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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

ギャングスター・レッスン
ギャングスター・レッスン
垣根涼介 (著)
【徳間文庫 】
税込680円
2007年2月
ISBN-9784198925543
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 渋谷のチーム上がりのアキは、裏金強奪のプロフェッショナルになるべく、柿沢と桃井のもとで訓練を積む。
 アキがただの薄っぺらな悪ガキにしか思えず、いまひとつ入り込めなかった。「渋谷で100人ものチームを束ねていた」という経歴もすごいのかショボいのか判断に困り、改造車がどうの銃がどうのと言われても「はあ、そうですか」と気の抜けた反応しかできず。悪党への憧れが多少なりともあるかないかで、好き嫌いが分かれるかもしれない。
 ただ、アキが臨む初めてのヤマが描かれた最終章に入ってから、俄然、面白くなった。裏戸籍を入手し、車を改造し、銃の扱いを身につける、と、ひたすら悪の道を究めてきたはずなのに、実戦の舞台でアキたちの運命を左右するのが、なにひとつ犯罪の香りがしないガムテープ。この肩すかし、人を喰った展開。なかなかやるな、と思わず苦笑い。
 番外編は、小物感漂うヤクザの柏木が主人公。この男、確かにチョイ役にしておくにはもったいない。続編は是非、柏木メインで!

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
「痛い怖い血生臭い」これは私が嫌いな小説素材ベスト3である。けれどもマフィア、拳銃、裏金、暴力団が多用される泥棒小説に★4つも点けてしまった。
「泥棒するのも楽じゃない」らしい。高校中退のアキ20歳が、新聞2誌とイミダスを徹底的に読み込み、体と心とテクニックを作りこんでいく。一人前の泥棒になるために。その成長と共に活躍のステージを上げていく展開の速さが、「痛い怖い」を感じさせないのだ。車両改造やそのスピードをつぶさに語る場面も多い。好きな人は血騒ぐシーンの連続だろう。犯罪を題材とはしているが、全体を覆うのは、強さ・勇気・愛情。あに図らんや熱くなってしまった。
 新年度が始まった。あと1歩が踏み出せないジレンマに今も思い留まっている人もいるだろう。「〜そうなりたい自分が見えない」「物事にはここが決め時というタイミングがある」〜周囲の開幕ダッシュムードにいまひとつ乗り切れない誰かの背中を押す1冊。 

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 かっちょいい!!!の一言だ。まるで夜中の高速を制限速度を大幅に超えて突っ走るような危険さとスピード感である。『ヒートアイランド』の続編で、私はそっちを読んでいないがためにたぶん相当損をしているのだろうが、それでも十分面白かった。
 渋谷で百人を抱えるチームのトップだった主人公が、今度は犯罪のプロの世界へ足を踏み入れる。その犯罪のプロの世界がとてもリアルで緻密に描かれていたので、こういう世界が世の中のアンダーグラウンドな部分で着々と巣くっているのだろうか、とだんだん不安になってきた。表の顔と裏の顔、ふたつを使い分けて生活し犯罪のプロになっていく主人公の受ける訓練には想像力をかきたてられるし、登場人物たちのキャラクターもとても好ましい。細部にわたって著者の深い思い入れが感じられるいい本だと思った。
 上司に喧嘩を売りに行くならこの本をお守りにどうぞ。

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  藤田 万弓
 
評価:★☆☆☆☆
 丁寧すぎる小説を読むと頭が映写機にしかならないなあ、と思いました。
私自身が機械類オンチなので、銃や車が登場人物並みに重視され、描写された本書は読み進めるだけでも大変な苦労を要しました。
 はっきり言って、面白くなるのはLesson5からです。桃井が持ちかけた初仕事でアキがへまをして、明美という現場に居合わせたコンパニオンと力を合わせて危機を乗り越える様子が描かれています。
 スリリングさや、追い詰められて焦るアキの心情とヤクザたちの逆襲に胸が躍ります。
 それ以前のストーリーは、タイトル通り「レッスン」を受けているので退屈です。いくつになっても、教えを習うだけじゃつまらない。桃井と柿沢から発せられるセリフもやや予定調和に思えるのは、彼らが優等生だからだ。
《後日談》に収録された、社会人落ちこぼれの柏木クンのブラジル珍道中の方が面白かった。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 ストーリーに深みを持たせるためだろうが、前半やたらと説明に終始する。
まず車、マニアックな車種が登場し、チューニングや運転技術の話が長々と続く。しまいには秋名の下りでハチロク相手にバトルでも始めそうな勢いだ。さらに銃についてもまたしかりである。
とにかくギャングに必要な知識を叩き込まれるわけだから仕方ない部分はあるのだけれど、もう少しさりげなく物語に添える感じでは描けなかったのかと、勝手なことを考えてしまった。
 悪党ではあるのだが、文句の出ない所からしか金を奪わない、簡単に言うと悪党からピンハネをする一枚上手の悪党達のお話。主人公はそのグループに身を置き只今修行中、のはずなのだが全体的に今一つピリッとしない。
 それでも魅力のあるサブキャラも登場するし、さらに洗練された次作、次々作あたりに期待してみたい作品ではある。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 今回の課題図書は、『水に描かれた館』もそうですが、前作を読んでいないと、キャラクター設定が唐突に思えてしまうことがあり、その分、第一印象が悪くなってしまいがちで。確かに、「新刊採点」という枠組に従えばやむを得ないところはあると思いますが。
 さて、そうは言いつつも、この作品は『水に描かれた館』よりは悩まずに済みました。もっぱら話が「技術」に徹しているからなのかもしれません。 被害届を出せないような危険な裏金のみを狙うギャングに仲間入りするため、元・チーマーのリーダーだったアキが学ぶ、数々の技術。やってる内容はともかくとして、こんなにも実践的で即効性のある授業は、なかなかできるものではないし。話の結末も「ああ、確かにここで終わらないと『レッスン』ではないな」と納得のいく展開です。
 さて、この本もどうやら、前作を探さなきゃいけないようです。そして続編もあるみたいで。アキの成長ぶりが楽しみだー。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 読み始めはぼちぼちだったのに、途中からは駆け足、ラストあたりは全速力で読みきった。

「泥棒になるのも、楽じゃないみたいだ」プロの裏金強奪仕事人の道を選んだ20歳の青年・アキ。二人の先輩からまさにタイトルどおりの「ギャングスター・レッスン」を受ける。表と裏の二つの顔を持つ、アキと二人の先輩。三人は初仕事に向けて、それぞれ準備を始める。
 見た目はイマドキの青年のようでも、黙々とレッスンにはげむアキは好感度が高い。二人の先輩もレッスンは厳しいが、仕事仲間としてアキを迎える気持ちがなんとも温かくて嬉しくなる。
 技術と知識を蓄えるレッスンの中でも、犯行時に使うクルマ、特にチューニングカーに関する記述が実に詳しい。クルマ好きの人が読んだら、きっとたまらないだろう。
 過酷なレッスンを無事こなしたアキはついに一回目の実践に挑むが…。

 主役級ではないが脇を固める女性の魅力が際立った。
 例えば、女性長距離トラッカーの憲子やコンパニオンの明美。特に自立した生き方がなんともかっこいい憲子の最後に見せた笑顔が忘れられない。
 ただ、最後の〈後日談〉は読んでいて拍子抜けした。勝手にアキのその後だと思い込んで読んでいたからだ。
 Fileで終了していれば、それぞれの登場人物のその後の行方を慮り、最後の余韻まで楽しめたのにと、それだけが残念。

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