作家の読書道 第97回:越谷オサムさん

一作ごとにまったく異なる設定で、キュートで爽やかなお話を発表している越谷オサムさん。新作『空色メモリ』は、地味だけど愛らしくて憎めない高校生の男の子2人が探偵役として活躍。そんな発想はどこから生まれるのか。辿ってきた読書道は、まさに男の子っぽいラインナップ。そして小説の執筆に至るまでの、意外な遍歴とは?

その1「兄の本棚から本を選ぶ」 (1/6)

  • ぽっぺん先生と帰らずの沼 (岩波少年文庫)
  • 『ぽっぺん先生と帰らずの沼 (岩波少年文庫)』
    舟崎 克彦
    岩波書店
    3,480円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 冒険者たち――ガンバと十五ひきの仲間
  • 『冒険者たち――ガンバと十五ひきの仲間』
    斎藤 惇夫
    岩波書店
    1,944円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

――越谷さんは越谷在住とのことですが、ずっと越谷にお住まいなのですか。

越谷:生まれは足立区の北千住のほうです。でも1歳で越谷に引っ越しました。

――幼い頃はアウトドア派でしたか、それともインドア派でしたか。

越谷:インドアだとは思うのですが、そうはいっても今の子供に比べたらよっぽど外で遊んでいたと思います。家の前の道路で遊んでいても、文句を言われない時代でしたから。

――幼い頃の読書体験といいますと。

越谷:お話の本よりも、図鑑の好きな子供でした。特に鉄道図鑑。全20巻くらいある図鑑のなかで、鉄道図鑑だけがボロボロになっていましたね。お話が書かれてある本を読むようになったのは、小学校4年生くらい。『ぽっぺん先生と帰らずの沼』という児童書を最初から最後まで読んだあたりからだと思います。先生が何かのきっかけでウスバカゲロウになってしまって、食物連鎖をたどっていくんです。ウスバカゲロウだった先生が、魚に食べられると魚になっちゃって、魚がカワセミに食べられるとカワセミになって、きれいなメスのカワセミとつがいになってこのままでも悪くないなと思っていたらイタチに食べられて...という。かなり教育的かつ面白い内容でした。

――それを手にするきっかけは何だったのでしょう。

越谷:うちは兄と姉がいまして。どちらかの所有物だったんだと思います。家でヒマをもてあましていた時に読んだんだったと思います。

――それまで本には興味はなかったのですか。

越谷:本を読むという発想がなかったんですね。でも『ぽっぺん先生』でハードルが下がったように思います。学校でも本を読め読め言われるし、読書の時間があったりして、それで星新一さんを読むようになりました。最初に読んだのが、確か『悪魔のいる天国』。そこからハマりましたねえ。上の兄とは8歳離れているので、僕が小学校5年の時には18、9歳なんです。もう文庫本を持っているわけですね。そこから選んで読んでいました。あと、星さんと並行して小学校高学年で読んだ、斉藤惇夫さんの『冒険者たち ガンバと十五ひきの仲間』がめちゃくちゃ印象に残っています。熱い男の世界を、ねずみたちが演じるという。これも家の本棚にありました。

――本を読みなれていない子供にとっては、ぶ厚く思えたのでは?

越谷:そのぶ厚さに惹かれたんです。これを読めたらレベルがあがるぞ、という(笑)。

――レベルはあがりましたか(笑)。

越谷:そのはずなんですが、高校の3年間は何も読まなかったですね。中学時代で一番覚えているのは、中2の時、夏休みの読書感想文か何かの課題図書のリストが記されたプリントをなくしてしまって。どうしようかと思って本屋さんに行って、筒井康隆さんの『おれの血は他人の血』という、超絶バイオレンス小説を選んでしまったんですね。ヒロインがローラー車でひき殺されるっていうような話。あれは軽くトラウマになりました。結局、感想文は書けませんでした。中学生がこういう本の感想文を提出すると、心理カウンセラーみたいな人がきちゃうかもと思って(笑)。あとは筒井さんが編者となっている『異形の白昼』も。小松左京の「くだんのはは」や筒井さんの「母子像」が載っているアンソロジーです。これは中学生にとってはすごく恐かった。

――筒井さんにハマったわけですか。

越谷:結構読みました。でも中学生にははやいかなと思う作品もありました。『農協月へ行く』なんかも、うちの兄の世代ならもっと面白いんだろうなと思いながら読みましたね。

――漫画やアニメなどでは、好きなものはありましたか。

越谷:漫画は『週刊少年ジャンプ』を読んでいました。『キン肉マン』や『シティーハンター』、『魁!!男塾』などが連載していた頃だったで。

――ほかに、夢中になっていたものというと。

越谷:夢中というか、部活でブラスバンドをやっていたんです。生徒は全員何かしらの部活に入りなさい、という管理教育全盛の時代だったので。そんなに興味があったわけじゃないけれど、でも入ったら続いてしまったという。それに時間をとられちゃっていました。僕はトロンボーンをやっていました。部活に出て家に帰ったら、テレビを見てご飯を食べて寝るだけ。

――越谷さんには『階段途中のビッグ・ノイズ』という、軽音楽部のお話の著作がありますよね。音楽好きというわけではなかったのですか。

越谷:部活に入ってから音楽は好きになりました。部活の友達から「POLICE」が格好いいなんていわれて、よさが分からないまま「そうだよね」なんて言いつつ(笑)。バンドの経験はまるっきりないです。吹奏楽の友達がバンドを組んでいたので、ちょっとベースをいじらせてもらったことがあるくらい。

» その2「教科書でエッセイの面白さを知る」へ

プロフィール

作家。2004年、デビュー作『ボーナス・トラック』で第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞。最新作に、『空色メモリ』(東京創元社)がある。