WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年12月の課題図書>望月香子の書評
評価:
養父の淳悟を「私の男」と思う主人公の花。
明日、結婚する娘の花との待ち合わせに、雨の中、淳悟が盗んだ傘を差してくるシーンからはじまります。そのせいか、始終、雨が降り注いでいるようなイメージの中物語が進むように感じられました。
内臓に触れられるような、足がすくむストーリーが進む中、それぞれの登場人物の視点から描かれる物語に、息を詰めるようにしてページをめくってしまいました。濃く甘く苦い霧を飲み込み吐くような花と淳悟の愛し方は、読み終えた後も無意識に何度か頭をよぎるほどです。
「まだ、終わらないで!」と残り少なくなるページを残念に思う小説に出会ったのは初めてのことかもしれません。
評価:
恐ろしいほどの美しさと色気を持つ「あがるた」が生まれるところから始まる忍者小説。
割礼が行われたり、忍びは言語こそがもっとも高度な技である、などなど、現実からかけ離れている小説世界の感覚が、だんだんなくなってくるような…。あがるたワールドへ入り込むのに時間はかかりませんでした。
蛆神様や狛犬など、かなりインパクトのある登場人物と、美貌のあがるたが物語を舞う様子に、なんだか素敵な現実逃避行気分です。
時折はさまる、作者の冷静というか、さめたコメントは、ちょっと癖になります。
評価:
名探偵リンカーン・ライムシリーズの7作目。現場鑑識中に事故に遭い四肢麻痺のリンカーン・ライムらのもとに「ウォッチメイカー」と名乗る殺人者が…。
「ウォッチメイカー」の時間と時計への異常な執着と、連続殺人の動機の分からなさが不気味でした。
かなり綿密な犯罪計画に、きりきりしてしまいました。ラストへ向けてのどんでん返しが、一度では終わらず、読んでいるだけで若干、体力を消耗します…。リンカーン・ライムらと犯人の頭脳戦がかなりの読み応えです。
評価:
終戦直後の占領下の東京が舞台。
警視庁調査一課の警部補が主人公…。
物語は、かなり緻密で難解な構成となっているようで、正直、私のようなミステリを読みなれていない初心者にはかなり難しい内容です。
背後から不吉なメロディがいつ流れ始めてもおかしくない雰囲気の中、物語は時々「詩」のようなものを挟み進んでゆきます。私の頭では、一度読んだだけでは理解できない構成なのが悲しいですが、読み返して理解したい! 鬱蒼とした雑木林を掻き分け中にはいる気分で再チャレンジしたい作品です。
評価:
母と二人で暮らす少女シルバーは、ある日母を失ってしまいます。ひとりぼっちのシルバーは、盲目の灯台守ピューに引き取られ、そこで生活をすることに…。
ピューがシルバーに眠るまえ話してあげる物語は、100年前に生きていた牧師ダークの人生について。
「大きな愛」をテーマにした物語なのだと思うのですが、私には最後までその答えが見えずに終わってしまいました。汲み取れない自分が少し悲しいです…。でも、そもそも答えなんてない、ということかもしれません。何かしらの結論探し好きな私にとっては、ちょっぴり物足りませんでした。
「人生は短いので、今を生きよう」というメッセージを受け取れた気分です。
評価:
“エデンはタスマニアにある”という新説を発表した牧師ウィルソン。医師ポッターと植物学者レンショーを連れてウィルソンたちはタスマニアへ、実証のために旅にでる…。
一行が乗った船がいわくつきで、最初からトラブル続き。旅先のトラブルは、もちろんお約束ですが、新鮮な気持ちで読み進められました。
歴史奇想ものは、正直わたしには分かりにくく苦手だったのですが、これは妙にすっと頭に入りました。訳者さんの力でしょうか。
地球ほぼ半周の旅にお付き合いする価値はありです!
評価:
離婚を経験した小説家のサルが、要注意人物とされるけれど何かきらきらとしたものを纏ったディーンとアメリカ大陸へ旅に出発!
ヒッチハイクでのガソリンの煙や、お腹が空いてもひとつだけで我慢したハンバーガーの匂いまでもが届いてくるような臨場感。サルとディーンの旅に便乗しているかのように一気読みでした。旅先での出会いやトラブルに、始終エキサイティングです。私も「オン・ザ・ロード」したい! と熱くなります。
ご存知、翻訳者の青山南さんの『本の雑誌』掲載文と合わせて読むと、さらに美味しいのはもちろんです。
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