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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年5月の課題図書 文庫本班

荒野へ
荒野へ
ジョン・クラカワー (著)
【集英社文庫】
税込700円
2007年3月
ISBN-9784087605242
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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 すべてを捨てて放浪の旅に出た約2年後に、アラスカで遺体となって発見された青年クリス・マッカンドレスの足跡を追うノンフィクション。
 人間は生まれてくる時と死ぬ時は皆ひとりである、という。たしかに、マッカンドレスはたったひとりで、餓死という悲惨な形で生涯を終える。一方で、人はひとりでは生きられない、ともいう。たしかに、彼はひとりで旅を続けたが、本当はひとりなんかではなかった。そのことが悲しいくらいに伝わってくる。
 マッカンドレスの死が報じられると、自然の厳しさを甘く見た結果だとして非難の声が数多く寄せられたという。それも無理はないかもしれない。それでも、遺族や、彼が放浪中に出会った人々が喪失感と自責の念に苦しむ姿は、本当に本当に悲しい。1人の死がこんなにも多くの人の心に大きな穴を開けるのか、と改めて思い知らされる。そして、最期に記したシンプルな別れの言葉の哀切さ。読んでいて胸が痛くなった。
 この悲劇を公平無私に解釈することはできない、と言い切る冒頭の1文に、ひょっとしてこれは感傷過多、湿り気過多なノンフィクションなのか? と危惧したのだが、どうやら著者以上に感傷たっぷりに読んでしまったようだ。こんな読み方、まだまだ甘ちゃんなのか、と思いつつ。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 課題図書でなくとも、書店で購入したに違いない1冊。私自身の自堕落な性格の反動かストイックに自己と向き合う書に興味がある。裕福な家庭に育ち優秀な成績で大学を卒業した直後、単身放浪の旅へ出て、アラスカの荒野で孤独死してしまった青年クリス。羨ましいばかりの環境は、彼に幸せという感情をもたらさなかったのだろうか?旅の先々で懇意になる人との遣り取りは楽しいものではなかったか?なぜ?クリスの亡骸の側にあった書物からの引用や旅先で世話になった人へ送った書状が、「何故」の謎をより考えさせる。「自分とは何か」「とどまって生きてはいけない」厳しいまでに自分と対峙するクリスの姿がある。
 家族としての在り方を問うと同時に流されるように生きることの空虚さを考えさせられた。クリスの言葉に故尾崎豊の生き死にを重ねてしまったのは私だけだろうか。クリスと尾崎は実は同じものを欲していたのではないか。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 めちゃめちゃ面白かった。「こいつスッゲー!!」と思いっぱなしの一冊。
 本書はノンフィクションで、アメリカを震撼させたある青年の死の真相に迫るというもの。アラスカの荒野に消えた青年は、なぜ、家を捨て荒野へ向かったのか? ヤジウマ根性で読み始めても、最後までその興味が尽きない面白さ。
 本の作り方もとても素敵。章ごとに、青年が残した手紙や日記、書物の中の言葉などが冒頭に綴られていて、それを読みながら本文を読み進めるのはなんだかとても感慨深い気がしてくる。一人の人間の生き様からだけでこんなにカッコイイ本ができるとは、本当にすごいことだ。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
 彼が旅の間に知り合った人生の大先輩でもある老人に送った手紙の一部を引用します。
「男の生きる気力の中心にあるのは冒険への情熱です。生きる喜びはあらたな体験との出会いから生まれます。(中略)単調な安全な生活を求めるのはやめて、最初は常軌を逸しているようないい加減な生き方をしなければならないのです」
『荒野へ』を読もうと思ったきっかけは、一つ。アラスカの大地で餓死した青年の「生きる衝動」を知りたかったからです。彼はエモリー大学を優等で卒業し、二万四千ドルの預金を全額慈善団体へ寄付。その後、自分の車と財布にあった現金を燃やしていた。ヒッチハイクと肉体労働を行いながら、アメリカを横断し、アラスカへと北上していく。
 この手紙を読んでも分かる通り、彼は‘生きることを感じたくて仕方のなかった青年’だ。
 なに不自由ない、という不自由に息苦しさを感じているのだとすれば、彼はひどく傲慢な人間だと私には思えた。行動力には刺激されたが、心を揺さぶられなかったことが少し残念だ。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 二十代の僕は、暇さえあれば単車にテントと寝袋をくくり付けて、日本国中を這いずり回っていた。別に現代社会に背を向けようなんて大層なコトは考えてなかったけれど、野宿が好きだったし、そんな自分自身に酔っていたトコロも少しはあったと思う。
 しかしそれも日本国内での話。いくら未舗装の林道に分け入り、日暮れに焚き火を囲んでみても、昼飯は食堂で定食を頬張ってたし、国道沿いの食料品店で晩飯の材料を買い込まなければ自炊も野宿も始まらなかった。僕が挑んだのは、荒野ではなかった。
 アラスカを目指したアメリカの青年は、その地で自然と向き合い、狩猟や採集によって糧を得て、そして死んでいった。
 彼を追った著者は、青年の死に自分なりの結論を見出してこの本を終えているが、それが必ずしも正しいという訳ではない。死が間近に存在する圧倒的な自然の中で、彼が何を考え何を見たのかは、彼が死んだ今となっては永遠に解き明かされぬ謎である。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 この本がアメリカで刊行された時の評価は、それこそ真っ二つに分かれた様子。
 一方は「アラスカの荒野でロクな装備も持たずに放浪するアホがどこにおるか! 死ねボケが」というツッコミ。もう一方は「いや確かにアホやが、それが若さ故の過ちっちゅうもんやで。ま、許したれや」という生暖かい目。筆者は、自分自身も昔、相当無茶をやった口なので、後者に肩入れしてますが……さて、俺はどっちについたもんか。
 時々、他人が近くにいることに耐えられなくて、一人で綺麗な星空を観に行きたいー、と思い立ってしまう俺なのですが、さすがに厳冬期のブリザードふぶく高原に、半袖短パンで行こうとは思わないし。
 人生をなまじ一生懸命考えすぎて、かつ、行動に移さずにはいられない生真面目なタイプだと、誰にも止められない暴走を平気でやってのけちゃうもんなんですね。死んじゃったら、そんな悩んでる自分すら消えちゃうのに、と俺なぞは思うのですが。

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
 アラスカ、特にフェアバンクスと聞いて、ふと心に思い浮かぶのは探検家の星野道夫さんだ。
 彼の著書を読んでアラスカへの強い想いが胸に迫ったものだったが、『荒野へ』の舞台もまたアラスカだった。しかし星野さんから感じたアラスカとはずいぶん違う景色を見た。
 あるアメリカの青年が荒野に魅せられ単身アラスカに踏み入り、そして数ヵ月後にバスの中で死体となって発見された…。そのわずか10数年前の事実を登山家であるジョン・クラカワーが綴る渾身のノンフィクションだ。
 のほほんとした旅心ではない、魂をつき動かされるような強い意志を持った旅だった。
一見恵まれた環境のように思えた青年の幼い頃からのエピソードを交えて、彼の心の叫びをえぐり出す。
 読んでいて辛くなり、何度となくページをめくる手がとまった。彼が旅の途中に出会った人々の証言も興味深く読んだ。
「彼はさまざまに自己を試したいと思っていたのだ」と著者は言う。いろいろ体験して一回りも二回りも大きく成長しただろう…。
 無事にアラスカから戻った彼のおみやげ話を聞いてみたかったと、思わずにはいられなかった。

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