第97回:越谷オサムさん

作家の読書道 第97回:越谷オサムさん

一作ごとにまったく異なる設定で、キュートで爽やかなお話を発表している越谷オサムさん。新作『空色メモリ』は、地味だけど愛らしくて憎めない高校生の男の子2人が探偵役として活躍。そんな発想はどこから生まれるのか。辿ってきた読書道は、まさに男の子っぽいラインナップ。そして小説の執筆に至るまでの、意外な遍歴とは?

その6「一作ことに小さなチャレンジを」 (6/6)

太陽の塔
『太陽の塔』
森見 登美彦
新潮社
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――最近読んで面白いと思う作家は。

越谷:森見登美彦さんには嫉妬しますね。私が言えた立場じゃないんですが。日本ファンタジーノベル大賞を僕の前年に取っていたんですが、特に受賞作をチェックするわけでもなかったんです。でもその後『太陽の塔』を読んでみたら、めちゃくちゃキュートで。ゴキブリキューブをなんでこんなに可愛く書けるんだろう、っていう(笑)。

――越谷さんの作品もキュートですよね。自作でのこだわりというのは...。

越谷:うーん。...自分の本の話になるととたんに固まってしまう(笑)。

――著作インタビューの時大変ではないですか(笑)。

越谷:はあー、とか、まあーとか言うのをなんとか原稿にしてもらっています。

――物語の発想は何がきっかけなんでしょうね。

越谷:なんだろう。はすむかいの家の屋根に猫が同じ姿勢でずっと座っているのを見た時に話がぽーんと生まれたり。

――ほお。先ほどバンドの経験はないということでしたが『階段の途中のビッグ・ノイズ』という青春バンド小説を書かれたりする。経験のないものを書くというのは。

越谷:専門的なことは勉強するしかないんですが、それが面白かったりするんですよね。それに、例えばサーフィンをやっている人でも漆塗りをやっている人でも、ぶつかる壁というのは人間関係の難しさだったりと、わりと同じようなものだと思うんです。

――取材はするのですか。

越谷:モデルとなるロケーションがあるなら行きます。片手にデジカメ、片手に地図帳を持って。平日の昼間から小学校のまわりをウロウロしているのに、なぜか一回も職質をされたことがない。明らかに怪しいんですけれど(笑)。でも、おまわりさんってかなり頻繁にパトロールしているんだなということは発見しました。

空色メモリ
『空色メモリ』
越谷 オサム
東京創元社
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――新作『空色メモリ』は、文芸部の高校生の男の子たちが、女の子を助けようと奮闘する青春小説。そこに別の問題が絡んできたりして。この物語の出発点は。

越谷:高校のバンドものを書いた時、ひとつふたつ欠けているものがあるなと思ったんです。「ビッグ・ノイズ」の彼らは、物語が始まった時点ですでにやりたいことを見つけている。でも自分が高校の頃にやりたいことを見つけていたかというと、そんなことはなかった。じゃあ、やりたいことがないという子たちの話を書かないと不公平だと思って。あと、「ビッグ・ノイズ」は4人のメインキャラがいたんですが、デブが一人もいなかった。これは不公平だろう!と思ったんです。あとメガネの子も、巷にこんなにあふれているのに一人もいなかった。なのでデブとメガネが主人公でいこうと思ったんです。あとは、自分はミステリーには向いていないと思っていたんですが、ミステリーっぽくして、という要望があった時、苦手分野があるのも困るなと思って、できる範囲でミステリーにしてみます、と返答して...。

――主人公の男の子二人がとっても愛らしい。それに探偵役として、ステキな働きをする。

越谷:冴えない子がそんなに大きくは変わっていないので、すごく好きなんです。「ビッグ・ノイズ」ももともとは、高校生というよりは加藤先生という、ダメなメガネの先生を書きたい、というところに最初のアイデアはあったんです。

――若い主人公たちを書かれる印象があるのですが。

越谷:自分よりも年をとっている人を書くのは躊躇があるんですよね。例えば20代の人が書く30代の男の話を読むと、「.........」となることがある(笑)。つまり僕が年上の男の話を書くと、40、50代の人に読まれる時に、どうなのかっていう。まあ、書きます。まだ先ですけれど、数えで42歳、厄年の男の話を書く予定です。先のばしにしていると、その年齢に追いついてしまうけれど。今書いている高校生の女の子の話の次に書こうかと。

――また新しいチャレンジなわけですね!

越谷:自分が書きたいものしか書けないので、あまり特別なことをしようとは思っていないんです。ただ、地味なところで挑戦をしていますね。結婚していないのに新婚の二人を書いたり、ギターを弾けないのにバンドの話を書いたり、女の子を主人公にしたり。一作ごとに新しいことはやっていこうと思っています。

(了)