作家の読書道 第197回:小野寺史宜さん

2006年に短篇「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、2008年に『ROCKER』でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞してデビューした小野寺史宜さん。「みつばの郵便屋さん」シリーズなどで人気を得、今年は孤独な青年と人々とのつながりを描く『ひと』が話題となった小野寺さん、実は小学生の頃から作家になることを意識していたのだとか。その背景には、どんな読書遍歴があったのでしょう?

その1「子どもの頃から街の描写が好き」 (1/6)

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――一番古い読書の記憶といいますと。

小野寺:たぶん幼稚園の頃だと思うんですが、『ぐりとぐら』の絵本ですね。それはやはり、あの大きな「かすてら」の絵の印象が強いからだと思うんですけれど。借りたのではなく、家にあった気がするので、たぶん母親が買ったんでしょうね。
 小学校低学年になると、ポプラ社さんとか偕成社さんの伝記のシリーズを読みました。装丁でひと目で分かるので、出版社名も憶えていましたね。なんでそんなに伝記が好きだったのか分からないですけれど、まあ読みやすかったんでしょう。エジソンとかワシントンとかリンカーンとか、豊臣秀吉とかベーブ・ルースとか。ちょっと見てみたら昔よりは伝記シリーズの数が少なくなっているような気がしましたが、昔はいろんな人の伝記がありましたよね。今は漫画の伝記のほうが増えているのかもしれませんが。僕の頃は秀吉とか信長とか家康の伝記は当たり前のようにあったので、それで歴史関係のものが好きになった気がします。まだ小学生でしたけれど、神社とかお寺といった建物など、歴史を感じさせるものが好きだったことを思い出しました。

――千葉のご出身でしたよね。近所になにか有名なお寺があったりとか?

小野寺:いえいえ。僕、生まれは松戸市で、途中から市原市に引っ越して、最終的には千葉市にいました。近所には有名なお寺などはなかったけれど、木の祠とか、そういうものがある感じが好きでした。そこから、城を含めて、街みたいなものが好きになっていったんだと思います。

――歴史関連の本や図鑑を読んだりするようになったのですか。

小野寺:そうですね。子ども向けでもちょこちょこあるんですよ。豊臣秀吉絡みでも蜂須賀小六が主人公の話とか。ただ今考えれば、そういうのを読んでいたのも、歴史どうこうよりも、街の感じが好きだったからだと思います。

――文章を読むことが好きな子どもでしたか。

小野寺:はい、母親がわりと本を与えてくれていたんでしょうね。移動図書館にも行って、本を選んでいた記憶があります。誕生日プレゼントも「本を何冊」にしてもらっていましたね。だから僕、ゲームとかを買ってもらったことがないです。
 家の近所の小さい本屋にも行きました。そこにソノラマ文庫の、小中学生向けのSFのジュブナイルのようなものがわりと揃っていたので、小学校高学年になるとその中から適当に選んで読んでいました。「宇宙戦艦ヤマト」の小説版みたいなものもあったと思いますが、それよりも日常の中で少し不思議なことが起こる話を選んでいた気がします。だから、この頃から本を買っていたんですよね。そこから派生して読むようになったのが、新潮文庫ですね。

――出版社名やレーベル名をちゃんと認識してらしたんですねえ。

小野寺:新潮文庫は栞代わりの紐、スピンがついているじゃないですか。それに、ルパンとかホームズとかもあったじゃないですか。当時は値段も安かったし、買いやすかったですね。ホームズとかも刊行されているものは割と読んでいたと思います。で、これも結局何が好きだったのかというと、キャラクターとかよりも、ロンドンの街とかが出てくるあの感じが好きだったんだなと、高校生くらいの時に気づきました。だからなのか、ルパンよりホームズのほうが好きでしたし。それと、僕の世代だと星新一さんの文庫は手に取りやすくて読んでいましたね。そこでソノラマ文庫のSFとはまた違う、SFに触れていました。だから小学生のうちに歴史と推理とSFは一通り読んでいたことになりますね。

――ああ、エンタメの基本を。

小野寺:ほかには『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』とか、『十五少年漂流記』とか『ドリトル先生航海記』といった、世界の名作もいろいろと読みましたね。必ずしも本ばかり読んでいる奴ではなくて、草野球などもしつつ、本もよく読んでいたなっていう。

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