第92回:誉田哲也さん

作家の読書道 第92回:誉田哲也さん

『ジウ』や『ストロベリーナイト』シリーズといった女性が主人公の警察小説が大ヒット、と同時に剣道に励む対照的な2人の女子高生を描く青春小説『武士道シックスティーン』シリーズでも人気を博している誉田哲也さん。バンド活動を続け、自分で作詞作曲もしていたという青年が、小説を書き始めたきっかけとは? ラジオで耳にし、その後の創作にも影響を与えた本とは? 意外なエピソードがたっぷりです。

その7「新作について」 (7/7)

武士道シックスティーン
『武士道シックスティーン』
誉田 哲也
文藝春秋
1,594円(税込)
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ガール・ミーツ・ガール
『ガール・ミーツ・ガール』
誉田 哲也
光文社
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――日常のサイクルを教えてください。読書の時間はありますか。

誉田 : 9時くらいから6時半くらいまで書いています。12時から13時くらいまでがお昼休み。執筆している間は、ほとんど他の本は読みません。ほとんど書いていますね。何かが終わって、次に入る前にはその資料を読む。あとは気になった作家さん、読んでおきたい作品は時間を作って読むこともあります。最近だと『悼む人』なんかは読んでおかないと、と思って読みました。話題になるとあらすじが耳に入ってくる。悼んで歩く人、という設定をどう小説にしていくんだろう、と興味を持ちました。読んでああそうか、と思いました。ちょっと小耳にはさんだ内容を、どう展開させて、どう回収するんだろう、と思わせるものは気になりますね。映画でも予告編を見て、これをどう説明していくんだろうと思って観にいくことがある。それで何の説明もなかったときの落ち込みようといったら(笑)。設定だけ考えるなら誰でもできるけど、それを作品にしようというGOサインを一体いつ出したんだろうと思う。

――ご自身では、GOサインを出すきっかけはいつですか。

誉田 : いろいろです。剣道をしている女子中学生を見てイケると思うときもあるし。でも正直『武士道シックスティーン』は、こんなの面白いのかなと思って書きました。人も死なないし。誰かぶっ殺したほうがいいのかと...。

――それはやめてください! あんな名作青春小説をっ!! 新刊の『ガール・ミール・ガール』も青春音楽小説といえる作品。『疾風ガール』の天才ギタリスト、夏美ちゃんがまた登場します。

誉田 : 刊行から時間が経って、Webでの連載のお話をいただいたときに、じゃあ続編を、ということになりまして。ただ、夏美の成功物語を書くのは簡単だけれども、それは面白くない。自慢話みたいで嫌だなって思っていました。ああ、その前に短編もあるんです、スピンオフの。「恐怖の夏合宿」っていう(笑)。新潮ケータイ文庫にホラサスの受賞者全員がホラー短編を書くという企画があって、そのときに女性読者が多いので首が飛ぶ話でなくていいと言われ、じゃあスピンオフみたいな形で夏美シリーズでいきましょう、ということになり。夏美がデビュー曲の詞が書けなくてイライラしているときに、ラジオの仕事で何か怖い体験のエピソードはないかと祐司に聞かれ、そういえば薫が生きている頃にみんなで合宿をしていて不思議なことがあった...と語る。それがデビュー直前の話だったので、次はデビューにつながるものというイメージはありましたね。

――タイトルから分かるように、夏美がある女の子と出会う。それが、例のあの子なんですよね。

誉田 : それはもう。どこかで必ず会いますから、どーんと会わせようと思っていました。

――ここでも、対照的な二人の女の子の友情と成長が読ませました。夏美の話は今後シリーズ化していくのでしょうか。

誉田 : 夏美の成功を書きたいわけではないので...。次は落ち目になっているかもしれません。デビューは過去の栄光になっているかも(笑)。

――そんなあ(笑)。では、今後の刊行のご予定は。

誉田 : 7月に『武士道エイティーン』が文藝春秋から刊行されます。脇役だった人たちそれぞれの18歳の頃の短編を埋め込みつつ、香織と早苗がインターハイのクライマックスを迎えます。9月に徳間書店さんから出すのは単発の警察小説で、これは視点人物が全員男性です。でも一応女性も登場する。書く際には、それがずい分潤滑油になりましたね(笑)。

(了)