第209回:吉川トリコさん

作家の読書道 第209回:吉川トリコさん

2004年に「ねむりひめ」で第3回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した吉川トリコさん。以来、映像化された『グッモーエビアン!』や、あの歴史上の女性の本音を軽快な語り口で綴る『マリー・アントワネットの日記』、そして新作『女優の娘』など、女性、少女を主なモチーフにさまざまな小説を発表。その作風に繋がる読書遍歴を語ってくださいました。

その6「作家同士の交流&編集者に薦められた本」 (6/7)

  • 青空チェリー(新潮文庫)
  • 『青空チェリー(新潮文庫)』
    豊島 ミホ
    新潮社
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  • 蝶花嬉遊図 (講談社文庫)
  • 『蝶花嬉遊図 (講談社文庫)』
    田辺聖子
    講談社
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  • きょうのできごと: 増補新版 (河出文庫)
  • 『きょうのできごと: 増補新版 (河出文庫)』
    柴崎友香
    河出書房新社
    682円(税込)
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  • 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
  • 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)』
    桜庭 一樹
    KADOKAWA
    300円(税込)
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――吉川さんは第3回R-18文学賞で大賞と読者賞を受賞してデビューされたわけですが、まだできたばかり頃にあの賞の存在をどこで知ったのですか。

吉川:はい。書店で『青空チェリー』を見た時に。

――第1回の読者賞受賞作を収録した豊島ミホさんの作品集ですね。

吉川:ちょっと判型が小さい本で、装画を描いていたかわかみじゅんこさんがすごく好きだったので「え、何これ、かわいい」となって、読んでみたらまあ、自由だという。今まで私が「ジャンル・エロ」として読んできたものは、ちょっとハードだったりちょっと暗かったりちょっと特殊な状況にいたりするものが多かったのに、豊島さんは本当に普通の女の子のことを書いていて。あれも衝撃でしたね。

――短編の賞なので、受賞してもすぐ単行本は出せませんよね。受賞してからはどうだったのですか。

吉川:受賞してすぐに受賞後第1作の短編を書きました。当時の担当さんに「年内に本を出したいからすぐ書いて」みたいに言われて「はい!」って言って。そういえば、受賞が決まったのが3月だったんですけれど、その1月に綿矢りささんと金原ひとみさんがダブルで芥川賞を受賞した年だったんです。それでもう、母が「ええー!」って喜んで。自分の娘もテレビに出たりするんだって思ったみたいで、「待って、違う違う違う」って、説明が大変でした(笑)。

――R-18出身の作家さんたちって仲がいいですよね。東日本大震災の後には、チャリティーで『文芸あねもね』というアンソロジーも出されていましたし。あれは毎年の授賞式の時に過去の受賞者が顔を合わせて仲良くなって...という感じですか。

吉川:最初のうちは、受賞者同士顔を合わせても挨拶してちょっと話す程度だったんです。宮木あや子さんが来てから変わりましたね。宮木さんのコミュ力、まとめ上げ力のおかげです。すぐお茶会をセッティングしようとしてくれるので。

――そうした作家仲間や、編集者と本の情報を交換することもあると思います。薦められて面白かった本はありますか。

吉川:デビューして最初についた編集者に向田邦子さんの『思い出トランプ』を渡されたんですよ。「これ、短編のお手本みたいなものだから」って。それで「はい!読みます!」って。読んでみたら、上手すぎてよく分からないんですよ。お手本にするにしても真似するにしても上手すぎてどこから手を出していいか分からない。でもそれから向田さんの小説もエッセイも全部読みました。何を読んでも上手いし、まあ、面白いですよね、すごく。
それと、コバルトの元編集長だった方に、「あなたは田辺聖子さんみたいになりなさい」って言われたんです。その時点で1冊も読んだことがなくて、「はい!」って言って、そこから全部ではないんですけれど、半分くらい、田辺さんの本はどわーっと読みました。一番好きなのが『蝶花嬉遊図』。フリーランスで仕事をして成功している女性が、すごく年上の家庭持ちの男と同棲を始めるんですね。そのことによって仕事を手放してその人中心の生活を始める。私、恋愛アホ期があったので(笑)、女の人が何かを手放してその人中心になってしまうみたいなのが、分かるんですよ。だけど、少しずつ日常の中でその男のちょっとした言動とかに失望していく。ものすごく愛しているのに失望するってことが書かれていて、すごいなって。その生活の様子が書かれているのと、男のシビアな状況が描かれているのがすごく良くて。

――その他の読書というと、どのように本を選んでいるのですか。

吉川:やっぱり同世代の作家さんがすごくいっぱいいるから、そういうのを順番に読んでいます。西加奈子さんも、デビューが同時期で、『あおい』が本屋に並んだ瞬間に「何この可愛い本」と思って飛びついたら、中味もすごく良かった。柴崎友香さんの『きょうのできごと』も読んだし。あと、桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』とか『推定少女』のあたりもすごく好きでしたね。桜庭さんは『私の男』もめちゃくちゃ好きなんですけれど。辻村深月さんも、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』がすごく好き。あとは、R-18の作家の本を読んでいるだけで結構な量になります。「あ、また新しい本出したな」みたいな感じで(笑)。

――知り合い同士だと読んで感想を送り合ったりするのですか。

吉川:最初はしていたんですけれど、なんとなくですけれど、「みんなそこまで読めないよね」となり、「読まなくていいよね」ってなっていきました。いまだに本が出ると感想をメールしてくれるのは柚木麻子くらいです。

――柚木さん、R-18出身じゃないけれど『文芸あねもね』に参加されていましたよね。

吉川:私、柚木のことはR-18の仲間のつもりで話していますから(笑)。山内マリコさんと蛭田亜紗子さんがデビューした回に柚木も応募していたんですよね。それで授賞式にも来ていて、その後、一緒に飲みに行って、普通に喋っていたんです。でも柚木はその時点で私が誰だか分かっていなかったらしく、後から「一緒に飲んでいる時に吉川トリコだってわかった瞬間に吐きそうになって帰りました」って言ってた。「は?」って感じですよね(笑)。
それと、同世代で一番好きだった作家って、雨宮まみさんなんです。

――ああ。一昨年、40歳で亡くなってしまった。

吉川:まみさんの『女子をこじらせて』が出た後くらいにまみさんにツイッターでフォローされたのがきっかけで読んだら、いやあもう、本当にすごくて。エッセイですが、「え、すごい、これ、文学じゃん」みたいな。びっくりしてまみさんにそのままメールを送りました。自分に性欲があって、性欲がどういう種類のもので、みたいな感じのことをあんなに子細に、しかもエッセイで書いたものを読んだのってはじめてだったかもしれない。しかも同世代の人がっていう。『女子をこじらせて』は衝撃でした。

――これから年齢を重ねて、いろいろ書いていってほしかったですよね。

吉川:そうです。いまだに「今なら、まみさん何書くかな」って考えちゃいます。読みたいなって思っちゃう。どの本も違うけれど、いつも包み込まれるようなところがあって。ひとつしか年齢が違わないのに、すごく優しくて、いつも読んでいると自分を肯定してくれる気分になりました。

――本当にそうですよね。......ところで、やはり男性作家が少ないですね。

吉川:意識したわけじゃないんですけれど、そうなんですよね。中島らもさんとかはすごく好きでした。他にも誰かいたように思うんですけれど...。あ、漫画家で安達哲さんがすごく好きでしたね。『さくらの唄』を書かれていて。「週刊ヤングマガジン」で連載していたんですけれど、全3巻で18禁、成人指定がついている。

――あれは男の子が主人公ですが、いろいろと、ものすごいことが起きますよね...。さて、今、日頃一日のサイクルは決まっていますか。

吉川:今はだいたい、9時とか10時くらいに起きて、夕方まで仕事してって感じですね。後もう、酒を飲みます。ずっと、毎日5枚ってノルマを決めているんです。だから、「ちょっと行ったかな」と思うたびに原稿用紙換算して、「ちっ、まだか」って(笑)。ノッている時や集中している時はわーっと書くんですけれど、そういう時に書いたものって、次の日読み返してだいたい「うわっ」となるんです。「ちょっとやりすぎてるな」ってなる。毎分ごとに原稿用紙換算して一文一文ちょっとずつ進めていっている時のほうがいいんだな、と思います。

――本を読むのはどんなシチュエーションが多いですか。

吉川:寝る前が一番多いですね。あと、ジムに行ってサウナに入るんですけれど、サウナで本を読みます。ちょっと温度が低めなので、長くいられるんです。結構他にも本を読んでいる人がいますね。

  • さくらの唄(上) (ヤングマガジンコミックス)
  • 『さくらの唄(上) (ヤングマガジンコミックス)』
    安達哲
    講談社
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