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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

金門島流離譚
金門島流離譚
船戸与一 (著)
【新潮文庫】
税込700円
2007年2月
ISBN-9784101343198
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
”現代史の空白地帯”こと金門島で偽造品密輸業を営む藤堂が、表面上は穏やかだったこの島で次々と起きる血なまぐさい事件に巻き込まれていく。
とにかく、どんどん人が死ぬ。登場人物の大半が物語の途中で命を落とす。殺人、密輸、不貞、裏切り……と、どこまでもダークでダーティ。明るくさわやかな人物やほのぼのと心温まるエピソードは皆無。こういうものは苦手、と受け付けない人もいるだろうし、こういうものがたまらない、という人もいるのでは。
大陸からも台湾からも、世界の歴史からも政治からも切り離された金門島。家族にも生まれ育った日本にも元・一流商社員という経歴にも背を向けた主人公。罪の意識も善悪の判断もまともな感覚も失われた世界。流離譚、というタイトルが作品の雰囲気をよく表している。
日本人青年と台湾女性のカップルを描いた「瑞芳霧雨情話」は、途中からなんとなく先の展開が見えてくる気もするが、ただただ痛ましい。
2篇とも、最後に救いも希望もなく、ぽつん、と読み手を置き去りにするような感じで終わってしまう。後味が悪いというわけでは決してないが、寒々とした気持ちが残る。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 なんという幕切れなんだ。切ない。やりきれない。荒涼感が漂う。金門島。中国福建省アモイ東方海上にある131平方キロメートルほどの島。複雑な歴史背景が、国家に属さないという島を作り上げてしまった。かつての激戦地で人は人としての温情も確かな判断も失ってしまったのだろうか。そんな戯言は綺麗ごととして一笑されてしまう島なのか。
 元商社員の藤堂は密貿易をしこの島で生きている。名ばかりの家族は日本に残し、カネ、金、MONEY。小さな島で強欲が錯綜し、人はお金の前に「モノ」になってしまう。嗚呼、嫌だ。理解できない。と放ちつつ読む手が止まらない。漢字名が多く対人関係を整理するためメモを用意してしまったが、そうまでしてもやはり読んでよかったと思う。
 タイトルとは別の「瑞芳霧雨情話」も哀しい。その切なさがひりひり痛い。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 大学で国際関係学を専攻していたくせに世界地理やら世界史やらが私はすごく苦手なのです。それらに関わりそうな本には普段少しも興味をそそられないのだが、読んでみるとこれが面白いから困ってしまう。
 金門島は中国南東部、福建省アモイ市の東方の島。そこで密貿易を行って生きる男・藤堂を主人公に、次々と起こる殺害事件を紐解いていくというミステリー。金門島を舞台にしているだけあってミステリーに終始しておらず、アジアという地域にどろどろと根付く社会的な病や体質なんかが、私のような凡人にもわかりにくくない程度に上手く組み込まれている。最後まで少しも飽きずに読みきれます。
 『瑞芳霧雨情話』も一緒に収録された、とってもオトクな一冊です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 舞台になった金門島に関心を持つようになった。本書に地図が掲載されているが、見つけにくかった。
中国と台湾の間に位置する小さな島です。私は無知なので、
「これ架空の島なんじゃないの?」と疑りつつ広辞苑を引きました(もちろん、存在する)。
政治的しがらみの多い島なので、地形がわからないとちんぷんかんぷん。どうりで藤堂が長ゼリフだと思った!
 元エリート商社マンの藤堂の落ちぶれた様子を丹念に描くのですが、
どうも感情移入できない。だってなんか自業自得って感じだし。
注目したいのは、黒孩子(ヘイハイズ、と読む)である‘許全哲’だ。
黒孩子とは、中国で行われた(俗に言う)一人っ子政策の産物である。
彼らは戸籍登録されておらず、この世に存在していない者として生きている。
他にも女の子の黒孩子が登場する。生き残る道は、犯罪に手を染めるか体を売ること。
生きることが、人に使われることという運命を背負った彼らの存在は、小説の世界を超えて現実に問題を投げかけてくる。 

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 船戸与一さんの小説を読むためには、それなりの下準備が必要である。たとえば飲み物、傍らに用意しておくのはモルト・ウィスキーが望ましく、梅干をほり込んだ焼酎お湯割ではやや役不足である。ましてやフルーツ牛乳などはもってのほか。そして嫁さんと娘らを遠ざけ、一人になれる環境を作ったら静かに頁を開けるのだ。
 どこかで道を踏み外してしまった男がいる。陽の当る人生を自ら閉ざし非合法な世界に身を置く男がいる。
そこは遥か海上に台湾を望む金門島。島自体がある意味非合法なその場所で、男は過去に背を向けて生きている。しかし事件は起こり、過去と愛憎に翻弄されながら男は人生の坂道を転がり落ちてゆく。
口の中がカラカラになるような緊張感の中で、破滅へ向かうことを潔しとする男の美学がそこにはある。
 併録されているのは『瑞芳霧雨情話』。霧雨に煙る街で若い恋人達の身に振りかかった悲恋の物語、染み入ります。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 一時期、船戸作品を集中的に読み倒していた時期があって。複雑怪奇な世界情勢を背景に、強くて、ずる賢くて、一癖も二癖もあるような連中が、策略をめぐらし目的を果たすが、しかし……という展開に、幾度となくうっとりしたものでした。その頃に読んだ作品と同様、確かに、今回も外部条件は綿密に練られているなあ、と思います。

 中国・台湾間の国際政治的な空白地帯・金門島を舞台に、怪しい取引で金を稼ぎ、刹那的に生きていた元・エリート商社マンの藤堂。しかし、ふとしたきっかけで、彼の捨ててきたはずの「過去」が呼び覚まされ……

 問題は、盛り上がること必至のこの設定を、わずか300ページ程度の中編にまとめちゃったことにあると思うのです。これだけ大風呂敷広げたら、昔なら上下巻各600ページ2段組くらいの話になっててもおかしくないのに。

 久々に会った「友」が、小さくまとまっちゃったことに対する落胆ゆえの、★3つであります。  

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
 どうしてそこまでして、タイヤル族とベトナム人のカップルを助け出そうとするのか?
そのことがずっと頭から離れないまま読み続けた。

 舞台は中国本土と台湾にはさまれた金門島。元商社マン藤堂が、多くの出来事をくぐり抜けてたどり着いたこの地で、密かにしたたかに生きている。
愛車オペルを転がしてあちこちに出かける。ビックリするほど行動力のあるルーマニア人と知り合う。
10年ぶりに会いに来た息子のあまりの変貌ぶりにガックリくる。
久しぶりに連絡してきた大学時代に友人が殺されてから、ストーリーはいよいよ目が離せなくなってくるのだが…。
いやはやバイオレンスシーン続出で、読むのが辛かった。
「こんな結末になるなんて」とカップルの行く末に打ちのめされる。
それだけに、食事のシーンが待ち遠しかった。
なにしろ私の大好きな中華だ。しかも藤堂のメニュー選びが私好みでなんとも嬉しかった。
小海老入り炒飯と酢豚、茄子の味噌炒めと鴨の卵スープ、うん、うん、どれも美味しそう。
ついでにバイキング方式の朝食メニューも教えて欲しいと思った。
もちろん、中華粥は必須でしょうね!  

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