第92回:誉田哲也さん

作家の読書道 第92回:誉田哲也さん

『ジウ』や『ストロベリーナイト』シリーズといった女性が主人公の警察小説が大ヒット、と同時に剣道に励む対照的な2人の女子高生を描く青春小説『武士道シックスティーン』シリーズでも人気を博している誉田哲也さん。バンド活動を続け、自分で作詞作曲もしていたという青年が、小説を書き始めたきっかけとは? ラジオで耳にし、その後の創作にも影響を与えた本とは? 意外なエピソードがたっぷりです。

その6「女性を書くということ」 (6/7)

国境事変
『国境事変』
誉田 哲也
中央公論新社
1,728円(税込)
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――それにしても、女性主人公のものが多いですね。しかもみんな魅力的です。

誉田 : そういっていただけると嬉しいです。最初は不安だったんです。結果的に女性主人公が多くなったのは、そういう注文が多かったからなのですが(笑)。でも、自分でも書いていて面白かったかな。曲につけた歌詞を女性口調にすると演歌になってしまう。小説は悦におかしなことにはならないので、小説って面白いなあ、という気持ちはあったかも。でも、こだわりはないんです。こういう物語を書こうと思ったときに、ふさわしければ女性でいきますし。でも『国境事変』はほとんど男しか出てこなくて、あそこまで女性が少ないと書くのがつらいんですよね。ものすごく疲れるんです(笑)。固まっていないコールタールの中に半身埋まって歩いていくような感覚がある。できあがってみてみると、執筆のペースは悪くないんですけれど。

――女性も男性も、キャラクターを書き分けますねえ。脇役まで、個性が際立っている。

誉田 : キャラクター表を作っているからですかね。あまり自分ではキャラクターを作りこんでいかないんですよ。でも、何か出会えるような瞬間があるんです、書き始める前に。執筆自体は、その人が考えるであろうこと、言うであろうこと、するであろうことをできるだけ丁寧に汲み取ってあげる、ということですね。

――女性作家は読みますか。参考にしたりすることはあるのでしょうか。

誉田 : 読みますよ、森絵都さんとか、宮部みゆきさんとか、桜庭一樹さんとか。でも参考にするということはないです。あまり女性だから、とは思っていないんです。

――でも、姫川玲子の過去の事件などは、女性としては非常につらい体験だったと思うのですが。

誉田 : でも、自分の彼女であったり妹である人がそういう目にあったら、やっぱりつらいですよね。あまり相手が女性だからとか、年くってるからとか、子供だからとか、そういうことで分かる分からないを考えることはないんです。同性でも理解しあえない人もいるし、異性でも理解しあえる人はいる。ただ、いわゆる男らしさといわれているものって、社会の要請で作られたものだと思うんですね。今いわれている女らしさというのは、社会が構築した男らしさの裏返しという意味での女性らしさであって、本来ある女性の意味とはズレがあると思います。本来は、女性というのは社会がなくても女性でいられると思う。根本的な女性の部分、社会的な女性の部分というのはギャップがある。それは見ていれば分かりますね。

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