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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

影踏み
影踏み
横山秀夫 (著)
【祥伝社文庫 】
税込670円
2007年2月
ISBN-9784396333294

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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 出所したての職業泥棒、真壁を主人公とする連作短編集。
 横山秀夫の短編はハズレがない。だから今回も安心して読み始めたのだが、すぐに「おや?」と首を傾げてしまった。おなじみの警察モノではなく犯罪者が主人公というのは、目新しさもあって期待も高まる。しかし、15年前に焼死した双子の弟、啓二が真壁の頭のなかに住みつき、内耳の奥から呼びかけてくる、という奇抜な設定には戸惑いを感じた。双子の兄弟は互いに相手を自分の影のように思っている、という点が本作の重要なポイントではあるし、真壁と啓二との”対話”なしに物語は進まないものの、この非現実性には、最後まで違和感が消えなかった。
 とはいえ推理小説としては、さすがの面白さ。こんなところに伏線が張られていたとは、と何度も驚いた。ただ、確かに人並み以上の観察眼をもつ真壁ではあるけれど、まるで名探偵あるいは敏腕刑事のような推理力を兼ね備えているというのは、いささかできすぎのような……。
 なんだか否定的なことばかり書いてしまったけれど、異色作として新鮮さを味わうこともできるし、もちろん、人間臭い登場人物あり思わずほろりとなる場面あり、と著者の持ち味もたっぷり詰め込まれている。やはり、ハズレなし。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 自宅の電話台の引き出しに現金を置いている人は必読の書である。
 知らなかった。深夜の民家、寝静まった時刻に現金を盗みだす泥棒のことを「ノビ師」と言い、その世界にも「ノビカベ」と呼ばれるプロとして生きる特別な輩がいること。警察の検挙ノルマ、その数字合わせのために逮捕されたりされなかったり…。信用や安心は己の保身の前にあっけなく踏み倒されてしまう。本書はノビカベが真実一路を探る物語だ。対峙する相手は警察や暴力団。私にとって一瞥をくれるだけの犯罪者。その立場の視線と心理を描いている。新聞の行間からもニュースの閑話からも伝わらない、何故?なんのために?その時家族は?愛する人はいなかったの?想像の翼は横山秀夫の思うつぼだ。自分ではない犯罪者の心理になっている。そしてそれなのに心が痛む。何とかしてあげたいと画策する。
 ノビカベの頭の良さに驚かされる。その記憶術、先読み術、判断力。と感心する傍らで、自宅の電話台の下が気になった。〈別の男と会っていれば別の人生があったかなあ〉などと考えながら貴重品の置場所でも考えようか。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★☆☆☆
 横山秀夫らしからぬ作品である。もちろんミステリーだしサスペンスでもあり法律要素も多く組み込まれているが、なんだかなぁというところがなくもない。これはこの小説に施された技巧を受け入れられるかどうかで面白さが天と地ほど変わってくる作品なのだろう。私はどうもそれが受け入れられなかった。それがなんとも残念だ。
 伝説のノビカベと呼ばれる忍び込みの泥棒を生業としている真壁は、出所後自分の逮捕のきっかけとなった家のことを調査し始める。とても緻密に計算されたミステリーで、結末にはほっとため息をつかされる。登場人物たちの心の葛藤や触れ合いもとても繊細に描かれていて、読んでいて心地よかった。抜群のリアルさで迫る人間ドラマが切なく、とても良かったです。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 今回の課題図書はハードボイルド色が強かったですね。私は『Dojo』⇒『ギャングスター・レッスン』⇒『影踏み』⇒『キューバ・コネクション』と読み進めたおかげですっかり‘裏’の人間にでもなった気分です。
 
「ノビ師」という忍び込み強盗のプロである真壁修一は、持ち前の優秀な頭脳で法律と忍びの特技を使って探偵のように事件を追跡していく。
 実は、修一には啓二という双子の弟がいた。二人の兄弟は安西久子という女性に惹かれ、ライバルでもあった。久子に選ばれなかった啓二は、窃盗を繰り返しぐれてしまった。そして、母親に無理心中を迫られ焼き殺されてしまったのだ。
 耳の中で修一と共に生きる啓二の幼さが、修一を男らしく映し出していく。ヤクザや警察と対等に取引きする様子は、ハードボイルド小説だ。
 双子の弟と母、そして父をいっぺんに喪失したことでねじれてしまった男のわだかまりについても謎を含んでいる。複数の謎が交錯しあいながら進むストーリーと「ノビ師」の鮮やかな技は必見です。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 プロの仕事である。主人公の盗みの腕前もプロなら、連作の短篇でここまで完成された作品を生み出す横山秀夫さんも間違いなくプロである、今さら僕が言うことでもないけれど。
 なんとなくそれっぽい犯罪小説は世に多く出回っているけれど、正真正銘の犯罪小説にはめったにお目にかかれない。本作品は間違いなく後者である。しかもそれだけには留まらず、大人の恋愛小説でもあり、またSF的な要素もはらんでいる。
 火災で焼死した双子の弟の魂と志を身に宿し、愛する人を遠ざけてまであえて孤独でちんけな窃盗の道に身を置きつづける主人公。何があっても決してぶれることのない彼の生き様は、彼を取り巻く者のいわんや読み手の心を強く揺さぶります。
そして、読み終えた人の瞼の裏には淋しげに自転車を漕ぐ男の背中が映っているはずです。
 グッジョブ!

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 俺は、安易にトラウマを持ち出し、主人公の悲惨さを演出しようという作品が大嫌いでして。ああもうトラウマ禁止っ、と思うのです。ただ、当然のことながら、トラウマが必要不可欠な作品ってのもありまして、この作品がまさにソレ。
 弟に火をつけて殺そうとした母と、それを止めようとした父。家族三人が焼死した衝撃から立ち直れず、弟と同じく忍び込みの窃盗犯・ノビ師に堕ちた主人公・真壁修一。彼の鼓膜にはいまだに、死んだその歳のままの弟・啓二が語りかけてくるのです。
 彼が逮捕される原因となった家の主婦のその後を探る『消息』から始まる7つの連作短編は、泥棒でありながら謎を解かざるを得ない修一と、彼の推理を助ける啓二の二人三脚ぶりをミステリとして楽しむもよし、彼が真人間になってくれることを祈り続ける女・久子との、紆余曲折に満ち溢れたラブストーリーとして楽しむもよし。いずれにしても、名人の至芸を存分に味わえる傑作です。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 推理小説をさらに細分化して警察小説、このジャンルの中心の一人に横山秀夫がいることは間違いない、と解説にあった。
 私が読んだ横山作品は『半落ち』に続く二冊目だったが、こちらもぐっと胸をしめつけられる切ない内容だった。

 深夜、寝静まった民家を狙い現金を盗み出す「ノビ師」と呼ばれる忍び込みのプロ、34歳の真壁修一が主人公。
 彼には今は亡き双子の弟がおり、いつも心の中で彼との魂の会話を繰り返している。生きていた時のように、二人は頼り頼られ、そして時には兄弟げんかをする。かつてこの兄弟は同じ女性を好きになり…。

 盗みに入る真壁の一挙一動に、ドギマギする。
「一、二で開け−三で入り−四、五で閉める。」
 納得のいくまで何度も盗みのイメージトレーニングを繰り返す様子を見て、はは〜んとうなる。
 しかしながら、ずっとずっと心根の優しい真壁にまっとうな人間になって欲しいと願いつつ読みすすめた。まさに真壁の母親状態。
『半落ち』同様、ラストにまたもや感涙。

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