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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年5月の課題図書 文庫本班

大久保町の決闘
大久保町の決闘
田中哲弥 (著)
【ハヤカワ文庫JA】
税込756円
2007年3月
ISBN-9784150308834
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  荒又 望
 
評価:★★☆☆☆
 受験生の光則が勉強に専念するために訪れた大久保町は、ガンマンの街だった。
 現代版・西部劇。男たちは拳銃を携帯し、保安官が人々の安全を守り、時に決闘が行われる。ただし、舞台は兵庫県明石市大久保町。設定からストーリーまで、もう何もかもが冗談だらけである。
 主人公の光則は、ちょっと妄想癖はあるものの、ごく健全な青少年で好感度大。実は伝説のヒーローの息子なのだが、その威光はかけらもない。でも間違いなく、いいヤツだ。そのほかの人物も、それぞれどこかちょっと抜けていて、悪役であっても憎めない。
 心に浮かんだことがそのまま文字になったような砕けた文章は、笑えるといえば笑える。読みづらいといえば読みづらい。表紙や挿し絵だけで、読む・読まないを判断する人も多そう。万人受けするとは言いがたいが、ハマる人はハマるのでは。
 国内外で銃による凶悪事件が相次いだこの時期。ついつい、「いかがなものか」と考えそうにもなる。しかし、堅苦しいことは考えず、この奇想天外かつ荒唐無稽な物語を楽しむほうが良さそうだ。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 ゲームソフトの原作本を思わせる装丁やイラストに、意気消沈しながら読み始めたがとんだ杞憂におわってしまった。「兵庫県大久保町では男はみな拳銃を携帯する。決闘で人を殺すことは厭わない」この奇想天外な設定に突っ込みを入れる暇もなくストーリ展開は速く、文章は短く簡潔、会話分は小気味よい。
 光則は高校生。受験勉強に専念するため、夏休みを母の実家のある大久保町で過ごすことにした。が、到着早々、銃を持ち、戦わざるをえない窮地に追い込まれてしまう。
 誰の人生にも起こりうる不条理な事や予期せぬ出来事や苦労も不運も楽しんだもの勝ち。浅はかと言えばそれまでだが、そう思って楽しんで読む分にはいいんじゃないかな、と思う作品だ。
 「勉強しなくちゃ」と思いながら中々手をつけられない心情や実力の有無に関わらず偉ぶる態度でいる職業人を皮肉るところなど、愉快な表現にも出会える。中学生男子の朝読書に好都合な一冊だ。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 大学受験を控えた夏休み、主人公は母の実家のある兵庫県明石市大久保町に出かけていく。そこはガンマンの町だった!田舎なら静かで勉強もはかどるだろうと踏んで出かけたのに、着いて早々よくわからない事件に巻き込まれる。ドタバタコメディーのようなテンポの、退屈知らずの一冊です。
 高三の夏休み、何やってたっけなぁ。やっぱりひたすら受験勉強をしていた気がするけど、こんなことがあったらちょっと面白かっただろうな。あの頃はあまりの焦りに小説すら読まなかったから、冒険なんて想像もしなかった。でも今思うと、あんなに鬼気迫っていたのはなんだったのかしら、と思う。この本くらいの脱力感であの頃を過ごしていたら、今何か違っていたんじゃないのかな、なんて考えてしまいました。とても面白かったです。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 今回、『大久保町の決闘』を読んで、中島らもさんの小説を思い出した。
『白いメリーさん』という作品だ。某商店街では「人殺しデー」なる日がある。商店街総出で殺しあうブラックユーモアなストーリーで、随分と笑った記憶がある。この作品が好きな方はそちらもオススメです。
 さて、本作の内容はというとユーモアに溢れている。登場するキャラクターが全員どこかすっとぼけている。主人公の光則は、一目ぼれした女の子の前で35センチもの長距離鼻水を記録し、初めて見る銃口を前にしても金縛りで動けないだけなのに「けっこう骨がありそうじゃねえか」と勘違いされ、「違う違う」と心の中で一人突っ込み。ヒロインの紅葉ちゃんにはなぜか血のつながらない黒人の兄弟がいたり、悪党役の村安秀聡は畳でくつろぐ時は、外出用のスーツを脱いで、別のスーツに着替えるという妙な癖があり、趣味は「生き物殺し」だけど人を殺すと始末が面倒なのでゴキブリで我慢する生真面目さを持ち合わせている。
 この小説の面白さは、こうしたトンチンカンなキャラクターたちが勝手に動いている躍動感だと思う。映画を見るような感覚で読み進めていくと爽快感があるかもしれません。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 あえて大阪弁で表現すると、「オモロイって言えばオモロイねんけど、もう一頑張りって気もせんでもないし、いやいややっぱりコレはコレでオモロイんかなぁ……ってどっちやねん!」まさにそんな感じの作品です。
 大久保町なんて関西においてもローカルな場所をわざわざチョイスし、さらに決闘がまかり通る西部の町に仕立てちゃうなんて、その発想はっきり言って嫌いじゃないです。
そこへやって来たのはシェーンならぬ高校生の光則君。絵に描いたような悪役やヒロインも登場し、酔っ払いは元名うてのガンマン、よしよし面白くなってきた。しかし、さていよいよ『リオ・ブラボー』や『真昼の決闘』並みの和製ウエスタンが始まるのかと思いきや、待っていたのはドタバタ劇。
いえいえ、つまらないとは言ってないんですよ、確かに弾けっぷりは中途半端やけどね。しかし何故だろう不思議と大阪人の僕には許せてしまうこの感じ。
ここでハタと気付く。この作品って味付けが吉本新喜劇だわ!どおりでね。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 「天然は天才より強し」。
 これは「天然ボケ」という、俺なんかでは真似したくても絶対無理なタイプの人々に対する賛辞であります。もっとも、真性の方々には、この言葉の重さなど到底理解してもらえませんが。理解しないからボケてるっちゅうねん。
 この作品は、そんな天然ボケの高校生・光則が、日本の明石市だって言ってるのに、開拓時代のアメリカ西部のように、熱い鉛の銃弾だけがトラブルの最終解決手段になってる街・大久保町にやって来て、ただひたすらボケ倒してるうちに、事態が勝手に転がって解決、という、俺の大好きなタイプのバカ小説(褒め言葉)です。
 何しろ光則の関心事は、街で最初に出会った、とびきり素敵な美少女・紅葉のことだけですし。気持ちはよく分かりますが、さすがに弾丸飛び交う無法地帯で、そんなことでいいのか? いいんです(断言)。美少女は世界の第一優先事項。彼女に出会えただけでも、この小説読む価値あったし。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 わけのわからぬ興奮状態で読みきった。
 男達のほとんどは常に拳銃を携帯しているという兵庫県明石市大久保町。このガンマンの町を舞台に高校三年生の光則がさまざまな事件に巻き込まれる。
 何しろこの町に着いて早々、銃撃戦を目の当たりにするのだ。
 しかしながら彼はどんな状況に接しても「まったくもってよくわからないのであるが、
それで幸せならいいのだきっと」と思う。なんだかいいぞ!
ここで彼と出会うことになったかわいい紅葉ちゃんも「きっと、いるだけで人を幸せにできる人だと思うな」と彼を評する。同年代の女の子からも好かれるタイプなのだ。
 激しい銃撃戦や命の危機を感じるシーンが続出するのだが、そのひょうひょうとした語り口に思わず吹きだすこと数回。
 怒りに満ちた鋭い眼光でにらまれても「平和な人ではなさそうだ」と切り返すセンス、「夏みかんほどもあるかというような巨大な南京錠」という表現、木の箱に入ったダイナマイトをりんごと勘違いする発想、そのどれもがいいな、好きだなと思った。
 聞けば、著者の田中哲弥さんはかつて吉本興業の台本作家をしていたとか。なるほど私の心をとらえて離さない理由がよく分りました。

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