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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

欲しいのは、あなただけ
欲しいのは、あなただけ
小手鞠るい (著)
【新潮文庫】
税込380円
2007年3月
ISBN-9784101309712

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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 もう若くはなくなった主人公のかもめが、かつて全身全霊で愛した2人の男性との日々を振り返る。
 他人の恋路に口を出すのは野暮の極致である。いくら「男らしい人」がただの野卑な暴力男でも、「優しい人」がどう考えたって妻子を捨てるはずがなくても、本人がそれでも好きなら、もう何も言えない。その人はやめておきなさい、と第三者なら冷静に判断できるのに、そんな男に骨抜きにされてしまったかもめは、だって好きなんだもの、と聞く耳持たず。外野にできるのは、ただ見守ること、あるいは見て見ぬ振りをすることだけ。
 と、よーくわかっているのだけれど、まさに「痘痕も笑窪」以外の何ものでもないかもめは、あまりに痛々しい。そして、イタい。早く目を覚ませ! すこしは自分というものを持て! と、ぐらぐら身体を揺さぶりたくなってしまう。ここまで恋に溺れることができるのは、果たして幸せなのか不幸せなのか、羨ましいのか哀れなのか。
 ああ私も同じだ、とどっぷりつかって読むも良し、なんと愚かな女なのだ、と呆れて突き放すも良し。ぜひ、ご自分の「かもめ度」を測ってみてください。 

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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 その一途さが怖い。「好き」という感情は人をここまで堕とすのか。
「むかしむかし」その柔らかな文体ではじまる本文とは裏腹に殺気すら感じる人の愛し方が怖い。はじまりは19歳だった。バイト先の喫茶店で会った「男らしい人」に恋をする。大学よりも掃除よりも買い物よりもその男だった。約束の時間までを1分単位でカウントダウンする様に、男の去り際に懇願する様に、恐怖にも似た気を感じずにはいられない。やまかけ丼のようにぬるぬると堕ちていく。箸に引っ掛ることはない。あなただけが欲しい。怖っ!
 だがしかし、彼女の人生があの物語の何処かで途切れた(突然の死が彼女を襲った)としても、その人生の断面の何処にも「後悔」という文字は見当たらないのではとも思う。私自身、共感は出来ない。がそこまでのめり込める対象に出会えたことは、ある意味で幸せな人生、なのかもしれない。
 恋に走り始めたばかりの人には、どうしようもなく好きになっていく過程が切なく受け入れられると思う。ただし、走りすぎにはご用心。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 恋愛、最近してないなー…。あぁドキドキしていない…。私だってちょっと昔には「この曲は思い出の曲なの。切なくて耳にするだけで涙が…」とか「彼が電車で読んでいた文庫本、こっそり同じものを買っちゃった(照)」とか乙女だった時代があったのに…。
 とまぁ、神経の図太い男勝りな私でさえこうなるのだ、とかく恋愛というものは人を(特に女子を)翻弄する。この小説の主人公の女性は気持ちいいくらいに恋愛にどっぷりと漬かり、ダメな男に徹底的に服従してしまう。もうどうしようもないほどの溺れようなのだ。恋に溺れた女の醜いこと切ないこと可愛いこと。恋愛に漬かってただ従順なだけの馬鹿な女に成り下がるこんな奴、友だちとしては面倒なのでごめんだけれどこれは小説!大歓迎である。
 小手鞠るいは私の中で恋愛小説作家だと勝手に位置づけているのだが、これと一緒に読んだらいいだろうというのは彼女の『空と海のであう場所』。切なくて切なくてきゅーんとしっぱなしです。2冊合わせて温かいロイヤルミルクティーとともにどうぞ。
 忘れられない昔の彼に連絡を取ろうかどうしようか迷っているアナタにもぜひ読んで欲しい小説です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 久々にいい恋愛小説を読んだ!というのが素直な感想です。むかしむかしにものすごく人を好きになった時の自分を知らないうちにひっぱりだされるようなそんな感覚に陥る作品。
 主人公のかもめちゃんは大学生の時に、「男らしい人」を好きになります。彼との恋愛はそれはもう、心身共に疲弊するほどのガチンコだ。「男らしい人」の要求する愛は束縛と支配の連続。でもそれがかもめちゃんの中の女を揺り起こすのです。
 そして、時を経てかもめちゃんは今度は「男らしい人」とは全く別のタイプである「優しい人」を好きになります。彼から得るものは、喪失の確認に過ぎない不倫の愛なのでした。
 男の人たちによって、かもめちゃんの人生が作られたのか。かもめちゃんの人生に男たちが居たのか、それはわからない。
 とことん人を愛して、溶け合っていく文章を読んでいるとそれだけで誰かを無性に愛したくなる。小説でしか味わえない醍醐味がここにあります。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 純粋な思いの詰まった恋愛小説は、時に官能小説よりも恥ずかしかったりする。ましてやその感情がストレートであればあるほどに。
 その昔、西城秀樹はこう言った「やめろと言われても今では遅すぎた、激しい恋の風に巻き込まれたら最後さ」そう恋に落ちると人は全てを見失ってしまう。まさにこの物語の主人公かもめちゃんがそうであるように。かもめちゃんの恋はいつも悲しく辛い。だってかもめちゃんは恋に対して貪欲すぎるのだ。
 またその昔、さだまさしはこう言った「求め続けてゆくものが恋奪うのが恋、与え続けてゆくものが愛変わらぬ愛」もしかしたらかもめちゃんの恋は何処までいっても愛には辿り着くことのない恋だったのかもしれない。
 さらにその昔、園マリはこう言った「愛した人はあなただけわかっているのに、心の糸が結べない二人は恋人」女心である。『欲しいのは、あなただけ』よりもやっぱり『愛した人はあなただけ』の方が僕は好きだな。

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  三浦 英崇
 
評価:★★☆☆☆
 人を好きになることはめったにないし、ましてや好かれたことなんざ皆無な俺としては、恋愛小説における女性の心理描写ってのは、一歩間違えるとホラー小説みたいに思えてきてしまってならないのです。
 例えば、この作品の場合。支配欲全開で、好きな相手を拘束せずにはいられない「男らしい人」だの、妻子を大事にしつつも、二人で会っている時だけはとっても大切にしてくれる「優しい人」だのを、ヒロイン・かもめが、何だってこんなに、心身ともにボロボロになっちゃうくらいに一生懸命に思い詰めてしまえるのか、俺にはどうしても理解できないのです。
 「恐怖」という感情は、しばしば理解不能なところから誘発される訳で、そういう意味では確かに、俺にとってこの作品は「ホラー」なんだろうなあ、と。
 ええと、単に俺が歳の割には場数踏んでいないガキだから、とか、愛に対して、夢だの幻想だのを抱き過ぎだから、と言われたら反論できませんが……

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
「わたしは愛する。それがわたしにとって、生きるということ。」
 激しい恋愛小説だった。ぐいぐいと引き込まれていく強さがあった。

 昔の二つの恋を回想する40歳目前のかもめ。
 一つは彼女が大学生時代に付き合った「男らしい人」との恋、そしてもう一つは「優しい人」との家庭を持つもの同士の恋。ノンストップで読んで、男女間に存在する恋愛への温度差をまざまざと見せつけられた。
 いや男女と言うよりは、かもめちゃんと元ちゃん、かもめさんと幹彦さんと言った方が良いかもしれない。

「すべてを失ってもなお、幸福でいられる人間もいるのだと思った。わたしは幸せだった。」
 そんなかもめの言葉を反復しながら、去年亡くなられた詩人の茨木のり子さんの出されたばかりの詩集「歳月」の一節を思い出す。
「たった一日っきりの/稲妻のような真実を/抱きしめて生き抜いている人もいますもの」

 主人公はいつも自分。振り回されているように見えても、どんな状況に陥っていても、自分で選ぶ愛のスタイル、かもめの次の恋も見届けてみたい。  

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