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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

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誉田哲也 (著)
【新潮文庫】
税込660円
2007年2月
ISBN-9784101308715
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
1人を勧誘すれば携帯電話もインターネットも無料になるというサイトに登録した高校生たちに、次々と不審な事件が襲いかかる。
とにかく、盛りだくさん。恋に友情に親子の愛。嫉妬に羨望に憎悪。援助交際に脅迫電話。そして、悪意や欲望が渦巻く“向こう側の世界”。 もう、なんでもありだ。
ひっかかる人なんているのか? といういかにも胡散臭いサイト。そんなことできるのか? という携帯電話の使われ方。このあたりまではかろうじて現実味があったが、”向こう側”はあまりに不可解かつ摩訶不思議で、想像力が追いつかない。「だからこれは架空の世界なんだってば」と何度自分に言い聞かせても、どういうことだ? こんなことあり得るのか? と混乱至極。
胸の奥がぞわぞわするようないやーな感触を覚えながら読み進めるうちに、現実と非現実の境目がわからなくなる。読み終えて、なんだかすごい物語だったな……と息をつきたくなる。そして、「で、あれは結局どういうことだったんだ?」 「で、あの人は結局どうなったの?」とすっきりしないものが残る。細かい部分についてはあまり考えず、次はどうなる何が出てくる、と一気に読むのが良いのでは。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 どこまでが現実でどこからが空想の世界なのか。楽しいはずの学園物語が、気がつけば墓やら死という文字から逃れようと画策していた。「携帯代が無料!?」始まりは誰もが飛びつきそうな話題。けれど、友達を勧誘する毎に増える死者。これは偶然じゃない。これはそこにいない何者かが働いている…。
 今やネットは常識以前。それなくしては生活が成り立たない人も多い。現にこの原稿依頼先の「本の雑誌社」とは会ったこともお喋りしたこともない。誰を信じ、何を守るか、クリック一つの決断にそこまで神経を集中させている人がどれだけいるだろう。怖いものみたさ、好奇心、友達と一緒という仲間意識。人がひとつ扉の向こうに行くことはいとも簡単にできる、それが今。そしてそこから抜け出そうとする時必要とされるものは、ネットでは買えない。ダウンロードできない。本当に必要なものは…。それは至極困難を極めるけれど出来ないことじゃない。 
「デスノート」や「バトル・ロワイアル」が好きな中高生には、より楽しめる1冊だろう。 

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  藤田 佐緒里
 
評価:★☆☆☆☆
 第四回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。ホラーサスペンス大賞ってなんだ? すごい勢いで怖そうだ。怖いものが何よりも嫌いなのでとてもイヤでしたが、とにかく読んでみた。
 うーん、なんというか…。PC&携帯電話版『リング』(♪くる〜きっとくる〜♪の『リング』)のような、『着信アリ』のような…。面白いことはすごく面白いんだけど、どうもこういう話は苦手である。でも小説の中でたぶん著者が述べたかったのであろうPCや携帯電話の世界の闇の部分には、確かに共感しました。面白いのでがつがつ読めます。
 しかし、えーと、やっぱり結末にどうしても納得できないので★一つになっちゃいました。 

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 先月の書評でも書きましたが、私は基本的にホラーやミステリーなどのいわゆるエンタメ系小説は読みません。
それは、「ありえない」ことが書かれているからです。
 恐らく、作家さんも私のような輩をどう説き伏せるか、に命をかけていらっしゃると思います。
だから意固地になって読みました。が!反抗の甲斐なく、巻き込れてしまった。
 悔しいので考えてみました。
 仮想空間と現実世界のリンクが成立した理由その1。
〈もはや、2007年現在の世界がそもそも仮想空間化しているため違和感がない〉から。
 理由その2。
〈‘自立’という普遍のキーワードが軸にあった〉から。
 この二つによって、「ありえなさ」をリアルな世界として成立させたのだと思う。
 主人公の可奈子がサイバー空間に迷い込んだ時、現実社会では守られる側から守る側へ成長する。
その過程が「社会に出て行くこと」と同義に思えて恐怖(ホラー)を煽られた。
 ありえない世界の方が、現実よりも厳しい。「甘えるな!」容赦ない作者からの試練に可奈子はどう立ち向かうか?!必見です。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★☆☆☆☆
 ホラー映画もホラー小説も妖怪人間もできるかぎり遠ざけて今まで生きてきた。そんなドロロンえん魔くんが精一杯のこの僕に、今月は現代ホラー小説だと言う。
 加入するとパソコンや携帯の通話料が無料になる、口コミで広がったそのプロバイダに登録した若者が次々に奇怪な事件に巻き込まれ始める。謎の死を遂げる友人、忍び寄る黒い影、はたして彼らは逃げ延びることができるのか?
 本来ならばビビリながら、そして誰かの視線を背中に感じながら、さらに生唾のひとつもゴクリと飲み込みながら怖々読み進める小説なんでしょうけれど、残念ながらこの作品は全然まったく恐ろしくなかったです。
なんと言いますかリアリティーがない。せめて日常の描写にもう少し生活感があれば、超常的な場面が引き立ったやもしれないが。
 そんな訳で、食わず嫌いは無理して食べても、やっぱり美味しくなかったです。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 子供の頃から、どうも「電話」という奴は相性が悪くていけません。いつでも、何の前触れもなく、人の都合も構わず、ずかずかと傍若無人に踏み込んでくるのが性に合わなくて……とまあ、現代社会にまるで適応しきれていない俺の、原初の恐怖感を存分に煽ってくれたのが、この作品。

 「無料で使い放題」なんていう、大人ならそうそう騙されそうもない甘言に乗せられ、サイトに登録したのが運の尽き。凄惨な目に遭わされる登場人物たち。にしても、多少なりとも目端の利く高校生なら、頭の悪い大人より、数段警戒心が強いはずだし、こんな手口に引っかかるとは思えないんだが。

 とは言え、呪詛を放つケータイだの、夜の学校だの、壊れた人々だの、俺の苦手なシチュエーションや道具立てが、嫌と言うほど登場。冷静に考え込んでるどころじゃありません。会社に山と積まれた端末が、いっせいに俺の悪口を言い始めたら、と思うと、仕事もおちおちできそうにない……  

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
 あまりの残酷なシーンにおののいて、数日間「アクセス」からそっと離れる。
また気持ちをあらたに読み始め、やっと読了。
ホラーサスペンス作品は採点員をやっていなければ、おそらく手に取ることはない。
しかし、途中でやめずに最後までしっかり読んで本当に良かったと思った。

「特徴をひと事で言えば、今人気のインターネット&携帯ホラーということになろう」と解説にある。
女子高生の可奈子が携帯電話がらみのトラブルに巻き込まれ、彼女を取り巻く世界が暗黒の一途をたどる。その凄惨さが半端ではない。
そんな中、親友の尚美とのやりとりや同級生の丸山君へのほのかな思いに触れ、ほっとさせられる。
専業主婦である可奈子の母・和泉には、自分を見ているようで、時にドキリとした。
「まるで期間限定のフルーツケーキを頬張るように、互いに甘え合う」母親と娘との関係には思わず苦笑い。
現在進行形でケーキを頬張る身としては、その表現に五重丸をあげたいくらいだ。

途中のあらゆる残酷なシーンを帳消しにするようなさわやかなラストに胸をなでおろし、
「ただほど高いものはない」という教訓を思い出した一専業主婦のワタクシなのでした。  

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