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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年3月の課題図書ランキング

クジラの彼(1・2)
クジラの彼
有川 浩(著)
【角川書店】 
定価1470円(税込)
2007年2月
ISBN-9784048737432

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  小松 むつみ
 
評価:★★★★
 制服好きにはたまらない、甘くて甘い自衛体系恋愛小説集。
 有川さんやってくれましたね。いや、素直でいいです。自分の好きなものぜーんぶ詰め込みましたって感じで、存分にキュンキュンさせてもらいました。
 しかし、ただのラブロマではありません。そこは有川氏、得意分野(なのか?)を引っさげて、甘ーいロマンスとは一見対極的な感もある、自衛官たちが主人公だって言うんだから、こんなの有川しか書けないぜ。(なぜか勢い込んでしまう)
 この路線、突っ走ってほしいです!

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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 陸海空それぞれの自衛官たちの恋バナ。国防という特殊任務を帯びながらも、あくまでひとつの職場として自衛隊を描いていて、一人一人に「隣の自衛官」的な親しみを感じさせる。
 戦闘機のトイレの構造とか、潜水艦乗りは携帯電話さえ繋がらない場所へ突然にしかも数ヶ月も行ってしまうとか、綿密な取材の賜物である独特のエピソードが沢山ちりばめられていて興味深い。「図書館戦争」シリーズでの「言論の自由」のような目立つテーマがないので、作者の好きな世界││規律の厳しい団体生活とか、有能なはみ出し者などなど││が、より明瞭になった。みんな仕事と恋人に誠実で真面目で、頭が下がります。
 ただ、自衛隊というシチュエーションを楽しむには、憲法解釈や海外派兵などの課題がどうしても私の頭からは離れなかった。

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  神田 宏
 
評価:★★★
 著者の過去の作品の登場人物の恋愛を描くサイドストリーを含む6編。それぞれ登場人物は自衛官やその関係者であるところが異色。潜水艦乗りの彼氏とその業務の特殊性から、待つことを強いられる彼女との恋を描く表題作。男顔負けの猛者(?)である女性教官が、同僚の男性隊員に積年の想いを伝えるまでを描く『国防レンアイ』など。イマドキなんだけどちょっと職業が特殊なヒロインたちの恋模様がテンポ良い会話で描かれている。中でも秀作は男社会自衛隊ならではの「トイレ」の問題を皮肉った『ロールアウト』だ。航空設計士の女性が打ち合わせで訪れた基地で、格納庫間を移動するのにトイレを通過することを、当然のように求められ、その違和感から自ら設計する航空機のサニタリー関係の充実に奮闘するといったストーリー。彼女が「男性がオシッコしている後ろを平気で通れる若い女性なんて存在しません」と啖呵を切るところは笑ってしまった。
 でも自衛隊って有事の時には人を殺すのが仕事なんだよな、やっぱり軍隊だし、といった思いがどうしても頭から離れず、その分、平時のお話が虚ろに見えてしまった。

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  福井 雅子
 
評価:★★★
 一度潜ってしまえば次はいつ会えるのかわからない潜水艦乗りとの恋を描いた表題作など、6編の恋愛小説を収録した短編集。自衛隊という硬派なイメージとは裏腹に、甘くかわいい恋愛が満載の一冊。
 著者が「ベタ甘なラブロマ」と宣言する通り、少女マンガのような甘いラブストーリーばかりであるため、この手のラブストーリーが苦手な人には受け入れられないかもしれない。とは言え、人間、疲れたときには普段は敬遠するようなこってり甘いお菓子が食べたくなったりするもの。疲れた心にはこれくらい大甘のラブストーリーが「おいしく」感じられるかもしれない。登場する自衛隊員たちの純朴さと凛々しさが、甘いデザートに添えられたミントの葉のように、「ベタ甘なラブロマ」にささやかな清涼感を添えている。
 確かに、読んでいて気恥ずかしい部分もあるが、大人の恋愛を語ったドロドロの愛憎劇を読むよりは、純粋でかわいくて読後感もよい。恋をすれば人はみな純粋でかわいい行動に走るもの! 疲れた心にお薦めの一冊。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
 作者があとがきでことわって(開き直って?)いるように、「活字でベタ甘」全開のラブロマンス。ただし、彼か彼女かあるいは両方が自衛隊員! 国防も恋愛も死ぬほどハードでないハズがない?!
 扉のイラストの創意あふれるカクテルのように、それぞれ形も味も異なる恋の話6篇。どれも甘くて飲みやすいが、実はとびきり強かったりして、クラッときたり、胸が苦しくなったり、泣き上戸になったりすることになるので、要注意。
 これだけベタにキャラが濃くても、暴走しても、いいタイミングで決めても、歯の浮くような感じにならないのは、ちりばめられたエピソードに、命がけの職務ゆえの苦悩や、制約の多い状況下での泣き笑いの葛藤など、信頼関係に基づく綿密で地道な取材があってこその肉声が反映され、生き生きとした独特の魅力になっているからだろう。作者の「活字特有の胸キュン」へのこだわりをかみしめ、読者のペースと空想に委ねる“あそび”の部分の大きさを愉しもう。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
 好きな人は好きだろうな、と当たり前のことをつくづく思う。この読みやすさ、一途さ、作家が好んで使う「正論」という言葉が何度も登場する、作家が考える正しいことが肯定される世界、決して不愉快ではないが、その力強い単純さにたじたじとなる。自衛官の恋愛小説は、その職業柄さまざまな障害が立ちはだかるが、それを乗り越え、何れもハッピーエンドとなるという王道を行く。ケーキ・バイキングのような甘さの芋づる式短編集だが、胸焼けすることもなく上手い作家だと思う。それにしても永遠に別の価値観が席巻することのない前向きな自分への肯定の物語ばかり書き続けていくのだろうか、いやそれも又良しかも。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
 帯の言葉がすべてを物語っているので、もう書くことがないくらいです。
 ││ 恋は始まるまでがいちばんいい ││
 おっしゃるとおりです。どきどきして、胸キュンして、キラキラして、そうして成就する恋は幸福につきます。
 収録されている6つの短編それぞれが、ピンと立っていて、すりすりしたくなるような愛おしさ。いちばん好きなのは、表題作の「クジラの彼」。なぜクジラなのかが彼氏ができる大事なキーワードとなり、そして恋の成立もクジラから。この人のこと好きダー!って思う始まりの気持ちはどうしてこういいもんなんでしょう。たまさか結婚し、永遠に続く(と思われる、もしくは思いたい)平日の前の祝祭気分なんですな。おっと、この短編の中には結婚後の話もありますが、ちゃんとそこにも結婚前の時間は存在しています。
 社会の厳しさを知った大人向けのラブ短編、いいですよ。

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