年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

ヘビイチゴ ・サナトリウム
ヘビイチゴ ・サナトリウム
ほしおさなえ (著)
【創元推理文庫】
税込861円
2007年6月
ISBN-9784488471019
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 中高一貫教育の私立女子校で、美術部の生徒らが相次いで墜死した。そして残されたのは、いくつかの原稿と、いくつもの謎。
 学生生活の大部分を公立共学校で過ごしてきたので、私立・女子校・中高一貫と三拍子揃えば、そこはもう完全なるミステリーワールド。生徒どうしが…だの、生徒と先生が…だの、あれやこれやの良からぬ女子校像を、本作はさらに大きく膨らませてくれてしまった。
 なにより印象的なのが、登場する少女たちの名前がどれもこれもきらびやかなこと。海生、双葉、ハルナ、梨花子、さら、紫乃、絢、悠名、野枝。もうこれだけでお腹いっぱい。さぞかし美少女ぞろいなのだろうなぁ、とますます誤ったイメージが膨らんでいく。
 いわゆる青春モノなのだが、あまりにも死に満ちていて、この手の作品に期待するような輝きが感じられないのが残念。できることなら、気恥ずかしくなるくらいにすがすがしくて、直視できないほどにキラッキラの、青春ど真ん中のストーリーであって欲しい。たしかに自分自身の中高生時代も、さわやか指数100%というわけではなかったけれど、青春時代が遠い過去のものとなった大人としては、そう願わずにいられない。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 10代が主人公の小説は、登場する会話がストレートに本質を突いてくる。だから、大人になって、ていのいい自分の誤魔化しかたを習得した身にはそれが逆に痛いことがある。
 中高一貫女子校で生徒が死んだ。自殺か他殺かいじめか。真相は、教師や先輩後輩をも巻き込み意外な広がりをみせる。時は2000年頃。ブログ、携帯小説が流行りだす少し前だが、10代女子の日常にコンピュータは当たり前となっていた。美術部が主たる舞台に、サイトに公開した小説が鍵となる。中高生の会話を傍で聞いているような臨場感とテンポで一気に読ませる。ただ、事故現場である屋上へのその後の入場が許可されていたり、警察の許可なしに事件当日のことを他言したりと「どうよ?」と思う設定もあった。人間関係の入り乱れや女子が女子に憧れる様子はいかにも女子高的。「そんなことで命を落とすか!」と感じる場面も哀しいかなあった。トリックのかけ過ぎを案じたが、「ええっ!」というラストには、そんな狭いところで何やってるの!と突っ込みを入れたくなった。
 人は自分とは違う人格を生きて、それぞれに悩みやこれからの生き方を抱えていることを思うことの出来る作品。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 屋上から、高校生が飛び降りる。私が高校生だったとき、そういえば飛び降り自殺のニュースって結構見た。私の学校は屋上がなかったから怖くなかったけれど、たぶん屋上のある高校に通っていたら、嫌でもそのことを考えてしまっていたと思う。そのくらい、屋上から飛び降りるというのは珍しいことじゃなくて、ともすれば自分がその当人だったかも、と思うような近しい存在だったと、今になると思う。
 本書は、だからと言って、いじめとか自殺とかの話ではない。学校の屋上から飛び降りてしまった生徒、そしてその後同じ屋上の同じ場所から飛び降りた国語教師をめぐっての推理小説である。
 謎を解いていくのは、中学三年生の二人、海生と双葉。このふたりがまた推理とは関係ないけれどもとても瑞々しくてかわいらしい。私もこの舞台となった学校と同じく中高一貫校に通っていたから、どうしても自分の学校が想像上では舞台になってしまって、自分の記憶とシンクロする部分が多かった。
 大人が書いたとは思えないような瑞々しさで、中学高校世代の女の子たちを描き、そして本質のミステリ要素にも大満足の出来を誇っている、ミステリとだけ呼ぶのはもったいないような新しい青春ミステリ小説です。
 あの頃は、こういうことをよく感じていたな、なーんて、とても懐かしい気持ちにさせられる、かわいらしい主人公たちの言葉に注目して読んでいただきたい一冊です。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 女子校で起きた連続墜死事件の謎を解いていくミステリー。死んだ男性国語教師は女生徒と協力しあって書き上げた自作の新人賞受賞を死の直前に辞退。雑誌で作中の文章と同じものを発見したことが理由だが、その文章の作者は一体誰なのか? ポール・オースターの小説『鍵のかかった部屋』と酷似したその小説と、加筆された、男性教員の自殺した妻が残した「ヘビイチゴ・サナトリウム」というインターネットサイトのテキスト。連鎖する自殺をもとに、他者と自分とのつながりを考察していくストーリーでした。
 私も中高一貫女子校に通っていたので、小説を読む間、閉塞的な思春期特有の熱気を思い出していた。自分を意識して、他者を意識して、そこに映る自分も意識する。そういう人間関係に過剰な反応を示してしまって、かといってエネルギーを別のところに向わせる方法を知らないで過ごす6年間という息苦しさがすごく蘇って読み進めるのが非常に困難でした。だから、ミステリーとして読む以外にも、女子校特有の空気を感じて読むという楽しみ方も出来るかもしれません。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 中年男性にとっては、踏み込むのにいささか躊躇してしまう世界がある。
 中高一貫の女子高で起こった墜落死に端を発する物語。登場するのは今風な可愛いらしげな名前の女の子たち。しかも彼女らの言葉がどこかリアリティーが欠けた乙女チックな会話に聞こえてくる、これは困ったぞ。
 思いっきり世代の壁を感じて一度本を伏せてから、あらためてぼちぼち読み始めた。
 ミステリーではあるけれどこの作品、謎解きというよりはむしろこういった若い女の子同士の間に流れる独特の空気を切り取って表現することが本質ではないかと思えてしまった。
しかしそれよりも何よりも作品全体に漂うドンヨリ後ろ向きな空気が一番気になった。
女子高生といえば若いんだからさ、どうせなら夕日に向かってワッセワッセと突っ走しるくらいに元気な方がいいのになと、思ったりした。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 俺は3年前にも単行本班で書評をやってまして、その時の課題図書でこの作品を読み、掲載されてるんですね(2004年02月参照)。
 当然、中高一貫女子校での連続飛び降り「自殺」事件と、小説の盗作事件を巧みに絡めた、ミステリとしての質の高さはよく覚えているのですが、やはり今回も、胸がしめつけられるような読後感に苛まれています。
 それは、人を傷つけることには鈍感なのに、傷つけられることを極度に恐れる、かつての(今も?)自分の姿を、この作品の中で死んでいく者たち(その大部分は、まだ本当に人生を生き始めてすらいない……)に重ね合わせてしまうからでしょうか。
 うーん、3年前から全然成長してないんじゃないのか俺。むしろ、酷くなってるかもしれない。反省はともかく、どこが一番俺の心の臓を一突きしたかを言ってしまうと、このミステリの一番の謎とリンクしてネタバレになってしまうので、前回同様、隔靴掻痒な書評ですみませぬ。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
高校時代の私はよく図書室に通ったものだった。
図書委員もしていたのだが、春休みになると書棚整理に借り出されてまさに一日中図書室にこもりきりの数日があった。
そしてお昼には学校近くのお寿司屋さんの巻き寿司が出されて、これがえらく美味しくて感動したのを今でも覚えている。
私にとってのいろんな思い出の大半は美味しいものとの邂逅なのだなぁと改めて思ったりして^^;。

…とまぁ、こんな高校時代の細々とした思い出がわっと押し寄せてくる。
この物語の舞台は中高一貫の女子高。
学校屋上から生徒の墜落死が起こった、続いて先生までもが…。
図書室で交わされたさまざまなやりとりが犯人探しのキーポイントとなる。
「生きているということ自体、いいことかどうかわからない。いいも悪いもない。わたしたちはただ生きているから生きているだけだ」
少女のセリフが心に残る。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved