第97回:越谷オサムさん

作家の読書道 第97回:越谷オサムさん

一作ごとにまったく異なる設定で、キュートで爽やかなお話を発表している越谷オサムさん。新作『空色メモリ』は、地味だけど愛らしくて憎めない高校生の男の子2人が探偵役として活躍。そんな発想はどこから生まれるのか。辿ってきた読書道は、まさに男の子っぽいラインナップ。そして小説の執筆に至るまでの、意外な遍歴とは?

その3「男の子が辿る読書道の王道」 (3/6)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)
『深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)』
沢木 耕太郎
新潮社
464円(税込)
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青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)
『青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)』
芦原 すなお
河出書房新社
529円(税込)
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階段途中のビッグ・ノイズ
『階段途中のビッグ・ノイズ』
越谷 オサム
幻冬舎
1,620円(税込)
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深夜の弁明 (講談社文庫)
『深夜の弁明 (講談社文庫)』
清水 義範
講談社
596円(税込)
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――大学生時代は読書家でしたか。

越谷:まわりにくらべればそうですね。何かしら文庫は持ち歩いていました。でも、文学青年ではなかった。読むものは本屋で選んでいました。高校の教科書でエッセイを面白く読んだ影響で、椎名さんのエッセイを読み、椎名さんが好きだと開高さんにいくわけで。『オーパ!』や『フィッシュ・オン』などを読みましたね。あとは中島らもさん。ちょうど『ガダラの豚』が出た頃でした。文庫ばかり買っていたけれど、これだけは文庫落ちするまで待てなくて、思い切った気持ちで単行本を買った記憶があります。沢木耕太郎さんの『深夜特急』もこの頃。きっとどこか遠くに行きたかったんでしょうね(笑)。いとうせいこうさんの『からっぽ男の休暇』を愛読していたということからも、素晴らしくどこかに行きたがっていたと分かる(笑)。南の島で長期の休暇を取っている男が、退屈しのぎに童話を思い出そうとするけれど思い出せず、元ネタからずれてどんどんヘンな話になっていくんです。

――大学生くらいの男の子が憧れそうな人たちを...。

越谷:本当に丁寧になぞっていましたね(笑)。自覚はなかったのですが、昨日、明日はインタビューだと思って思い返していたら、わりと正しい道を歩いていたことに気づきました。

――まわりの人と本の話はしませんでしたか。

越谷:いえ、若者はつねに活字とは離れているものですから。活字とは別のところにいる。でも、若者の活字離れはよく言われることですが、アンケートをとると中高年のほうがよっぽど離れているみたいですね。ただ、僕の学生時代は確かに、まわりは本を読んでいなかった。そういえば、大学の帰りに友達に本屋に寄ろうと言われてついていったら、ラノベのコーナーに行ったんですよ。それに衝撃を受けました。同世代ではあるけれど、新しい人たちが出てきたと感じました。それまでパステルカラーの背表紙のものを読むのは、中高生くらいまでだと思っていたんです。ちょうど、ラノベの対象年齢が上がってきた頃だったんだと思います。今は大学生でも『涼宮ハルヒの憂鬱』を当たり前のように読んでいますよね。そのはしりの世代だったのかなと思います。

――越谷さんは、小説はほかにどのようなものを。

越谷:スティーヴン・キングは当然読んでいました。『青春デンデケデケデケ』を読んだのもこの頃。これは自分がバンド小説『階段の途中のビッグ・ノイズ』を書き終わるまでは封印していました。絶対に影響を受けちゃうと思って、好きな作品ですが二度目は読まずにいました。『帝都物語』を読んだのも大学生の頃。『遠い海からきたCOO』は、ちょうど映画が公開された時期に書店で平積みされていたので読みましたね。清水義範の『深夜の弁明』も好きな作品がつまっていて。「乱心ディスプレイ」という短編は、コンピュータのヘルプ画面の話なんですけれど、「姿勢は正しいですか?」なんていうことを聞かれていくうちに、だんだんディスプレイが強気に出てくるんです。これも活字で笑っていいんだということを教えてくれた本。笑っていいと教えてくれた御三家が椎名誠さん、中島らもさん、清水義範さんだといえますね。

――よく引き当てましたねえ。

越谷:それほど選択肢もなかったんじゃないかなと思います。若者向きの本といっても、彼女がいてセックスもしてでも満たされなくて憂鬱、というような内容のものを外すと(笑)、こうなってくる。別役実さんの『虫づくし』も、当時すでに古い本だったんですが、虫についての考察で、序文からしてふざけまくっていて。虫とはなんぞやという論考を真顔でやって笑わせる。だってさんざん語った後でたどり着いた結論が「虫とは虫である」ですから(笑)。ちなみに、『からっぽ男の休暇』は今、手に入らないんですよ。でもぜひ復刊してほしい。

――この頃は、文章を書くということはまったくしていなかったのですか。

越谷:改まった気持ちで書こうとは思っていませんでした。高校の頃、日直は日誌を書かなくてはいけなかったんですが、みんな1行くらいしか書いていないのに、僕だけびっしり書いていましたね。笑いを入れたりして。でも文章を創作するという意識はなかったと思います。あとは、大学の頃のテストで、何も分からないという考察をだーっと書いていたりして。もちろん不可でしたが(笑)。

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