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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年9月の課題図書 文庫本班

玉手箱
玉手箱
小手鞠るい (著)
【河出文庫】
税込683円
2007年7月
ISBN-9784309408552
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 デビュー作を含む3つの短編。主人公は、不妊治療に苦しむ女性、代理母が出産した娘を育てる女性、タブーなどなく性に貪欲な女性。
 読むのが大変に苦しい作品だった。最後の『おとぎ話』は不思議とからっとしているけれど、ほか2篇は主人公たちの痛みや葛藤、叫びが包み隠すことなく抉り出されていて、できることなら目を背けてしまいたいほど。産む性としては決して他人事ではなく、たくさんのことを考える。でも彼女たちの苦しみは、実際に自分も同じ体験をしなければ絶対にわからない。同じ体験をしたとしても、同じことを感じるとは限らない。他人事ではないのに、自分のこととして考えるにはあまりに遠い。それがもどかしくて歯がゆくて情けない。
 とにかく重くてつらい物語なので、まずは読んでみてください、と気軽に書くのは躊躇われる。こういう方におすすめ、という対象も思い浮かばない。いっそのこと読むだけで書評はしないでおいたほうが良いのでは、とまで思った。ここまで書評しにくい課題図書は、今までなかった気がする。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 女であることに猛烈に痛みを感じた小説だ。主題は妊娠出産。女に生まれなければ体験することは出来ないがそれ以上に痛みもリスクも苦しみも伴う。産んでも産まなくても産まれなくても。不妊…赤ちゃんを望んでも恵まれなかった時期を私自身経験している。スポ根娘だった私が、努力が通用しない世界に初めて直面した時だった。本書にも何度も登場する「なぜ」。子どもの有無がそれまでのどんな経歴よりも優先する(と本人は思ってしまうのだ。周囲の「なぜ」の応酬が)。それからの目的達成までの日々と経費と夫婦の会話は、まさに闘い。子どもだけが人生でないと理解しつつ、これまで続けてきた治療を諦めてしまうことに踏ん切りがつけられない女の意地や迷ってばかりいる自分の意気地のなさを嘆く様子など、苦しみの描き方が巧い。
 「いったいどれだけの血を流せば母親と認められるだろう」「私にはいったい何があるのだろう」〜「いったい」で始まるこの吐露が、心に残った。母親希望者必読書です。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 「恋愛小説の新・名手、幻のデビュー小説集」と紹介されているこの本。信じられないくらい痛くて苦しい小説です。こんな表現があっているのかわからないけれど、心がもげそうでした。
 不妊に悩む女性、そして不妊治療の末たどり着いた道を丁寧に繊細に描いた物語です。表題作「玉手箱」では、長くつらい不妊治療をするも結局子どもを授からなかった主人公が、代理出産により無事子どもを授かります。しかしその子どもは4歳になっても全く口をきこうとしない。口をきかないのは自分が本当に産んだ母親ではないから? 苦しい思いが主人公の胸を圧迫していたそんなときに、代理母から、どうしてもあなたと子どもに会いたい、という連絡が入る。たくさんの鬱々とした思いを抱えた主人公は、子どもを連れ、代理母に会いに行くことを決意する――。
 素晴らしい小説だと思った。これを読まずに、一体何を女性のための小説というのだろう、とさえ思いました。
 それにしても、不妊治療というのがものすごい苦痛を伴うものだということを私は知りませんでした。私は女なのに、そんなことも知らなかった。痛くて痛くて痛くて、つらくて悲しくてむなしいと思えてしまうような、精神的にも肉体的にも過酷な不妊治療を行うことを選択する女性たちの物語を読んで、とてもこれが小説だとは思えませんでした。誰でもいいからとにかく読んでいただきたい一冊です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 少し前の書評で「欲しいのは、あなただけ」を読み、今回もこってりとした恋愛小説なのかと思ったが、全く違った。「不妊」に悩む女性の深い悲しみと愛の葛藤が描かれたとてもシリアスな作品だった。
代理出産をする女性を描いた「玉手箱」、不妊治療をする「卵を忘れたカナリヤ」、女の性を描く「おとぎ話」。どの女性も「子供さえできれば、もっと幸せになれるのに」という渇望感を抱えている。今の私は欠けている、そう思いながら不妊治療の薬を飲み、副作用に耐え、子供を生めないことへのプレッシャーと一人で闘っている姿を見ているとやるせない気持ちになってくる。
 未成年の時は妊娠することに怯え、30代を過ぎれば妊娠しないことに重荷を感じる。一体、子供ができるということはどういうことなのだろうかとその間に居る私は考えてしまった。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 女性にしか、きっと書けない作品集。
不妊、代理出産、デリケートな問題をあえてモチーフにした三つの短篇が繊細にそれでいてストレートに綴られている。
 中でも表題作『玉手箱』が秀逸。
代理出産でもうけた娘と母とのほころびかけた絆の行く末は。
 読んでいて不意に、懐かしい歌を思い出した。遥か昔、初めて自分で買ったLPレコード『アリスIV』、針を落とすと目当てのヒット曲『冬の稲妻』や『涙の誓い』にまじってその歌は流れてきた。
『血の絆』。
中学生だった僕は、この曲を聴くたび何故か胸が熱くなった。久し振りに口ずさんでみても、やはりあの頃のゾワゾワ感が蘇ってくる。
 互いに呼び合う母と子の絆、どちらかと言うと苦手であった小手毬さんを見直した一冊。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 俺がもし万が一結婚するような破目に陥ったとして、子供欲しいか、と問われたら……うーん。正直、自分の子供はあんま見たくないなあ。自分に似たら嫌ですし。ま、相手の希望次第ってことで。

 ところが、夫がそういう風に、それほどこだわってなかったりしても、周りのプレッシャーだとか、本人自身の「幸せな家庭」像だとか、その他もろもろのせいで、何としても赤ちゃんが産みたい! でも、なかなか生まれない!っていう妻側の悲劇はしばしばあって。

 この中編集は、不妊治療や代理母、女性の性欲といったテーマで、そりゃあんた、パートナーもいない俺にどうやって読めというのですか? 逃げ場無しじゃん、みたいな風情でした。感情移入はどうやっても不可能だし、状況の傍観者にならざるを得なくて……で、見ていられないシーンが満載なのが、もう。

 不妊治療って、こんなに大変なのかー、って知ったら、こんな辛い思い、絶対好きな相手にはさせたくないです。

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  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
言葉を使い始めた子どもとかわいさといったら、どうだろう。
その子どもが誕生してからこれまで聞いてきた言葉、言葉、言葉。
それが蓄積されて、あるときからまるで泉が湧き出るようにあふれ出す。
どんな言葉を聞いて育ってきたのか、どんな思いで育てられたのか。
特に初めての言葉は印象的だ。
そしてそれに続く言葉の数々、それを培ってきたのは、やはりその子どもにいつも寄り添って生活してきた人なのだと、しみじみ思い知った。

「おうまの あかちゃん だれがすき」
表題作の「玉手箱」に登場する美希ちゃんの初めての言葉はある絵本の中の一節。
なかなか話さないなぁと心配していた矢先だった。
読みすすめながら、この事実が分かった瞬間、とめどもない感動が沸き起こった。
代理出産を決意して得て、大切に大切に育ててきた娘の言葉だから、なおさら嬉しい。
その一言で、これからの生きていく道を頑張ろうと思う瞬間があるとすれば、まさにこんな時だろう。

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