第97回:越谷オサムさん

作家の読書道 第97回:越谷オサムさん

一作ごとにまったく異なる設定で、キュートで爽やかなお話を発表している越谷オサムさん。新作『空色メモリ』は、地味だけど愛らしくて憎めない高校生の男の子2人が探偵役として活躍。そんな発想はどこから生まれるのか。辿ってきた読書道は、まさに男の子っぽいラインナップ。そして小説の執筆に至るまでの、意外な遍歴とは?

その2「教科書でエッセイの面白さを知る」 (2/6)

大和路・信濃路 (新潮文庫)
『大和路・信濃路 (新潮文庫)』
堀 辰雄
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――高校生になってからも、ブラスバンドを続けていたのですか。

越谷:2年の終わりぐらいまで続けていて、ますます時間をとられるようになって。本を読んだ記憶はないです。でも、教科書は覚えているんです。エッセイのいいものが載っている教科書だったんです。開高健さんの「ウグイスが答えてくれた」というエッセイや、堀辰雄の「大和路」とか。谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』もあった。

――何か、心に響いてくるものがあったんですね。

越谷:「大和路」は堀さんが唐招提寺を訪ねて、夕方、日が暮れた頃に柱に触ってみたら、昼の暖かさが柱に残っていたという。その感触が僕にも伝わってきたんです。今読み返すとごく簡潔に書いてあるだけなんですけれど、手触りや木の匂いが感じられた。そこに、心ひそかに感動したんです。高校生の頃って、そういうことを素直に表には出さないけれど。開高さんも臨場感がありますよね。谷崎も、高級割烹で燭台の光だけで見る器が美しい、明るい光の下で見る西洋食器は薄っぺらい、というような主張に、なるほどと思えて。

――いい教科書にめぐりあえましたねえ。

越谷:自宅で娯楽として教科書を読んでいました(笑)。本屋さんにも通ったけれど、買うのは本ではなくて音楽雑誌や漫画ばかり。部活をやめた後は、受験勉強のためという名目だったのに、ファミコンというものが全盛期だったので、それを熱心にやってしまい(笑)。

岳物語 (集英社文庫)
『岳物語 (集英社文庫)』
椎名 誠
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――受験が迫ってくると、無意識の現実逃避の一環として本を読み出す人もいますよね。

越谷:受験生、浪人生の頃は、椎名誠さんが「あやしい探検隊」のシリーズをバカスカ出されている頃で。もうなんとも蠢惑的で、逃避したい身にとっては、たまらないわけです(笑)。たぶん、文庫で『岳物語』をたまたま読んで、そこからエッセイとか超常SFのような小説を読むようになったんです。

――夢中にさせた、その魅力は何だったのでしょう。

越谷:あらためて尋ねられると難しいですね。たぶん、活字で笑ってよいのだ、ということを教えてくれたんだと思うんです。活字というとお勉強という印象ですが、面白いことを書いたり読んだりしていいんだ、と。筒井さんあたりからも学んでいったのかもしれませんが。

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