作家の読書道 第219回:今村翔吾さん

2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』を刊行してデビュー、翌年『童神』(刊行時に『童の神』と改題)が角川春樹小説賞を受賞し、それが山田風太郎賞や直木賞の候補になり、そして2020年は『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞を受賞と、快進撃を続ける今村翔吾さん。新たな時代小説の書き手として注目される今村さんは、いつ時代小説に魅せられ、何を読んできたのか? 軽快な語り口調でたっぷり語ってくださいました。

その1「小学5年生で『真田太平記』を読む」 (1/6)

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――今村さんは本をよく読む子どもでしたか?

今村:幼い時に絵本はすごく読んでいましたね。うちのおかんが「本を読む子にしよう」と思ったんか、通販みたいなので大量に買っていたのが家に何百冊かあったと思います。『三びきのやぎのがらがらどん』とか。『ねないこだれだ』が好きすぎて、僕が読んでいるところをおかんが撮った動画が残っています。最後の「おしまい」っていうのをやりたがって、何回も行ってる動画が(笑)。
 そのわりに本は嫌いやった。小学校の時はほとんど読まなかったです。学校の課題図書も読まされている感があって、めっちゃ嫌やなーと思ってました。勉強もそうやけど、本も「読みたい」というタイミングが人によって小学生やったり中学生やったり、もっというたら定年迎えてからだったりするから、その人が読みたいと思わんタイミングやと本との出合いは悪くなるんやないかな。
 で、はじめて読んだのが、小学校5年生の時で、その頃から「なぜそれをチョイスした」と言われているんですが、池波正太郎の『真田太平記』なんです。奈良の、今はもうない百貨店みたいなのの向かいに、今でもある古本屋があって。そこに朝日新聞さんの単行本の全巻がセットで売ってたんですよ。それを母親に「買ってほしい」って言うたんですよね。

――なぜそれをチョイスしたんですか(笑)。

今村:自分でも「ヤバいな、その小学生」って思うけれど、関西人って「関西人=真田幸村が好き」みたいなDNAが若干あるんですよ。というか「徳川は悪い奴や」という刷り込みや、関東に対する対抗意識がある。関東嫌い、関東を作った徳川嫌い、イコールそれに抗った真田格好いい、って。だから歴史を知らなくても、真田幸村というのはなんとなく聞いていたんですね。それで古本屋に『真田太平記』があったから、猿飛佐助とか霧隠才蔵とかが活躍する講談物のようなものをイメージして「欲しい」と言って。夏休み中やったんですけれど、読み始めて「あ、猿飛佐助出てこおへんのか」と思いながらも読み出したらめっちゃ面白くて、夏休み40日間で全巻読んだんです。
 そういう意味で読書の入り口は池波正太郎先生で、そこから池波先生の本とか、司馬遼太郎先生、藤沢周平先生を読みはじめて。あとは敬称略でいうなら吉川英治、海音寺潮五郎、陳舜臣とかですね。

――メジャーなところを軒並み。

今村:そう、その頃出ているものは軒並み読んで、中学校くらいには読むものがほぼなくなって。それで池波先生の『男の系譜』とか、『男の作法』とかのエッセイを読んで、「どんだけ若くてもチップはしなさい」みたいなことを学びました(笑)。高校生の時にはもう、友達と旅行した時なんかに500円玉とかをポチ袋に入れて仲居さんに渡す生意気な男になっていました。蕎麦も、その地域や店によっての味があるから、つゆに全部つけても半分つけてもいいとか、人のもんを「まずい」とかいう奴は野暮やとか、鮨屋で「ガリと呼ぶな」とか「あがりと呼ぶな」とか、いまだに守ってます。「お愛想」も言わへんもん。「お会計お願いします」って言います。池波先生の思想を学んでいるから(笑)。

――ところで奈良の古本屋さんとおっしゃいましたよね。生まれは京都ではなかったでしたっけ。今は滋賀にお住まいですが。

今村:そう、京都の一番下の木津川市というところの旧加茂町が出身で、そこは京都でありながら生活圏がもう奈良なんですよ。県境超えて奈良で買い物するのが普通、みたいな。京都市内に行くには4、50分かかるのに対して、奈良までは10分、15分みたいな。

――関東への対抗心が刷り込まれたというのは、大人がなにか言っているのをよく見聞きしたといった体験があったのでしょうか。

今村:まだちょっと昭和の気風があって、そこらへんで酔っ払ったおっちゃんが「東京もんはー」とか「徳川がどうの」と言うてる時代やったんです。それに京都でも太閤さんは人気がありましたね。聚楽第だったり公家の文化的な意味合いもありました。まあ、もちろん今も阪神ファンやし。

――今振り返ってみると、どんな子どもでしたか。家にいるほうが好きな子どもだったのか、それとも...。

今村:どっちかというと小学校の間はインドアでした。でも田舎だったんで、都会の人から見るとめちゃくちゃアウトドアみたいなこともしてました。銛みたいなんで泳いでいる鮎を刺す能力とかはあるんです。好きだからできるのではなく、その地区の子はみんなできるレベルなんです。だけどどちらかというと、家でパズルしたりプラモデル作ったりするのが好きやったかな。で、小学校5年生で『真田太平記』を読んでからは、冷房のきいた部屋で本を読むのが至福でした。

――でもいきなり『真田太平記』を読んで、当時の風習とか景色って思い浮かべられましたか。時代劇とかを見ていたりしました?

今村:時代劇は好きやったんですよ。大河ドラマも好きで、3歳とか4歳で渡辺謙さんの「独眼竜政宗」とか見ていました。侍が突撃してくるシーンが好きだったみたいで、「政宗始まったー」っていつも言うてて、七五三の時の動画でも「だてましゃむねー」って言ってます(笑)。僕は憶えていないんですけれど、おばあちゃんが言うには、NHKの歌舞伎とかもよく見てたらしいです。人形劇の「三国志」は再放送で見て好きやったと思います。
 でもまあ、当時についてそんなに詳しくないのに読ませてしまう池波先生がすごかったんじゃないかな。

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プロフィール

1984年京都府生まれ。「狐の城」で第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞を受賞。デビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で2018年、第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。同年、「童神」で第10回角川春樹小説賞を受賞(刊行時に『童の神』と改題)。20年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞と第8回野村胡堂文学賞をダブル受賞。