第210回:町屋良平さん

作家の読書道 第210回:町屋良平さん

今年1月、ボクサーが主人公の『1R1分34秒』で芥川賞を受賞した町屋良平さん。少年時代から「自分は何か書くんじゃないか」と思っていたものの、実は、10代の頃はなかなか本の世界に入り込むことができなかったのだとか。そんな彼が、読書を楽しめるようになった経緯とは? スマホで執筆するなど独特の執筆スタイルにも意外な理由がありました。

その7「読書メーターに読了本を記録」 (7/7)

  • ピンポン (エクス・リブリス)
  • 『ピンポン (エクス・リブリス)』
    パク・ミンギュ
    白水社
    2,376円(税込)
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  • エトワール広場/夜のロンド
  • 『エトワール広場/夜のロンド』
    パトリック・モディアノ
    作品社
    2,052円(税込)
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  • 黄色い雨 (河出文庫)
  • 『黄色い雨 (河出文庫)』
    フリオ リャマサーレス
    河出書房新社
    886円(税込)
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――町屋さんって、読んだ本のことも、ご自身の小説のことも、すごく鋭い視点で、分析的に分かりやすく語ってくださいますよね。町屋さんの偏愛本の書評集とか読んでみたいと思ったのですが、読書記録とかつけていますか。

町屋:いえいえそんなそんな。読書メーターで、何を読んだかは記録しています。忘れちゃうんで。でも感想は記していないです。昔は書いていたんですけれど、読み返すとすごく、調子に乗ってるなって思って(笑)。
ただ、20代後半から詩が好きになってきて、よく詩の雑誌の投稿欄を見ているんですけれど、作品と一緒に「なぜそれが選ばれたのか」っていう選者の言葉が少しついているんです。僕が詩歌を好きになれたのは、そういう批評が一緒についていたからという部分が大きいので、何においても、自分が好きになったものはなぜ好きになったのかを、できるだけ言語化するように努めて生きています。

――素晴らしい。

町屋:これ、性格ですね。自分の好き嫌いをそのままにしておけないんですよ。厳密にはぜんぶファンタジーなんです。好き嫌いの感情に相当する言語はないかもしれない。でも、ファンタジーだからこそ、敢えて言語化してみて共有したいしされたいという、謎の執着に、自分ではウンザリ感もあります。

――書評とか批評とか選評を読むのは好きですか。

町屋:他の人の感想を見るのはすごく好きです。他の人はどう思ったんだろうというのは、なんか、気になります。あまり、自分の「好き」とか「嫌い」って気持ちを信用していないんですね、たぶん。不安があるので、後付けでいろいろ考えてしまうんです。

――必ず読むものはありますか。文芸誌の合評とか、新聞の書評とか、芥川賞の選評とか...。

町屋:基本的に目を通します。文芸誌では、今まで読んでいなかった人の作品を優先的に読みます。文芸誌で得られる受動的な読書が結構好きなので。それで、読んだら大体合評と月評は見ますね。取り上げられているものは。

――デビュー後に、読むものって変わったりしましたか。

町屋:デビュー後もしばらくは好きなものだけ読んでいました。最近はわりと、トークとかをさせていただくことがあって、それで相手の方の本をまとめて読むことが多いです。岸政彦さんの本がすごく面白かったですね。それまでは岸さんの小説しか知らなかったので、社会学の本も読んだら、新たに広がった世界があってありがたかったです。
それと、デビューしてからやっぱり短歌が勢いがあるなと思って、読んでみてよかったです。大森静佳さんとか、すごく素敵。あとは井上法子さんとか、服部真里子さんとか。

――ここ最近で、面白いと思ったものは。

町屋:海外小説では、パク・ミンギュさんの『ピンポン』がめっちゃ面白いと思いました。あとは、パトリック・モディアノの『エトワール広場/夜のロンド』。(スマホを見ながら)それこそ読書メーターをつけているので、遡って思い出せます(笑)。あ、松原俊太郎さんの、岸田國士戯曲賞を受賞した戯曲『山山』もすごく衝撃を受けましたね。それと、批評研究では、オクタビオ・パスが好きです。
小説ではすごく好きだったのがルイ・ルネ・デ・フォレの『おしゃべり/子供部屋』という本。すごく良かったです。そんなに長くない小説がいくつか入っていますね。音楽を題材にした小説をいろいろ読んでいたときにたまたま出会って、衝撃を受けました。
さきほど言ったヴァルザーは、デビューしてから編集者に薦められたんです。ゼーバルトが好きだっていうのを河出書房新社の人に言ったら、教えてくれて。「人が好きなもの」が好きなんで、よくインタビューしています。
こうして読書メーターを遡ると、いろいろ思い出しますね(笑)。リャマサーレスの『黄色い雨』が文庫化されて、改めて読んで、一緒に短篇もついていたのでそれも読んだらめちゃめちゃ面白いなって。
あと、日本の近代小説はしっかり読めてきてはいないんですけれど、たまたま旅先で徳田秋声の『あらくれ』を読んだらすごくおもしろくてびっくりしました。登場人物がタイトルにある通り本当にあらくれで、周りの人との関係も含めて、「なんで?」って思うことがいっぱいあって、興味を失わず一気に読めて自分でも意外でした。想定をはるかに超えるあらくれでしたね。

――まだまだおうかがいしていたいです(笑)。さて、今年は『1R1分34秒』、『ぼくはきっとやさしい』、『愛が嫌い』と、3冊も刊行されていますが、今後のご予定は。

町屋:一昨年、去年とたくさん書いたので、それを形にしてもらっている感じです。あ、10月末には、『ショパンゾンビ・コンテスタント』という本が出ます。

(了)

  • ショパンゾンビ・コンテスタント
  • 『ショパンゾンビ・コンテスタント』
    町屋 良平
    新潮社
    1,595円(税込)
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