第187回:似鳥鶏さん

作家の読書道 第187回:似鳥鶏さん

『理由(わけ)あって冬に出る』から始まる「市立高校」シリーズ、ドラマ化された「戦力外捜査官」シリーズなどで人気を博す似鳥鶏さん。今年作家生活10周年を迎え、ますます波に乗る著者は、どんな本を読み、どんな影響を受けてきたのか? 楽しくたっぷり語ってくださいました。

その3「筒井康隆作品と出合う」 (3/7)

  • 朝のガスパール
  • 『朝のガスパール』
    筒井康隆
    新潮社
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  • 時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)
  • 『時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)』
    筒井 康隆
    角川書店
    475円(税込)
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  • ヨッパ谷への降下―自選ファンタジー傑作集 (新潮文庫)
  • 『ヨッパ谷への降下―自選ファンタジー傑作集 (新潮文庫)』
    筒井 康隆
    新潮社
    562円(税込)
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――そんな高校時代の読書といえば。

似鳥:中・高とバスケ部だったんですが、運動部に入ると一度読書から離れるんですよね。せいぜい週一回、部活が休みの日の午後に星新一とか好きなものを買ってきて読んでいたのが中学生時代で、それが高校時代に筒井康隆さんにハマります。これも星新一と同じでお約束ですよね。ショートショートも読みたかったんですけれど、星新一を全部読んでしまうと路頭に迷うんですよ。他に書いている人がなかなかいないから。それで阿刀田高先生の短篇集も読んだりしました。「ベター・ハーフ」という話がなんかすごく印象に残っていて、ああいう驚きを初めて体験したんです。ネタバレになるので言いませんが。

――筒井作品はどのあたりですか。

似鳥:最初に読んだのは、友人Eが教えてくれた『朝のガスパール』。友人Kは別の高校に行っちゃったので、今度は同じ高校にいた友人Eが。って、市立高校シリーズに出てくる江澤ですけれども(笑)。そいつが「面白いよ」と教えてくれたんです。それまで『時をかける少女』も知らなかった。並行して赤川次郎さんの「三毛猫ホームズ」シリーズを読んでいました。それは兄の本棚から抜いていましたね。

――そこでミステリーとの出合いが。

似鳥:当時はミステリーだと意識して読んではいなかったんですけれど、トリックやどんでん返しは面白いなと思っていました。そういう意味では星新一のショートショートもミステリーと同じ感覚で読んでいたかもしれません。それと、もうちょっと後になってから浅見光彦に何度かお会いして。

――内田康夫さんのミステリーシリーズの主人公ですよね。

似鳥:メインは筒井康隆さんでした。『朝のガスパール』はメタフィクションなので、新聞連載の時にリアルタイムで読めばよかったと思いますが、読めば「メタフィクションこそすべてのフィクションの頂点に立つものなんだ」みたいに思って男の子はハマるわけですよ。「なぜならすべての小説はこのメタフィクションで説明できるからだ」となって、傍から「分かったから、落ち着け」って言われるという。

――え、ご自身はどっち側だったんですか。

似鳥:最初は「すべて説明できるからだ」側で、数年後に「うん、分かったから落ち着け」側になりました(笑)。というわけで『朝のガスパール』に始まり、一番好きなのは『夢の木坂分岐点』、ファンタジーの『ヨッパ谷への降下』とか。「東海道戦争」から始まる社会風刺のものも好きでした。痴漢冤罪の恐怖を描いた「懲戒の部屋」なんて今読んでも全員が縮み上がると思いますよ。筒井康隆の社会風刺はまったく古びないので。「走る取的」はちょっと前にドラマでもやりましたよね。

――相撲取りがずっと追いかけてくる、という話がドラマに?

似鳥:そう、それをホラーか何かのドラマ特集でやっていました(注:フジテレビ「世にも奇妙な物語」。)筒井康隆は重層的にハマるんです。最初はメタフィクション的な面白さ、企画の面白さで、次に文章に酔い、さらにその次には、言葉との別れの悲しみにあふれた『残像に口紅を』のような叙情性とか。それとやっぱり『虚人たち』ですよね。「今のところまだ何者でもない」という実験的な主人公にハマって、そのあたりではじめてちゃんと原稿用紙に80枚くらいの短篇を書きました。それもメタフィクションで。

――それがいくつの時ですか。

似鳥:18歳くらいです。浪人生時代に。何やってるんでしょうね、勉強しろよっていう。それはメタフィクションの恋愛小説でした。作中の登場人物に作者が惚れちゃって、そいつとくっつく主人公をだんだん自分の要素に合うように書き直していっちゃう。最後ボツをくらって別れるんです。ボツになったら原稿として存在しないわけなので。

――その頃、作家になりたいと思っていましたか。

似鳥:その時ははっきりとは思ってませんでした。大学に入ると自分の将来というもの、就職というものが迫ってくるので...。教育学部だったので教員路線ではあったんですけれど、書きたいし読みたいしとなって、ショートショートを書いては短篇の賞に応募するという、無謀なことをやっていました。

――ネタが尽きることはなかったんですか。

似鳥:そもそも、ものになりそうなネタが出てこないです。なので、年に2~3本しか書けませんでした。だから今書いている方ってすごいなと思います。特に太田忠司先生はすごいなと思っていて。あの方は1日2本くらい書いたりするといいますから。

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