第205回:今村昌弘さん

作家の読書道 第205回:今村昌弘さん

2017年に鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』でデビューした今村昌弘さん。意表を突くクローズドサークルの設定が話題となり、年末の各ミステリランキングで1位になり、本格ミステリ大賞も受賞。第2作となる『魔眼の匣の殺人』も期待を裏切らない内容で、今後の活躍が楽しみな新鋭です。でも意外にも、昔からミステリ作家を目指していたわけではなかったのだとか。ではどんな本が好きだったのか、そして作家を目指したきっかけは?

その5「ミステリを100冊読む」 (5/6)

  • 火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)
  • 『火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)』
    ジョン・ディクスン・カー
    早川書房
    1,058円(税込)
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  • 有栖川有栖の密室大図鑑 (創元推理文庫)
  • 『有栖川有栖の密室大図鑑 (創元推理文庫)』
    有栖川 有栖,磯田 和一
    東京創元社
    864円(税込)
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  • ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)
  • 『ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)』
    クリスチアナ・ブランド
    早川書房
    950円(税込)
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  • 招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)
  • 『招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)』
    クリスチアナ・ブランド
    東京創元社
    1,296円(税込)
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  • 金田一少年の事件簿 File(1) (週刊少年マガジンコミックス)
  • 『金田一少年の事件簿 File(1) (週刊少年マガジンコミックス)』
    天樹征丸,金成陽三郎,さとうふみや
    講談社
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――仕事を辞めて、ひたすら書く生活ですか。

今村:まず最初に、ミステリを100冊くらい読んでみることにしました。創作の基本となるものを押さえておかないと時間を無駄に使うんじゃないかというのがあって。スポーツの練習もそうですけれど、がむしゃらにやるのはもう流行らない。下手くそなまま何作書いたって一緒じゃないかと思いました。

――いろんなジャンルがあるなかで、なぜミステリだったのですか。

今村:ミステリというジャンルってなんだろうとは思っていたんです。世の中にはミステリと謳われた本があふれているけれど、実際に自分が読んできた米澤先生の『氷菓』も連城三紀彦さんも、全然タイプが違う。それと、謎があってそれが解明されるという展開は、ミステリに限らず面白い物語には当てはまると思ったので、その作り方をちゃんと勉強しておけば、この先自分が何を書く時にも基礎となるんじゃないかと思いました。

――100冊はどのように選んだのですか。

今村:それは本当に困りました。とりあえずインターネット上でミステリファンの人が作ったサイトなどを見に行って「読むべき100冊」みたいなものの上から順に買えるものを探していきました。それらを読んで、本当にミステリっていろいろあるなって思って。

――どんな作品を読みましたか?

今村:当然、綾辻行人先生や有栖川有栖先生の本も入っていました。他に、日本のものでは横溝正史、岡嶋二人、泡坂妻夫、鮎川哲也...。
インターネットで検索したら、神戸にうみねこ堂書林さんというミステリ専門の古書店があるのを知って、そこにお世話になりました。「この人はどういう本を書くんですか」と訊いたり、「ジョン・スラデックの『見えないグリーン』が読みたいから探してください」みたいなお願いをしたり。「カーを読みなさい」とも言われましたね。

――ジョン・ディクスン・カーですか。『火刑法廷』とか?

今村:そうです、「『火刑法廷』を読みなさい」って言われて。あとは、不可能犯罪好きだったので、密室の短篇集を調べていくうちに有栖川先生が編んでいる『有栖川有栖の密室大図鑑』を知ったりして。あ、密室ですごいなと思ったのはクリスチアナ・ブランド。最初に読んだのが『ジェゼベルの死』かな。それで短篇集の『招かざる客たちのビュッフェ』を読んで、密室じゃないけれど『はなれわざ』を読んですごいなと思ったり。

――実際にミステリの賞に応募するようになったのですか。

今村:ファンタジーやホラーを書き続けていたんですけれど、短編の賞が少ないので、ミステリの新人賞にも挑戦してみることにしました。まだ謎解きのこともよく分かっていないけれど、ミステリになりそうなことが身の回りの医療絡みであってので、それをネタにして短篇を書いて東京創元社のミステリーズ!新人賞という短篇の賞に投稿したら、最終選考まで残ったんです。奇しくもその時の選考委員の一人に米澤先生もいらっしゃって、「探偵役が推理することなく真相を看破してしまうのはミステリとしてよくない」といった選評をいただいて。「今回の選考で最も胸を打つ場面があった」みたいなことも書いてくださったんですけれど。短篇というのは、事件が起きて最後に謎を解いて犯人が分かればいいわけではなく、一番盛り上がるところから始めたりして、ずっと読者を引っ張っていかなければいけない。なのに自分は、登場人物はこんな人で、何が起きて、誰々に聞き込みをして、その結果これが分かりました、みたいなことをダラダラーっと書いてしまっていたんです。それではミステリの構造にはならないというご指摘を受けて、「ああそうなのか」と反省すると同時に、「いきなり最終選考にいくなら、結構脈があるんじゃないか」とも思って。
その時ですでに挑戦する3年間のうちの2年くらい経っていたんです。3年以内に結果を出すとなると、あと2回くらいしかチャンスがない。「次、何に応募しよう」と思った時に、同じ東京創元社に鮎川哲也賞という長篇の賞があって、応募締切が3か月後にあると知りました。長篇は書いたことがないし「本格ミステリを求む」とあるので自分にはできないと思ってすごく怖かったんですけれど、でもやってみるか、って。自分はそこまで難しいことはできないから、オーソドックスなことをやろうとなり、それで思ったのが『金田一少年の事件簿』だったんですよ。構造としてはシンプルに、どこかに行って1人目が死に、2人目が死に、3人目が死んで、そのいくつかに不可解な状況があって、最後に手がかかりから犯人が見つかるっていう。そうして書き上げたのが、『屍人荘の殺人』でした。

――執筆前に、綾辻さんの『時計館の殺人』や有栖川さんの『孤島パズル』を分析されたとか。

今村:全体の何分の1までに何が起きるかということを確認していきました。第1の殺人はここまでに起きる、とか。それまで、脚本の書き方の本を読んで起承転結の割り振りの勉強はしたんですけれど、それが本格ミステリでいうと何に当たるのかが分からなかったんです。特にミステリーズ!新人賞の選評で構造のことを指摘されていたので、それは押さえておこうと思いました。
 それで分かったんですけれど、ミステリを読んでいて「なにか退屈だな」と思うと、やっぱり配分がおかしかったりするんです。なかなか事件が起きなかったり、唐突に事件から始まったと思ったら前半に詰め込みすぎていたり。そういうことが気にならない作品って、やっぱり黄金律にちゃんと沿っている。
「こういう法則があります」というと「それを裏切ったほうが面白いんじゃないか」とか「同じことをしても仕方ないだろう」とか思いがちですけれど、やっぱり黄金律は無数の前例があってはじき出されたものなので、違うことをやろうと思ったら、さらに面白いことでカバーしないといけない。だから、『屍人荘の殺人』は奇をてらったことはせず、オーソドックスなことで勝負しようとしました。それでいて、「おっ」と目に留めてもらうために、あれを存分に使いました。

――あれですね(笑)。本当によく、あれでクローズドサークルを作りましたよね。2作目の『魔眼の匣の殺人』も同じ主要人物が出てきますが、『屍人荘の殺人』を書いた時にシリーズ化を考えていたわけではなかったですよね? ただ、第1作目では回収されていない謎もある。

今村:シリーズ化は考えていなかったんですが、もともとシリーズものを沢山読んできたので、いかにも次に繋がりそうな雰囲気で終わるというのが読み心地として好きだったというのが第一にあります。次に、屍人荘のあの天災のような特殊な出来事に関して曖昧なまま終わらせたのは、犯人や探偵がそこに巻き込まれた上で互いにフェアに闘う部分が面白いのだから、その外枠については、たとえば「その後台風がおさまってこうなりました」というところまで書かなくていいだろう、という判断でした。

――3年のうちに『屍人荘の殺人』でデビューが決まって本当によかった。

今村:最終選考の連絡が1月末だったのかな。受賞の連絡が4月の頭にあったんですけれど、3月末に父親が旅先で怪我をして、意識不明の重体になったんです。今はもう元気になったんですけれど、その時はあと3、4日のうちに意識が戻らないと無理、あるいは重篤な障害が残ると言われていて、受賞の連絡を受けても喜べませんでした。後から聞くと、連絡してくださった編集長も「あれ? あんまり喜んでない」と思ったそうです(笑)。
僕としては、運を使い果たしたんじゃないかって思ったし、父親が死ぬかもしれないからちゃんとした仕事に就いて家を支えなきゃいけない、そうしたら作家ができるか分からない、ということも考えていました。

――お父さんが回復し、作家デビューを果たし、大評判となり......。

今村:はい。その1年は本当にいろんなことがありすぎて、大変でした。

  • 時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)
  • 『時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)』
    綾辻 行人
    講談社
    745円(税込)
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  • 孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
  • 『孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』
    有栖川 有栖
    東京創元社
    864円(税込)
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