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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

吉田電車
吉田電車
吉田戦車 (著)
【講談社文庫】
税込540円
2007年1月
ISBN-9784062756310
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  荒又 望
 
評価:★★★★★
吉田戦車が電車に乗って旅に出る。そこで見たもの、聞いたもの、食べたもの、思ったこと、考えたことを自由気ままに綴った紀行文。
「吉田戦車というと、えーっと、かわうそ君、だよね……?」くらいの知識しかなくても、存分に楽しめる。過激で豪快で破天荒な雰囲気を勝手に想像しつつページを開いたが、まったく違う。実につつましやかで、ほほえましくて、こんな言われ方は心外だとは思うが、なんだかかわいらしい。
行く先々で必ず面白いことに出会う、あるいは面白いことを見つけてしまう、思いついてしまう著者のアンテナの冴えっぷりが素敵。何かしてやろうという意気込みはまったくないのに、それどころか、かなり気の抜けた旅路なのに、あんなことが起きたりこんなことに遭遇したり。ところどころに添えられたイラストも、なんとも楽しい。本書の前後に出された「吉田自転車」、「吉田観覧車」も読まずにはいられなくなること請け合い。
そこかしこで顔がにやけたり吹き出しそうになったりしてしまうので、電車のなかなど人目のあるところで読むのは避けるべし。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 たまらない、この脱力感。初めての吉田戦車の本に、これまでの人生に落し物をしてきたような気になった。電車に乗って何処かへ出かけ好きな飯を食らう。それが好物の麺類なら尚良し。旅の目的などかなり適当。「神社といえば伊勢でしょう」のノリで出かけた伊勢うどん。ふと思いついた厄払いを口実にした佐野厄除大師と珍味ラーメン。たったそれだけのエッセイがいちいち愉快。元気をもらった。今の私が抱える悩み事など400円の伊勢うどんで帳消しだろう。こんな著者吉田戦車の出身は岩手県。同郷である。「病的なまでに波風立てずに生きていきたい」というのは、県民性をずばりいい当てて妙である。その生き方を全うするためのエピソードのあれこれが又面白い。重松清とは別の意味で「見ている瞬間」「感じる心」が豊かな人、なんだと思う。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 やってきましたよ、吉田戦車!このアホさ加減、なんとかしてくださいよホントに。
 麺を求めて全国を巡る鉄道の旅を綴った激走爆笑エッセイです。ネタとしてはたぶんブログ程度のものなんだけど(いや、面白いんだけど出来事のレベルとして)、吉田戦車にかかればあら不思議。一気に三谷幸喜映画並みのスケールに大変身。素晴らしい才能です。私も吉田戦車くらい面白いことが言えればもう少し重宝されるだろうに…。
 そこここに散りばめられたイラストも文章と相まって爆笑を誘います。非常に共感できるだけでなく、ちょっとした豆知識にもなり、ツッコミどころが満載であり、そしてやっぱり笑わざるを得ない。エッセイを普段ほとんど読まない私もとても楽しませてもらいました。大満足の一冊です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
『吉田電車』というタイトルにちなんで私は今回、この本は電車の中で読むことにしてました。
気が向いたページを適当にめくって、徒然なるままに読む。きっと彼もそうやって読まれることを喜んでくれるはず!
なんて押し付けがましくいいわけをしながら。(単に文章が短いので一駅で一章読めるから、という理由だが)
 だけど、私はこの規制に早くも後悔する。
笑えないのだ。声を上げて「ギャハハ」と笑いたい!だが、乗客がいる。
朝のラッシュで見知らぬおじさんとキスしそうなくらいの密接空間で、
TPOをわきまえた私は‘ニヤケ’に留まるので精一杯。
 飛田給で吉田戦車が中年男性とユニクロ3兄弟になったくだりなんて、最近太り始めてきた顔と腹のエクササイズになった。
何よりうれしかったのは、京王線ネタがちらほら出てくるところだ。文中に「調布」とか「深大寺」とか出てくると心でガッツポーズ!
(採点委員の中で、この若干田舎な駅を知っているのは私くらいだろう。ふふふ・・・)と、ちょっと優越感。
 おかげで「東京住まいだけど03区域じゃない」というコンプレックスも解消された。
 鉄道エッセイだが、食事はもっぱら麺類。普通、旅に出ると食事でうまいものを食べようと躍起になるが、結構まずそうなものも食べて損しているからホっとする。
 作者のゆる〜い感覚が‘伝染るんです。’疲れている人におすすめ!

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 決して鉄道マニアではない著者の、それゆえに力の抜き加減が丁度いいころあいの電車による旅ルポ的エッセイ。
しかも電車の旅なのに駅弁とは距離をおき、あえて麺類に固執するというスタイルをあくまで貫いているところが男らしい。
あとはもうダラダラと、いたって大雑把な予定の元に行き当りバッタリ的なルポが続く。
そして文中、同じユニクロを着た三人の中年オヤジを惑星直列に例えてみたり、地下鉄大江戸線はユメモグラってネーミングの方がショッカーの怪人っぽくってよかったのにと思ってみたり、青函トンネルでは遥か頭上の海を泳ぐイルカやナマコやホッケに思いを馳せてみたりする、そんな和やかな著者の洞察力や思いが笑いを誘う。
 惜しむらくは、大阪まで足を伸ばしながら何故に我らが南海電車に乗ってはくれなかったのか!さらに、なぜ最後までかわうそ君の登場がなかったのか!と、その二点だけが残念でならない。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 鉄道。それは、「キング・オブ・ホビー」と呼ばれ、それこそ、「乗り鉄」「撮り鉄」「模型」果ては「時刻表」「駅弁」といったサブジャンルに至るまで、極めて熱くて、時にしばしば暑い、そんな人たちが目白押しな趣味だったりします。俺はそんな彼らの姿に憧れつつも、今さらその境地に至るのは無理だろ、と自分を抑えるのに必死です。

 この作品は、そんな熱さ(暑さ)とは対極にありながら、でも、読後すぐに、鉄道に乗りたくなる、という、不思議な効果をもたらしてくれます。

『伝染るんです。』をはじめ、読者を不条理で奇妙な世界に突き放し、不安な気持ちになりつつも、つい笑ってしまう、そんなギャグを提示し続けているコミック界のトップランナーが、淡々と旅をして、淡々と鉄道への想いを語る。その語り口の熱の無さこそが、かえって、旅を愛し、鉄道を愛し、電車を愛している著者のありようを感じさせてくれます。合間を飾る吉田絵も絶妙。  

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 日本全国各地、電車に乗ってご当地名物(主に麺類)を食べてくる。
例えば、近鉄に乗って三重県伊勢の伊勢うどん、JRのあずさに乗って長野県白馬の山菜そば、近場では山手線外回りに乗って上野経由浅草でどぜう鍋を食べる。
『伝染るんです。』で名高い吉田戦車さんの食べ乗りエッセイだ。

旅先でおもしろいものを見つけるのが、やたらうまい。
例えば、電車内にあるプレートの文字に目を留める。「手歯止めよいか?」
よいか?と問われても…。
佐野駅では、昔の新幹線の鼻と思われる黄色い丸いものが何の説明もなく置いてあるのを発見!
その写真を見て、私は笑いが止まらなくなった。
前月の重松さんに続き、吉田さんも私と同年代!
まったくもって同窓会でも開きたいノリだが、小学生の娘を持つ気持ちなど今回も共感する場面が実に多い。
娘さん同行のエピソードは、吉田さんの父親ぶりあたふた加減が見え隠れして、なんとも魅力的だった。

そして吉田さんの激しく話をそれるところがなんともいい。
もちろん彼独特のイラストも満載で、旅の醍醐味をぐっと深めてくれた。  

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