第187回:似鳥鶏さん

作家の読書道 第187回:似鳥鶏さん

『理由(わけ)あって冬に出る』から始まる「市立高校」シリーズ、ドラマ化された「戦力外捜査官」シリーズなどで人気を博す似鳥鶏さん。今年作家生活10周年を迎え、ますます波に乗る著者は、どんな本を読み、どんな影響を受けてきたのか? 楽しくたっぷり語ってくださいました。

その4「芥川賞作品を読み進める」 (4/7)

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――自分でも書くようになり、読書傾向も変わりましたか。

似鳥:その頃になると読むものは拡散していました。高校の後半に友人Eというか江澤が「面白いよ」と言うので宮部みゆきさんの『龍は眠る』だったか『魔術はささやく』だったかを読んでハマり、『火車』や『スナーク狩り』を読み。
同時期に浅見光彦に会い、西村京太郎さんや森村誠一さんをちょっと読み。斎藤栄とかもありましたね。ほかは乃南アサさんの短篇が大好きでした。普通の人が何かにハマったあげくにどんどんおかしな方向に行っちゃうっていうところが面白かった。そこから「この人はどうだろう」と、どんどんいろんな人を読むようになって。

――その頃には友人Eはいなかったんですね。

似鳥:そうですね。友人Eなしで自分で本を買ってくるようになりました。

――選ぶ基準は?

似鳥:タイトル買いでした。表題のタイトルではなく、「何々賞受賞作」とか。そういうものなら面白いだろうと思ったんです。

――エンタメが多かったんですか。

似鳥:大学の途中から純文学も増えてきました。純文学で最初に衝撃を受けたのが、平野啓一郎さんの『日蝕』。「なにこれ」ってなりました。あれが芥川賞受賞作だったので、そこから芥川賞の作品をガンガン読み始めました。
純文学って、国語の教科書で読んだ時は面白く思えなかったんです。あ、でも「城の崎にて」はすごく楽しかったです。授業とは関係なく「こことここの対比が明暗となっている」とか「この表現が使われているのは、ここでこの表現を与えておいて、ここで落としている」とか、教科書に書き込みましたから。純文学がなぜ面白いのかを言葉にできなかったので、なんとか理論化してやろうとして分析したんでしょうね。
ただ、いろいろ読むと、芥川賞と直木賞の違いって何だろうってなりますよね。筒井康隆もそうなんですけれど、文学とエンターテインメントは対立概念ではないというのがよく分かる。文学として優れているためには面白くあってはいけないなんてことはなくて、同時に面白くて一向に構わないんだ、というのを感じました。

――大学時代に読み進めていった芥川賞作家で好きだった人は。

似鳥:川上弘美さん。芥川賞受賞作の『蛇を踏む』ではなくて『龍宮』か何かから入って、『溺レる』や『光ってみえるもの、あれは』とか『神様』とかを続けて読みました。面白かったですね。ほやーんとしているようで、よく観ると冷たくて不気味っていう。それまで、宮部さんは別として、あまり女性作家って読んでいなかったんです。というのも、少年の頃は書店で女性作家の棚にわざわざ行くのが恥ずかしくて。

――そんな自意識があるんですか。

似鳥:あります。「そんなに女の子のことが知りたいの」みたいな目で見られるんじゃないかっていう(笑)。誰も気にしていないのに。でも何かで「女性作家を読んでみよう」と思った時期があったんですよね。一体何と戦っているんだっていう、独り相撲ですけれど。芥川賞作家読みは今でも続けていますが、いろんな人を読んでみたいというのがあったので、どなたも一冊ずつでばばばっと読んでいます。最近では小山田浩子さんの『穴』や赤染晶子さんの『乙女の密告』とか朝吹真理子さんの『きことわ』とか、芥川賞はハズレがなくて安定して面白いですね。なので、純文学をどれから読めばいいか分からない人は、芥川賞受賞作を読めっていう気がしますね、すごく。

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