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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

ジャージの二人
ジャージの二人
長嶋有 (著)
【集英社文庫】
税込450円
2007年1月
ISBN-9784087461183

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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
仕事を辞めて小説家を目指す「僕」は、ほかに好きな男ができた妻を置いて、父親とその飼い犬ミロとともに軽井沢の山荘で数日を過ごす。
ひょろひょろと鉛筆で描いたような絵の表紙がぴったりの、ゆるーい雰囲気の物語。校章つきのジャージ姿でだらだらと暮らす2人の男。漫画の話で盛り上がったり、浮世離れした女性作詞家を実は魔女に違いないと言い張ったりと、のん気な話題ばかり。なんとなく情けなくて、でもなぜか愛おしいこの親子。ぽつりぽつりとした会話も、いかにも父親と息子っぽい。茶色のシベリアンハスキーのミロも、間が抜けていてかわいい。
続編が「ジャージの三人」。手抜きか? というタイトルが、またおかしい。
シリアスな要素もあるにはあるし、深い……と唸らされるような言葉もあるけれど、全体的にとぼけた雰囲気が漂っている。難しいことはヌキにして、ところどころでくすっと笑いながら、肩の力を抜いてのんびり読みたい。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 好き嫌いの分かれるタイプの本かもしれない。
 主人公は勤続5年で退職。妻は浮気中。再婚した父夫婦は不仲。その娘は人混み嫌いの映画好き。そんな彼等が入れ替わり立ち代り北軽井沢の山荘で過ごす夏の物語だ。主人公は一応小説家を目指してはいるが、願ったから叶うという職業ではない。せめてもと薪割りに精を出してみたり、妻の提示する「ジコジツゲン」に悩んでみたり。設定が愉快だ。世間を震撼とさせる事件は何も起こっていないのだが、蝉の鳴き声が変わるように少しずついろいろ変わっていく。見失いかけていた自分の軸。わかりかけてきた自分なりの時間の進ませ方。だからもう家に帰る。山荘という仮住まいでなく自分の家に。「あり」なんだろうな、と思う。もういろんなことが。だから優しくなれる。家族に他人に街角に。そんな本だ。ガシガシと猪突猛進している人には馴染めないかもしれないが、少し肩の荷をおろしたい気分の時に適書だろう。
 解説は柴崎友香。彼女の描く日常風景が好きな人には「アタリ」の1冊だと思う。 

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 私はこういうどうでもいい(失礼)内容の話が大好きである。
 妻に浮気をされている主人公が、三人目の妻ともうまくいっていないらしい父親と二人で(飼い犬もいるので正確には二人と一匹で)山奥へ避暑に出かける。山奥でジャージを着て暮らす。ジャージの二人。もうこのネーミングセンス、なんなんだよ、オイ!と思って笑っちゃうんだが、こういう空気感とセンスは全然嫌いじゃない、というかむしろ好き。
 こういう書き方をすると、ふざけた面白おかしい小説だと勘違いされるといけないので言っておくが、本当はとても寂しくて切なくて、真面目な感覚でしか読めない小説です。だから別に、ふざけた小説ではないんである。
 できれば朝まで飲み歩けるくらい元気な時期じゃなくて、風邪かなんかひいて寝込んでいる時にでも読んでほろりとしていただきたい一冊です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 私は思う。ドロップアウト小説に登場する人物は大胆であるべし!
なぜって?それは文学の楽しみだからだ。人生のドロップアウトなんて早々できやしないんだ。
それをやってのけるのが、ブンガクなんじゃないかな〜?社会への後ろめたさは主人公ではなく読者が感じるから面白い。
 ということで、この本の登場人物はとてもまともだと思いました。最近よく見かけるバランスのいい人っていうのかな。
小説の佳作も取ったことがあるし(本当にむくわれない人は賞は取りません)、不倫して自分を捨てた妻にも激怒せず(物分りよすぎ)、自暴自棄になって自殺を図ることもない。ドロップアウトというより、人生の小休憩、遅めの反抗期を描いた作品です。
 どちらかというと、私は主人公「僕」の父親の方に興味を抱きました。
だって3度目も結婚してるのに、なんとなく上手く行かない雰囲気だし、娘ほどのグラビアアイドルを被写体にレンズ向けるカメラマン。
昔はムササビを追いかけていたっていうんだもの。
「ちゃんとしてない」父親は親としてはだめでも男としては絶対面白いはずだ。  

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 ピッタリくるほめ言葉が浮かばない。ボキャブラリーのなさを自覚しつつもあえて言うなら、ナンカコーこの小説好きです。波長が合います。
 妻が堂々と浮気をしている。それを知りながら、うろたえつつもその事実を棚上げして生活を続ける主人公。物語は彼の視線で淡々と進んでゆく。
最初はくさすつもりで読んでいた。主人公とその父親、父子そろって社会生活に適合できない二人の男が繰り広げる避暑地でのゆるゆるな日々。そんなゆるゆるな日々の中で時折主人公は妻を想う。なんとまあ、だらしのない男たちだろうと。
ところがいつしかナンカコー他人事に思えなくなってきて、気がつけばすっかりその淡々と進行するゆるゆるの日々に入り込んでいた。さらにそんな月日の中でうつろいゆく主人公の心模様に頷きながら、本人になり変わって避暑地から帰ったあとの妻との生活にまで思いを巡らしていた。
ナンカコーすっかりはまっちゃいました。 

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 ハンバーグレストランに行くと、肉汁が跳ね返るのを防ぐため、白い前掛けをさせられますよね。アレをまとうと、どんな美人でも、えらい人でも、その属性をことごとく奪われ、ただの「ハンバーグを食べる人」にしてしまう魔法のアイテム。

 この作品における「ジャージ」という服装も、人がふだん着こなして、自分では「個性」だと思っている、いろいろな虚飾をいったん剥ぎとり、ぽつねん、としたたたずまいを着る人に与える、魔法のアイテムだと思うのです。 そして、ジャージにはやはり、都会よりは、ケータイもロクに入らない片田舎が似合います。いつでも連絡が取れる状況ってのは、便利であるのと同時に、人の心をしばしば蝕んでいくのだと思うし。「おおっ、繋がったー」くらいの頻度が、人付き合いにはちょうどいいなんじゃないかなあ、とつくづく思うのです。

 人間関係に疲れたら、ジャージで山に籠もって何もしない、そんな風に過ごせたらいいなあ。  

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 すでに中高年の域に入った父親、そしてすでに親元を離れたはずの息子が夏が終わろうとする時期に二人で北軽井沢の別荘に来ている。
父親はカメラマン、そして息子は仕事を辞めたばかりの小説家希望。
その二人が薪割りだ。二人とも妻との関係が危うくなっている。
しかも父親は三度目の妻だ。
「最初から40から60センチぐらいのつもりで。気持ちに幅を」。
父親はそう言い残して犬の散歩に出かけてしまった。
「気持ちに幅を」。残された息子はひたむきに鋸を引きながら父親の言葉を反復する。

都会から遠く離れた別荘地で、久しぶりに顔をつき合わせた親子がそれぞれに心の奥をのぞいている。
「ドリフのコントみたいだ」と思わず口に出るようなジャージ姿の父親と息子が相手の家庭について心配し合っている。
親子とは言え、男同士の共同生活。この二人のつきはなし加減の距離感がなんともいい。
「なるようになるだろう」
長嶋さんのつむぎだす心がほどけるような空気が好きだ。  

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