第215回:相沢沙呼さん

作家の読書道 第215回:相沢沙呼さん

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が2019年末発表のミステリランキングで3冠を達成、今年は同作が2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となり、さらに『小説の神様』(講談社タイガ)が映画化されるなど、話題を集める相沢沙呼さん。そんな相沢さんが高校生の時に読んで「自分も作家になりたい」と思った作品とは? 小説以外で影響を受けたものは? ペンネームの由来に至るまで、読書とその周辺をたっぷりおうかがいしました。

その3「ネットで小説を発表しはじめる」 (3/7)

  • ブギーポップは笑わない (電撃文庫)
  • 『ブギーポップは笑わない (電撃文庫)』
    上遠野 浩平
    KADOKAWA
    605円(税込)
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  • アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ クリスティー
    早川書房
    902円(税込)
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  • ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ クリスティー
    早川書房
    1,078円(税込)
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  • 皇帝のかぎ煙草入れ【新訳版】 (創元推理文庫)
  • 『皇帝のかぎ煙草入れ【新訳版】 (創元推理文庫)』
    ジョン・ディクスン・カー
    東京創元社
    814円(税込)
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――さて、高校時代に『ブギーポップは笑わない』をきっかけに、ご自身でも小説を書きはじめたわけですか。

相沢:書き始めましたね。テレホーダイの時代、料金が安くなる23時以降にインターネットに接続して、ホームページを更新して、へったくそな小説を載せ始めました。読んでくれる人もそんなにはいなかったんですけれども。
 ちょうど高校生の時にはまっていた趣味のひとつが、ネット上のテーブルトークRPGのサークルでした。あれは会話が主体なゲームですから、チャットでプレイするんです。ゲームマスター役が自分で物語を用意して、その物語を演出しながらプレイヤーの行動に即してアドリブで話を進めていくという遊びです。それを毎晩のように......と言うと言いすぎなんですが、結構な頻度で遊んでいました。僕は文章で状況を説明したり心理描写を挟んでいったりして演出していくことが多く、サークルの親しい仲間たちも負けじと描写を挟んでくるという感じで。僕がゲームマスターをやる時には自分の物語を用意して、どういう謎があって、どういう事件が起きるかを考えました。もしプレイヤーがこういう行動をとったらこうしようとか、こういう危機が起こることにしようというシナリオを事前に用意して、描写を説明してという、小説を書くことに近いような遊び方をしていました。普通の小説も書き始めましたが、物語を書く力とか描写する力みたいなものは、そうした遊びに鍛えられた部分があります。

――同じタイミングで小説をいろいろと読み始めたとのことでしたが、どんなものを読みましたか。

相沢:何がきっかけか忘れましたけれど、ミステリにもハマりまして。シャーロック・ホームズなども読みましたが、一番好きだったのはアガサ・クリスティー。
 19世紀から20世紀初頭のヴィクトリア朝がすごく好きなんです。あの雰囲気というか文化が好きでホームズとかクリスティーを読むようになりまして、クリスティーの後はジョン・ディクスン・カーとか、いわゆる黄金期の本格ミステリにはまっていきました。その頃は日本の推理小説はあまり読まなかったです。ヴィクトリア朝のような異国の文化だったり、ディクスン・カーの結構おどろおどろしいというか、日本のホラーとはまた違う、海外の怪奇的な表現がすごく好きでした。
 クリスティーは王道ですが、やはり『アクロイド殺し』がすごく好き。あとは『ナイルに死す』とか。人間の心の動きや感情を描くのが上手くて、そういうところがトリックに活されている。クリスティーのすごさを思い知ました。
 カーは『皇帝のかぎ煙草入れ』でしょうか。これも一種の思い込みを利用している部分がありますよね。すごく奇術的、マジック的な部分があって、はじめて読んだ時はビビりました。人間の、間(ま)を補完してしまう脳の働きとか、心理的な部分をうまく活かしている。ディクスン・カーってマジック的なトリックを書く人ですね。

――ご自身でも書かれていたのも、ミステリだったのですか。

相沢:その時は全然ミステリを書こうとは思っていなくて。『ブギーポップは笑わない』のような、悩める少年少女たちの青春小説みたいなものを書きたかったんです。ライトノベルを中心に読んでいたものですから、ライトノベル作家になりたかったんです。だからその文法で小説を書いていたのですが、今にして思うと当時のライトノベルの主流ではない雰囲気だったと思います。今のメディアワークス文庫で出ていそうな感じというか。当時のライトノベルにしては外連味もなく派手でもなく、大人しい小説だったと思います。

――ファンタジー要素がわあるわけでもなく?

相沢:ファンタジーも書きましたが、現代日本が舞台の小説が多かったですね。それを電撃小説大賞に毎年送っていましたけれど、今思うと本当に、当時のライトノベルにしてはちょっと大人しすぎたと思います。そんな感じだったので、毎年駄目で。

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