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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

送り火
送り火
重松清 (著)
【文春文庫】
税込630円
2007年1月
ISBN-9784167669041
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  荒又 望
 
評価:★★★★★
私鉄・武蔵電鉄富士見線沿線を舞台とする短編集。
主人公は、悩みを抱えた人たちばかり。自分なりに一生懸命生きているのに、うまくいかない。人生崖っぷちの中年男性、公園デビューにつまずく母親、いじめに悩む小学生。どの状況も自分自身にはあてはまらないはずなのに、それぞれの苦しみや悲しみ、もどかしさや先の見えなさが胸にしみる。読んでいて、すこしつらい。すこしつらいけれど、その分、主人公たちが出会う言葉がまっすぐに響く。良いことばかりではないけれど、きっと悪いことばかりでもないはず、だから大丈夫だよ、と、そっと力づけてくれるような物語。ああ重松清だ、としか言いようのない、この温かさ、心強さ。
ひとつの電車に乗り合わせた何十人何百人もの人たち。ひとつの電車が通り過ぎる街々に住む何千人何万人もの人たち。そのそれぞれにひとりひとりの生活があり、人生がある。いつもの電車のなかで、いつもは意識して見ることのない周りを見渡して、そんなことを思ってみるのはいかがでしょう。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 重松清は絶対値の高い作家だ。絶対良書。絶対感動。絶対感涙。特別でない日常の切り取り方が見事だ。同じ風景を生きているはずなのに彼だけに見える瞬間があり、彼だけが感じる心の揺れがあるらしい。だから「泣かせるなよ、この野郎」と思いながら、また手にしてしまうのだ。
 9つの短編のそこここにうつむく私が、立ち往生する私がいる。リストラや幼子の急逝や自殺願望。その当事者でなくとも、そこに到る心の軌跡にもう一人の自分がいる。
 天の巡り合せだろうか。テレビ番組内容捏造問題、電車ホームでの転落事故と居合せた職務を全うしようとする男性の話など、直近の事件事故が題材となった話もある。
「やめてくださいよ。そんなこと言われちゃったらこっちは生きてるひとがみんなうらやましいんですから」
 そう言われたら、生きるしかないよね。今を生きるしかない。 

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★☆☆☆
 『送り火』に出てくる主人公たちは、本当に切実で真面目。日々の暮らしというのがこんなにも報われないちっぽけなものなのか、と自分の人生までつらくなってきてしまう。しかしそこにきちんと幸せな哀愁を漂わせる重松力(造語です、すいません)はさすがです。重松清の本を読むと、ローテンションでちっぽけな幸せたちを認めてやってもいい気がしてくるので、人生に大殺界的な不運を感じている時期にはもってこいです。
 個人的には『家路』が好き。妻に「家を出る」と言って家を出てウィークリーマンションを借りるも、一人ぼっちの部屋の寂しさに負けそうになっている淋しい男の話で、結末に妙に感じ入ってしまいました。これ読んで感情移入してしまう私は淋しい子なのか。泣

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
はい、今月も重松さんです。働き者ですね。
さて、内容に入ります。今回もすべり落ちていきそうな人々をすばやくキャッチ。
小さいズレと後ろめたさからくる一大事を描いています。
 はっきり言って、重松さん系の話の方がよっぽど私にはホラーです。
しかも、救いようがない。いつ自分がこの中の主人公になるかわからない。
 特に「ハードラック・ウーマン」なんかは、多くの人が彼女の侵してしまった境界線のギリギリの場所に居るのではないかと思う。
最近、「あるある大辞典」などの番組捏造問題が話題になりましたが、張本人の方は読んだら泣いちゃうかもしれないです。
 重松さんはきっとすごく真面目な人なんだと思う。彼の書く大人が疲れ果てていたり、どん底気分なのも、今いる場所からすべり落ちないようにしなきゃ!というプレッシャーからきているからだ。
 だから、頑張っている人には毒にもクスリにもなる本です。あと毎度思いますが、あとがきはなくてもいいと思います。 

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 重松清さんの得意とする再生の物語は不幸のさじ加減がむずかしい。多すぎるとコチラまで陰鬱になってくるし、少なすぎると当たり前の幸せが引き立たない。
 東京都心から郊外に延びる架空の沿線、私鉄富士見線を軸に綴られた九つの短篇。
そこには、人生に疲れた人がいる、人知れずため息をつく人がいる。けっきょく劇的に変わる明日はやってこないけれど、それでも人々は物語の中でゆっくりと明日へ歩き始める。
 短篇集と言うのは難しい。九篇もあると中には心に響かない作品も含まれてくる。ましてや好みの作家となると自分でハードルを高く上げてしまうのでなおさら。
そんな訳で、今回はさすがの重松さんもやや出尽くした感があるよな!などと上から目線で一話二話と読み進めていた。しかし中盤からの盛り返し、さらに終盤の駄目押し。みごとです、失礼ぶっこきました。 

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 滅び行くもの、消え去るもの、喪われるものへの惜別を語らせたら、この作者の語り口に勝てる人はそうそういないのではないかと。何でこんな寒い時期に、寂しくて凍え死にそうな気分になるものを読まなくてはいかんのか、とも思うのですが。

 今回、さまざまな哀愁を抱えて、昼となく夜となく走るのは、都心と郊外の住宅街を結ぶ私鉄。俺の家は、JRの線路際で、最寄駅も当然JRですし、作者の意図している京王、小田急(どちらだか分からない程度の認識だし)あたりの雰囲気というのは、想像するしかない訳ですが、人々の生活に密着したものであるからこそ、そこには、街の新陳代謝の過程で顧みられなくなってしまい、時には取り壊され、時には取り壊されることもないまま、かつての喧騒が感じられ、かえってもの悲しさを醸し出す、そんなあれこれが点在しているんだろうなあ、と。

 できれば、もっと暖かい季節になってから読むことをオススメします。  

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 ああ、やっぱりと思った。先月の課題図書「哀愁的東京」に続く重松清さんの作品。
帯に書かれた「私鉄沿線」という文字にぴんとくる。
あとがきによれば、本書収録の9編は雑誌初出時には「私鉄沿線」というシリーズだったそうだ。
野口五郎さんのあのメロディ♪改札口で君のこと、いつも待ったものでした♪
今月もまた歌ってしまいました。

若い頃を振り返るとき、子どものことをあれこれ心配するとき、そして年を重ねた親のことを思うとき、どのページを読んでいても、同年代の重松さんがつむぐ小説は何かしら思い当たる。
そしてそれをきっかけに自分の世界へとはまり込んでしまう。
連れ合いを見送り一人暮らしを続ける母が登場する表題作の「送り火」は特に印象深い。
「お父さんも、家族をいちばん大事にしてたひとだったから」
このセリフ、まさに母から何度も聞いた言葉でした。

私鉄沿線沿いに住むさまざまな家族のなにげない日常生活が教えてくれるもの。
それは日々のささやかな出来事がどれほど幸せであるかということ。
帰宅する家族を笑顔で迎えよう、そんな気持ちになる一冊。  

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