年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

ロリヰタ。
ロリヰタ。
嶽本野ばら (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年3月
ISBN-9784101310718
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★★☆ 
 ロリータファッションに身を包む作家の「僕」は偶然出会ったモデルの美少女「君」を好きになるが、年齢差のある2人の関係は世間に受け入れられず、激しい非難を浴びる。
 嶽本野ばらは、勝手な先入観で手を伸ばさずにいた、いわば読まず嫌いの作家。乙女のカリスマか……ロリータではなくロリイタでもなくロリヰタか……タイトルに句点か……ふーん……と、なんとなく気乗りしないまま思いっきり色眼鏡をかけて読み始めた。
 ところどころで眉をひそめたりもしつつ、ものすごく赤裸々な事実を明かすような「僕」の独白にちょっとどきどきしながらページをめくる。もっともっとスキャンダラスな展開を覚悟していたのに、読み終えてみると、「なんなんだ、このさわやかさは!」と立ち上がって拍手を送りたい気持ちになっていた。「君」が「僕」に送るメールの文面にもうすこし美少女オーラがにじみ出ていれば、2人の恋はもっと美しいものになったはずなのに……と意地悪な感想を抱いたりはしたものの、驚くほどの満足度。
 ぜひ読んで! と声を大にして友人知人に薦めるのはなんとなく躊躇してしまうけれど、実はすごく良かったのよ……と、こっそり打ち明けたくなるような1冊。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 その一途さが愛しい。「好き」という感情は人をこんなにも成長させる。
 著者そのもののロリータファッションを生理的に好きになれず、読まず嫌いしていた嶽本作品だが「こんな世界もあるんだよ」と興味本位で覗いてみたら事のほか面白かった。
 作中に登場する作家に何度も嶽本本人を想像してしまった。偶然居合せた撮影スタジオで少女モデルと出会う。思う。思いやる。急がずに。真っ直ぐに。
 少女の喋りかたや縁遠いファッションブランド名や解説にうんざりする以上に、登場人物たちの心の成長の描き方の上手さに感心した。自信の持たせ方、自分を他人に伝える術、プロとしての仕事への向き合い方、それらは年齢を言い訳に出来ない。傷つき、迷い、躓きながらも一途に自分の道を歩きだす少女たちの背中に羽を付けてあげたくなる。
 ガンバレ女の子。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 エッセイなのか、自伝なのか、はたまた小説なのか。どれにも当てはまってどれにも当てはまらない不思議なお話。「なんでこんな本出すんだよ」と怒り半分に読んでいたのだが、最後は涙しながら読んだ。心がドキドキした。
 ロリータファッション業界で絶大な力を持つ、ロリータファッションが大好きな作家がモデルの少女と恋に落ちる。設定からして「その作家は嶽本野ばら本人!?」という疑惑を持たずにはいられない。
 ロリータファッションに対する理解度、認識の低さによりファッションとしてのロリータは時にロリータコンプレックスと混同されるが、この小説の主人公である作家も例に漏れずロリータコンプレックスであるとしてマスコミによって吊るし上げられる。そのロリータファッションを守ろうとする彼の姿はきっと野ばら本人なのだろう。
 嶽本野ばらのロリータに対する愛がひしひしと伝わる、読むのがとっても苦しい作品。ここまで何かを思うことができたら人間は幸せだな。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 この小説は、用量用法を守ってお読みください。
(*読み方を指定するのはおこがましいと思いますが、数多ある書評の一つとしての提案です。)
 まず、笑いに飢えていること。役者気分で主人公と共に酔えるだけの想像力を持ち合わせていること。ロリ系ファッションに拒否反応が出ないこと(念のためパッチテストを行ってください)。
 以上の条件を満たさないで本書を読むと、アレルギーまたは激しい副作用により読後数時間は後味が悪い思いをするでしょう。

 それらを完全にクリアした皆様ならば野ばらちゃんの小説に懐かしさや憧憬、様々な思いを抱くでしょう。読んでいる自分が醜くてどうしようもない人間に思えてくるかもしれません。
 例えば、主人公の王子たまが、‘君’のファッションセンスに対して目を光らせ「埼玉に住んでいるから仕方がないか」と田舎モノ扱いする点やなにより‘乙女’という言葉を臆面もなく使っている点からは、この本を読む間でさえもジャージの着用は許すまじ!といったメッセージを受け取れます。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 一時いろんな方面から『下妻物語』が面白いらしいぞとの声を聞いていた。偏見を持ってはいけない!あの小説は本物だと。しかしなかなか手を出せないまま嶽本野ばらの作品を知らずに今日まできた、今それを後悔している。
 「普通じゃない」と人は時に口にするけれど、普通っていったい何だろう、普通の尺度って難しい。
 表題作の『ロリヰタ。』は著者がモデルであろう事実と創作の綱渡りを思わせるきわどくそれでいて純粋な恋愛の物語。
純粋であるが故に、あまりにも純粋であるが故に痛々しいほどの恋に身を焦がす主人公。
しかし世間は彼らを引き離そうとする、まるでロミオとジュリエットのように。
 下手な恋愛小説よりも遥かに崇高な恋物語に出会えたと、少なくとも僕はそう思った。
ただ、これがはたして異常なのか正常なのか、普通なのかそうでないのか、それは読み手の判断に委ねるとします。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 今月の課題図書『欲しいのは、あなただけ』で描かれる「愛情」と、この作品で描かれる「愛情」は、言葉こそ同じだけれど、そこに含まれる想いは、おそらく百万光年は離れたものなんだなあ、と思うのです。で、俺はどっちに与するか、と言えば、間違いなく、こちらですとも。
 所収されている2作品とも、一般常識からは多少ずれてはいるものの、「欲」を切り離した純然たる「愛」を――少女達が少女達であるが故に発することができる、無垢にして清浄な想いや、見返りを求めることなく、ひたすらに相手を思い詰めることの美しさを描いています。
 例えば表題作では、人生に倦み疲れた小説家と少女モデルが、携帯メールをぎこちなく幾度も交わすのですが、終盤のせっぱつまった文面は、無機質な携帯画面で提示されるが故に、かえって要らない装飾を剥ぎ取られ、純化された想いが伝わってくるのです。
 俺はこれから先、何度もこの作品を読み返すことでしょう。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★★☆
 「今日はポンポにする」
 10歳になる娘が、最近よく言うセリフ。なにもタヌキの格好をするわけではない。あたりまえだが…。(アセ、アセ)。
 ポンポは子供服メーカーのブランドpom ponetteの略で、今一番のお気に入りなのだ。もちろん子供服にしては決して安いものではないので、数枚しか持っていない。

 ロリータファッションについてこれほど愛情を持って書ける人はいないだろうと思ってしまう嶽本野ばらさん。今回は主人公の男性作家が、偶然出会った美少女モデルにロリータファッションをアドバイスするところから、物語は動き出す。
 しかしながら、いつも彼女が着ているお気に入りは渋谷の109−2にショップがあるANGEL BLUE。娘のポンポも同じメゾンで、この子供服ブランドが物語の重要なキーポイントになっている。
男性作家の「僕」と美少女モデルの「君」、周りからは理解されないもどかしさを持つ二人の関係。二人の気持ちが携帯メールで深まっていくのがなんとも微笑ましい。
「ご免。君のことが、やっぱり好きだ。しかし、どうすればいい…」
 携帯メールのない時代には成就しなかったであろう恋が、ここでまた一つ生まれた。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved