第187回:似鳥鶏さん

作家の読書道 第187回:似鳥鶏さん

『理由(わけ)あって冬に出る』から始まる「市立高校」シリーズ、ドラマ化された「戦力外捜査官」シリーズなどで人気を博す似鳥鶏さん。今年作家生活10周年を迎え、ますます波に乗る著者は、どんな本を読み、どんな影響を受けてきたのか? 楽しくたっぷり語ってくださいました。

その7「デビュー後の読書生活」 (7/7)

  • 西洋異形大全
  • 『西洋異形大全』
    エドゥアール・ブラゼー
    グラフィック社
    4,104円(税込)
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  • 世界飛び地大全 (角川ソフィア文庫)
  • 『世界飛び地大全 (角川ソフィア文庫)』
    吉田 一郎
    KADOKAWA/角川学芸出版
    1,080円(税込)
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  • 世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語
  • 『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』
    エドワード・ブルック=ヒッチング
    日経ナショナルジオグラフィック社
    2,916円(税込)
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――プロになってからの読書生活に変化はありますか。

似鳥:意識的に変えました。なるべく読んだことのない人の作品や、新しい人の本を単行本で読む。売れてるものを読まなきゃいけないんですけれど、なかなか葛藤があって辛いですね。面白かったらすごく嬉しいんですけれど、つまらなかったらどうしようっていう。「こんなにつまらないものが売れていて、なんで俺のが売れないんだ」って思ってしまうのが目に見えていて、それが辛いので(笑)。と同時に、売れている以上その本には良い部分があるはずなのに自分には分からなかった、ということにもなるので、それも怖い。そう思いながらもなるべく勉強になるように「そういえばこの人まだ読んだことなかった」という人の本に手を出すようにしています。

――特にミステリー作品は「このトリックは他にもあった」と言われがちなので、いろいろ目を通しておかないといけませんよね。

似鳥:そうです、だから古典と呼ばれるものはとにかく読んでおかなければ、っていう。
勉強は何種類かあるんです。ひとつは文学全体の教養としての古典を読む。もうひとつはミステリーの押さえておかなければいけないところを読む。やっぱり「これも読んでいないのか」と言われちゃうのは避けたいですから。で、もうひとつは今売れている本とか、今出てきた新人を読んでおく。もちろんベテランの方でまだ一冊も読んでいないという方の作品も読む。

――ベストセラーリストなどもチェックしているわけですね。

似鳥:話題になった本でいうと、『蜜蜂と遠雷』とか『コンビニ人間』とか『君の膵臓を食べたい』とか。柚木麻子さんの『BUTTER』は芦沢央さんから教えてもらって読んだらすごかった。あれは今年のベストです。
なかなか趣味の読書というのができずにいますが、趣味と実益を兼ねているのは東野圭吾さん。読むと必ず、話の作り方が勉強になる。特に今年は短篇集の『素敵な日本人』。

――ノンフィクションは読みますか。

似鳥:本屋さんで面白本みたいなものを見かけると読んでいます。妖怪・オカルト関係の本とか、世界の魔術大全とか。『西洋異形大全』という大きな本がありまして、それは西洋のモンスターとか魔術とかが載っていて、紙も古文書みたいな作りになっていて。キワモノは『世界飛び地大全』。世界中の飛び地に関する本です。ガザ地区とかも出てくるので、シリアスな問題を扱っているともいえるんですが。他には『世界をまどわせた地図』という、実在しないのに一度は当時の地図に記載されてしまった島や大陸の話を集めた本とか。
自然科学の本も読みますよ。面白そうな話題が載っていれば「日経サイエンス」とかも買いますし。

――1日のうちの執筆時間や読書時間は決まっていますか。

似鳥:今は午前中から始めて午後6時くらいまでには仕事を終えて、あれやこれやの家事をやり、ようやく午後10時、11時くらいから1時間読めるか読めないか、くらいです。8月は忙しくてそれすらできませんでした。

――ああ、今年は10周年記念で、怒涛の刊行ラッシュですよね。最新刊の『100億人のヨリコさん』は、個性的すぎる学生たちが暮らす学生寮に幽霊が出る話...と思ったら予想外の壮大なスケールの展開になるので驚きました。

似鳥:ありがとうございます。あれはまず、貧乏非常識馬鹿大学生を書こう、と。自分もちょっとそういう生活をしてみたかったと思うバンカラ学生を出したのは北杜夫の影響だと思うんですけれど、アホな生態をみっちり書きたいというのがコンセプトのひとつにありました。さらに自分にしかできないことをやろうと思って、じゃあ幽霊を出しちゃおう、ただし円城塔さんや宮内悠介さんも好きだしSFも自然科学系も好きな自分としては、その幽霊について理論的、現実的な説明をしないと落ち着かないだろう、と。天井に血まみれの女性が出現するといった、一見説明のつかないようなことに説明をつけるというのは私、めちゃくちゃ得意なんです。こじつけて説明する能力においては日本ではトップクラスだと思います。要らないトップクラスですね(笑)。

――作品を読んでいると、似鳥さんって理系的なのかなって時々思います。

似鳥:根は理系だったけれど高校の数学の証明問題ができないから文系になっただけ、という気もします。ミステリーでもハウダニットのトリックを考える人って理系頭のように思いますね。東野圭吾さんも理系ですし、漫画の『Q.E.D.』の加藤元浩さんも完全に思考が理系ですよね。

――今年、文庫を含めると何冊刊行されるんですか。すでに単行本はノンシリーズの『彼女の色に届くまで』と『100億人のヨリコさん』が出て、文庫は『きみのために青く光る』と『モモンガの件はおまかせを』が出て、「戦力外捜査官」シリーズの3、4巻が文庫化されて...。

似鳥:全部で7冊です。11月に「戦力外捜査官」第5巻が出ます。これを書くために炎天下の東京をうろうろしました。あんなに東京の地図と首っ引きになって書いたのははじめてです。東京対テロリストの話ですね。福田和代さんの『TOKYO BLACKOUT』とか大好きなんです。「プロジェクトX」的な、現場で働く人たち、名も無き地上の星の頑張りも大好きなので、このシリーズではそういう人たちのことも書いています。

(了)

  • Q.E.D.証明終了(1) (講談社コミックス月刊マガジン)
  • 『Q.E.D.証明終了(1) (講談社コミックス月刊マガジン)』
    加藤 元浩
    講談社
    432円(税込)
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