作家の読書道 第91回:柴崎友香さん

ふと眼にした光景、すぐ忘れ去られそうな会話、ふと胸をよぎるかすかな違和感。街に、そして人々の記憶に刻まれていくさまざまな瞬間を、柔らかな大阪弁で描き出す柴崎友香さん。本と漫画とテレビを愛する大阪の少女が、小学校4年生で衝撃を受けたとある詩とは? 好きだなと思う作家に共通して見られる傾向とは? 何気ない部分に面白さを見出す鋭い嗅覚は、なんと幼い頃にすでに培われていた模様です。

その1「20年以上ぶりに再会した一冊」 (1/6)

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――本に関する一番古い記憶を教えてください。

柴崎 : うちの父親が本担当といいますか、いつも読んでくれていたんです。『えばなしのほん』という、絵より字が多めの、1ページずついろんな話が入っている本があて、それをいつも読んでくれていました。弟と一緒に聞いていたので、その話が通じるのは弟だけだったんですけど(笑)、「トラックとらすけ」とか「ちらかしくん」という話があって。「ちらかしくん」だったら靴下を脱いだら脱ぎっぱなし、というようなことが書かれてありました。子供が散らかさないようにするための話なのに、私も弟も見事に散らかすタイプになって「一生懸命読んだのに、片付けをするようにはならなかった」ってよく言われていました(笑)。2年くらい前に、私がよく行っていた大阪市の中央図書館で福永信さんと対談をする企画があって、その本を話をしたんです。そうしたら対談の間に図書館の人が書庫で探してくれて、後から「これですか」って持ってきてくださって。「あー、これ!」と、20年以上ぶりに再会しました。そうしたら他の話もものすごく覚えていて。自発的に思い出していたのは「トラックとらすけ」と「ちらかしくん」でしたが、他の話も絵も異常に覚えていて感動しました。猫が歯磨きをする話の絵を見て「この猫のことを私はすごく知っている!」って(笑)。なんで今まで思い出さなかったんだろうと思いました。

――本好きの子供でしたか。

柴崎 : 好きなほうでした。基本的にアウトドアがダメなんで。びっくりされるくらい運動神経が鈍くて、体力もない。喘息だったというのもありますが。インドアな子供で、人と遊ぶよりも本を読んだりテレビを見たり。父親が本好きでいろいろ買ってきてくれたので、それを読んでいました。

――では、その後に読んだ本というと。

柴崎 : 小学校に行くか行かないかくらいの頃に父親が買ってきた『一年一組せんせいあのね』という、生徒が書いた詩の本が好きでした。灰谷健次郎さんなどが編者で。『たいようのおなら』という子供が書いた詩の本もすごく好きだった。その頃から結構「ああ、この子はうまいなー」「やるなー」とか思っていたのを覚えています。自分もお話を作ったりしていましたし。詩のなかに、確かお母さんが病気で参観日に来られなかった内容があって「おかあさんがびわきできょうは~」という、字を間違えて書いているものがあったんです。その詩がよかったということを作文か何かに書いて、戻ってきた先生のコメントを見たら、最初に「びわき」を「びょうき」と訂正してあって、でもその後で先生も「これはそのまま書き写して引用したものだ」と気づいたようで、訂正部分がさらに訂正されていて(笑)。それをすごく覚えている。私は、この間違えている部分がいいんだよって思っていたので。その頃から、すごく言葉の表現に心惹かれるものがあったというか、「こういう風に表せるんだな」と思わせるものに興味があったみたいですね。

――ずい分客観的に読むことのできる子供だったんですね。

柴崎 : なぜか、間違っているのがいい、なんて思ったりしていたんですよね。でも、素直に感動してたからこそ、対抗意識が湧いたんだと思いますよ。夏休みには何冊読むと自分で決めて、そのときに読んだ『ホンジークのたび』という、男の子が旅する話もよく覚えています。灰谷健次郎さんの本もいろいろ読んでいて『兎の眼』や「ワルのポケット」が好きだった。大阪弁で子どもの話なので身近に思えましたし。

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プロフィール

1973年、大阪府生まれ。作家。『きょうのできごと』で2000年にデビュー。著書に『青空感傷ツアー』『ショートカット』『その街の今は』など多数。