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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年9月の課題図書 文庫本班

High-and dry(はつ恋)
High-and dry(はつ恋)
よしもとばなな (著)
【文春文庫】
税込780円
2007年7月
ISBN-9784167667030

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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 14歳の秋、夕子は年の離れた絵の先生、キュウくんに初めての恋をした。
 カラフルな挿絵も、夕子とキュウくんの恋も、たまらなくかわいい。懐かしく、それでいて新鮮。きらきらしていて甘酸っぱくて、年齢を重ねるにつれてどこかに置き忘れてきたものを思い出させてくれる素敵な1冊。
 14歳と20代後半との恋はあまり想像がつかないけれど、ただ闇雲に胸を焦がして背伸びをするのでもなく、ただ妹のようにかわいがるのでもなく、きちんと対等に向かい合っているのがとても良い。この世の初恋のほとんどがそうであるように、夕子の気持ちもキュウくんの気持ちも、たぶん永遠には続かないだろう。でも、たとえどんなに悲しい形で終わったとしても、いつまでもいつまでも大切な宝物として心のなかに残るはず。そう確信できる。
 2人のかわいらしい恋に、そして真面目すぎるほどに真面目なすべての登場人物に、読み終えると心がすこしきれいになった気がする。いい大人が手にするには少々照れてしまう装丁だけど、大人にこそおすすめしたい。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 鈴虫の鳴き声を聞いた。よしもとばななが恋しくなる季節だ。けれんみがなく真っ直ぐに人を好きになる14歳の少女の恋物語は、静かな深い秋を運んでくれた。
 アイスが好きで書店員のお母さんと暮らす14歳の夕子は絵の教室の先生を好きになる。10歳以上の年齢差や個展に手伝いに来る女性の存在は眼中にない。「よかった、私の思うのと同じだった」〜何を見てどんなふうに心を動かすか、この感情の振れの一致が、ほんの10年前はおもらしをしていたガキンチョに恋を教えた。携帯ではなく、会って言葉を重ねることでお互いを知り、時を前に進めて行く二人の様子が、信じられないほど真っ直ぐだ。そして、よしもとの他作品に違うことなく登場人物がこれまた素敵だ。それぞれに大事なことがはっきりしていて、物事の優先順位の付け方にぶれがない。ごはんを作ることが時に下位にランクされるお母さんも海外でアンティークの買い付けをしているお父さんも。個展を手伝う年上の女性も夜も寝ないで木彫りをする好きになった人のお母さんも。14歳は言う。
 「私はこのお母さんの子だから自信を持って私の思うようにしていいんだ」。可愛らしいイラストも相まっておとぎ話のようなキュートな恋物語だった。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 あぁーよしもとばななさん大好き。かわいくてかわいくて切なくて泣けてくる。こういう小説があるから、私は安心して日常を暮らしていけるような気がします。
 タイトルにあるとおり、初恋の物語です。14歳の女の子、夕子が主人公。彼女は、絵の教室の先生(それも20代後半)にはじめての恋をするのです。夕子は、アンティークと雑貨のお店をやっていていつも日本にいない自由なお父さんと、近所の有名なアイス屋さんのアイスが大好きなとても健全なお母さんに健やかに育てられた、でも普通か普通じゃないかというと、たぶんちょっとだけ普通じゃない女の子で、とても、とても、涙が出てしまうくらい美しくてまっすぐな感性の持ち主です。その彼女が、もうこの人以外には心から愛していると思える人はいないのだ、というくらい本当の本当に本気で、先生に恋をするのです。
 これは、14歳という歳の子どもがする、なんにもわかっちゃいない浅はかな恋とかそういうものではなくて、本当は14歳という年齢だからできるはずの、14歳という年齢でしかできないはずの、本当の初恋の物語なんです。私の14歳は、なんだかよくわからない女の子同士の揉め事にもみくちゃにされて(女子校に通っていたからというのもあるけれど)、なんだかわからないうちに恋もしないうちに終わってしまった。だから懐かしいというよりは羨ましい物語でした。
 今14歳だったり15歳だったり、歳は別に何歳でもいいのだけれど、青い春の真っ只中にいる女の子たちには絶対に読んでもらいたい。それで、お母さんやお父さんに何を言われてもいいから、本当に好き、と思える人とちゃんと出会ってちゃんと向き合ってもらえたらいいな、と思います。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 よしもとばななさんの小説は、どの作品も「懐かしい」と思えてしまう。自分の思い出ではないのに、主人公の体験や心情を追っていくとまるで昔の自分がそこに居るかのような感覚になる。少し説明的すぎる気はしましたが、主人公の夕子が14歳というオトナと子供の間で人生について悩んだり、初めての恋をどう対処したらいいのかそのエネルギーをもてあましている心情をすごく忠実に再現していると思いました。だから、「懐かしい」と思えたのかもしれません。
夕子とキュウ君のプラトニックな恋愛を見ることで、「生きる」ことは「感じること」なんだ、と日常で汚れてしまった私は改めて気付かされました。でも、一方で意地悪な思いも浮かんできました。なぜって! 大人の男の人が月下美人の妖精を見るなんてありえない!(笑) ファンタジーの世界だから読んでいて心が温まるし、やさしい気持ちにもなれるんだな、と思いました。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 小学四年生になる長女が、最近子供の本では飽き足らず、お父ちゃんの本で何か読めるのはないかと尋ねに来るようになった。
数日前に貸した重松さんの『くちぶえ番長』を面白かったと返しにきた彼女は、目ざとく表紙のイラストが可愛いこの本を見つけ「読める?」と尋ねてきたのだが未読であったので「とりあえず父ちゃんが読んでからな!」と一度追い払い、急いで頁を進めてみた。
 十四歳の少女の初恋の物語。しかし、この十四歳という年齢が微妙である。くわえて相手の男の子が二十代と大人なのだ。
 内容的には決して過敏ではなく、正しい物の考え方を解いてくれている作品なのだが、いかんせん登場人物達の感性が豊か過ぎ、ややリアリティーのない会話に突入しがちな部分が気になった。
 結論、けっして臆病なワケではないのだが、この小説はできれば主人公と同じ十四歳の感性で娘には読んで欲しいと感じたので、しばらくの間お預けとします。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 たった一度しか経験できない、貴重な時間。ってのは、人生においてはままあるものですが、「はつ恋」なんてのもその一つ。たいていの場合、痒かったり寒かったり口惜しかったりしがちで、この作品のようにはいかないでしょうが。ま、俺にはそんな経験がないから、知識で物言ってるだけですけど。

 さすがに、ヒロイン・夕子ちゃん(14歳。利発でちょっと背伸び気味だが、根はとっても純粋な少女)にそのまま感情移入するのは、無駄に歳食ったおっさんには難儀で。むしろ、彼女の恋の相手であるキュウくんの視点で、恋に巻き込まれてました。

 十いくつも年下のかわいい女の子に慕われて、悪い気する訳無いじゃん、とか、でも俺大人だしなー、と困惑したりとか、子供構ってる場合か俺。いろいろ大変なのに、とか、思いは千々に乱れて。でも、突き詰めていくと、夕子ちゃんがとても愛おしく感じられました。

 いいなあ、はつ恋。俺もしてみたいです(おい)。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
ちょうどアン・ルイスの名前が出たところを読んでいた時に、文庫本の中からパラパラパラと何かが落ちてきた。
はたして、それは巻末の6ページにもわたる山西ゲンイチさんのイラストだった。
緑やオレンジや水色のカッパがそれぞれ楽しそうにお茶を飲んだり、歌を歌ったり、お風呂に入ったりしている。
「わっ、かわいい」サプライズに嬉しくなった。

14歳の少女、夕子ちゃんが主人公。
彼女のはつ恋の相手は絵の先生。年齢は20代後半で、みんなからはキュウくんと呼ばれている。
「ひとりの人のいろいろなことを、こんなに好きになってしまって大丈夫なのだろうか」と夕子ちゃんはドギマギして、切ない気持ちでいっぱいになる。
二人でドライブに出かけたときのこと、サービスエリアでおにぎりを食べた。
「キュウくんの四角くて小さな爪のところにのりがちょっとくっついていて、きゅんとなった。」
はつ恋の心のありようがしみじみ伝わり、こちらもなんだかきゅんとなる。
キュウくんが「今、僕はほとんど幸せといってもいいような気持ちだ」というその瞬間。
それを聞いた夕子ちゃんの幸せ、その瞬間の尊さを一緒にかみしめる。

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