第216回:青山七恵さん

作家の読書道 第216回:青山七恵さん

大学在学中に書いて応募した『窓の灯』で文藝賞を受賞してデビュー、その2年後には『ひとり日和』で芥川賞を受賞。その後「かけら」で川端康成賞を受賞し、短篇から長篇までさまざまな作品を発表している青山七恵さん。衝撃を受けた作品、好きな作家について丁寧に語ってくださいました。

その6「東京への不安を拭い去った小説」 (6/9)

――卒業後は旅行会社に就職されたんですね。

青山:大学生活は好き放題の生活でとても楽しかったので、卒業後、ちゃんとした会社員みたいな生活はできそうにないと悲観していました。東京に行くのはすごく怖かったけれど、ずっと大学に留まるわけにはいかないし、でも地元に帰るという選択肢もなかった。それでほとんど消去法で東京で就職ということになったんですけれど、就職が決まってからも、とにかく東京に行くのが嫌で嫌で。そんな時、吉田修一さんの『パーク・ライフ』に出合いました。

――東京の日比谷公園が出てきますね。発表当時、作中にスターバックスが出てきたことも話題になりました。

青山:そうです。それで、もしここに書いてある東京があの東京だというならば、私はここでやっていきたいって思ったんですね。『古都』の時とまるっきり同じなんですけれど、小説のなかの東京に魅惑されてしまったんです。日比谷公園とか、スターバックス、心字池、駒沢公園、そこを猿を連れて散歩している人とか、なんだ、東京、けっこう楽しそうじゃないかと、急に恐怖心がすっと消えてなくなっちゃったんです。これも『古都』の時と同じですけど、上京後は日比谷公園のベンチに座りにいって「ここかあ!」と感激しました。
 それから『東京湾景』もありましたね。就職した旅行会社の同期たちと研修を受けた時、「新宿から羽田空港に行く道のりをレポートせよ」という課題が出されて、私は京浜急行チームではなくモノレールチームだったんです。モノレールに乗って、「あ、これは『東京湾景』だ!」って、このときもすごくはしゃいで見ていました(笑)。

――ふふふ。ちなみに、旅行会社に就職されたわけですが、司書の道は選ばなかったんですね。

青山:そうなんですよね。楽しいことがたくさんあったので、公務員試験の勉強をするのが嫌になっちゃって(笑)。怠け心に敗けました。旅行会社を選んだのも、旅行が好きだったというのもありますが、そういうところに勤めていたら旅行に行っている気分になれるかも、というくらいの安易な理由でした。

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