早売りしていたりするので、そうした店を探し歩いて並んで買っていました。少女漫画は『りぼん』から入って『マーガレット』。手塚治虫や昔の少女漫画も好きだったし、とにかくなんでも読んでました。

――では、小学生時代の柴崎さんを形作っていたのは、本と漫画とそして...。

柴崎 : テレビです。テレビの話は誰にも負けない(笑)。アニメもドラマも何でも好きでした。水曜日に『Dr.スランプ』や『うる星やつら』が放送されていたので、水曜日は楽しい日(笑)。曜日はテレビ番組で覚えていました。学校から帰って3時くらいに放送されている時代劇も見ていました。『暴れん坊将軍』、『遠山の金さん』、一番好きだったのは『大岡越前』。小学校5、6年生の頃だったと思うんですが、『大岡越前』に人を斬らない回があったんです。誰かが見栄をはって嘘をついて騒動が起きて、それを収めるだけの話。時代劇でも人を斬らずに話が成立するんだ、これはすごい、と思った記憶があります。他にはクイズ番組も見たし...。ヘンな番組を覚えているので、よく「年をごまかしてない?」って聞かれます(笑)。『ハングマン』や『必殺仕事人』は結構遅い時間に放送されていましたが、布団の中から見ていたし。あとは大映ドラマ。『不良少女と呼ばれて』や『ヤヌスの鏡』ですね。ノンジャンルで、とにかくテレビでやってるものなら見てました。歌番組も、必死で見ていたせいか、記憶が濃いです。

――当時は録画予約なんてできなかったし。

柴崎 : ビデオがないので一回にかける気合が違うんですよね(笑)。流行の歌も覚えたいので、テレビの前にテープレコーダーを置いて。アニメ主題歌なんかも録音していたので、今も異常に歌えます。

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