第92回:誉田哲也さん

作家の読書道 第92回:誉田哲也さん

『ジウ』や『ストロベリーナイト』シリーズといった女性が主人公の警察小説が大ヒット、と同時に剣道に励む対照的な2人の女子高生を描く青春小説『武士道シックスティーン』シリーズでも人気を博している誉田哲也さん。バンド活動を続け、自分で作詞作曲もしていたという青年が、小説を書き始めたきっかけとは? ラジオで耳にし、その後の創作にも影響を与えた本とは? 意外なエピソードがたっぷりです。

その4「執筆のルール」 (4/7)

百舌の叫ぶ夜 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
『百舌の叫ぶ夜 (百舌シリーズ) (集英社文庫)』
逢坂 剛
集英社
648円(税込)
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ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫)
『ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫)』
誉田 哲也
中央公論新社
720円(税込)
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――そうして小説を書いて、応募もして。

誉田 : ただ、送っても一次も通過しないんですよね。一次を通過しないと何が悪いかも分からないので、友達に読んでもらうんです。いい友達を持ったなと思うんですが。それと、警察について勉強しているときに読んだ逢坂剛さんの『百舌の叫ぶ夜』。そのあとがきに、視点を意識することについて書かれてまして。逢坂さんはそのことをほうぼうでおっしゃっているんですが、それを読んで、ああそうか、こういうところができていなかったな、と。それからは視点を意識して書くようになりました。執筆の作法に関しては、逢坂さんからの影響はものすごく大きいですね。作風や雰囲気での影響というと、きっと夢枕獏さんや菊地秀行さんがベースとなっていると思いますが。

――誉田さんの小説は多視点から描かれてあって、それがすごく出来事を立体的に見せて面白いですよね。

誉田 : 一視点であれば、まあ気をつけていればブレない。でも2つ3つの視点が出てきて、この人とこの人が同じ事柄について語るとなると、ついブレがちなんです。そういうものを完全に分けて書かなければいけないな、ということは思いました。まあ、一人の視点で一節も必要ないこともたまにあって、3人くらいの視点を持ちまわりにすることもあるんですが。逢坂さんは視点を切り替えるなら行をあけてアスタリスクを入れるなりの配慮をしたほうがいいということを書かれていて、『ジウ』あたりではそんなこともしましたね。

――多視点で出来事を追っていくとなると、事前にプロットを丁寧に作られるのですか。

誉田 : エクセルで縦に節を、横に登場人物をおいて、何節に何々...とあらすじを短く書き込んでいきます。それがプロット表。ちょっと前までは、2000字のあらすじを書いて、それで説明可能かどうかをはかってから、5章くらいに切って、1章を5節くらいに切、25から30節くらいのプロット表を作っていました。登場人物表があって、プロット表があって、カレンダーがあって...。何日前とか何曜日、というのを後から検索するのが面倒くさいので、カレンダーにこの日誰々と会った、ということを書き込んでいくんです。実際のものではなく架空の年号があって、それでザーッと年表を作っていくので、シリーズものはそれがどんどん増えていく。

――2000字で梗概を作ることができないとダメですか。

誉田 : 簡単に言うとそうですね。人物に関する説明や細かい資料は含みませんが。ストーリーの中で何が重要で何が重要ではないか、という太い芯のところが見えてくるので。

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