第187回:似鳥鶏さん

作家の読書道 第187回:似鳥鶏さん

『理由(わけ)あって冬に出る』から始まる「市立高校」シリーズ、ドラマ化された「戦力外捜査官」シリーズなどで人気を博す似鳥鶏さん。今年作家生活10周年を迎え、ますます波に乗る著者は、どんな本を読み、どんな影響を受けてきたのか? 楽しくたっぷり語ってくださいました。

その2「文章を書きたくなったきっかけの本」 (2/7)

――小説を書こうと思い始めたのはいつ頃なんでしょうね。

似鳥:文章を書きたいと思う元になった本があるんです。中学生くらいかな、北杜夫の「どくとるマンボウ」シリーズを好きで読んでいました。あの、本気なのか嘘なのか分からないところが好きで。遠藤周作先生もやっていましたけれど、本気か嘘か分からない口調で変なことを書くというのをエスカレートさせていることを北杜夫もやっていて。「あ、こうやって書くものなんだな」と思ったんです。今、文章を書く時の基本姿勢とか基本的なやり方、語り口、リズム、言葉使いといったものは、「どくとるマンボウ」シリーズを夢中になって読んでいるうちに自然に身に付いた気がします。

――作文や読書感想文を書くのは好きでしたか。

似鳥:嫌いでした。作文って、自分の内面を書かされるので、プライバシーの観点から、すごく嫌でした。しかも教師って、感動したとか泣いたとか、激しい感情を見せるものほど喜ぶんですよ。そんなの嫌ですよ。人に言いたいわけがないことを書かされるのが嫌でした。読書感想文も、自分が読んだ好きな本について書くならいいんですけれど、「これを読んで感想を書け」なんて言われるのが非常につまらなかった。それとは別に、授業で1回だけ好きなことを書いていい時があって、その時は授業で書いただけじゃ満足できなくて、さらに勝手にファンタジーみたいな話を書いて職員室に持って行ったことがありました。あの原稿ちゃんと捨てておいてくれているのかな...(笑)。

――捨てておいてほしいんですか(笑)。どんな内容だったんでしょうね。

似鳥:自分が動き出していることに自分で気づいていないぬいぐるみ、みたいな話です。まあそれを職員室に持っていったということは、誰かに見せたかったんでしょうね。好きなように書けるなら、文章を書くことは好きだったんじゃないかな。自分のプライバシーを書きたくないだけで。

――今振り返ってみると、どんな子どもでしたか。

似鳥:ひねくれて、大変嫌な子どもでした。「口が減らない」「ひと言多い」と何度言われたことか。授業では先生の求めている答えが分かるとすぐに口に出しちゃう子どもで、手をあげてワーッと言っちゃうもんだから、先生にすごく嫌がられて、無視され続けました。教員からしたら、常にこいつが最初に答えを言っちゃって他の子の授業にならないんで困ったんでしょうけれど、その事情を言わずに無視するので、なんで俺を無視するんだ、と思っていました。

――え、理由も言わずに無視するんですか。

似鳥:「分かる人」と言うから手をあげているのに「誰もいませんね」って。

――えー。

似鳥:発言を許された時も、正解を言っても「はい」と流され、他の子が私と同じことを言うと「すごい。よくわかったね」と言っていて。そういう経験をいっぱいしたので、たぶんそのへんでひねくれたんです。大人に対して、「お前らどうせ馬鹿だから」っていう態度で、ひと言多いという。

――親にも口答えするタイプでした?

似鳥:いいえ。親には突っ込みようがなかったんです。何か言われたとしても、完全にこっちが悪い時しか言われないし、理不尽だと思ったら理由を言ってくれるので。頭ごなしみたいなものはなかった。まあ、中学生くらいまで嫌なガキで、高校生くらいになると、周りが一応、人によっては大人扱いしてくれるので、そういうのはなくなりました。

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