WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年12月の課題図書>『錏娥哢た』 花村 萬月 (著)
評価:
文字化けみたいなタイトルは、主人公である「くの一(=女忍者)」の名前だったのですなあ。山田風太郎の忍法帖シリーズに熱狂した身としては、このエロティックで、グロテスクで、お下劣で、奇想天外なお話は、大大大好き!
江戸初期の史実と絡まった忍者活劇。妖艶な彼女が自らの「女」を使って、シューティングゲームで出てきそうなオドロオドロ系の難敵どもを丸め込み、蹴散らしていく。そのドキドキハラハラも堪らないが、ファンキーな天草四郎、お茶目な徳川家康といった魅力的なサブキャラもスパイスが効いて◎。ところどころでヒョッコリと登場する作者の講釈も、「謔愚(ギャグ)」とか「真事(マジ)」といった言葉遊びも楽しめた。
余談ですが、もしも本作が実写版として映像化されるのであれば、個人的希望として、主人公は及川奈央、蛆神はネプチューンのホリケンでお願いします。
評価:
女忍者の、それも超美形でその上伝説の忍者というアガルタの活躍譚です。なんと天草四郎や徳川家康など豪華ゲスト出演の歴史大作です。
いやあ、昔の場末みたいな雰囲気が全体に漂ってます。とにかくエロい!それにアガルタの悪女ぶりが際立っていて素敵。悪女はこうでないといけません。優しくも残酷でいつの間にか男を籠絡している。家光君なんかメロメロです。
この小説の良さって、表と裏が入れ替わり続ける、ということ。味方が敵だったり、敵が味方だったり。事件の真相が思っていたことの裏だったり。その入れ替わりを最後まで、是非最後までお楽しみください。
評価:
やりたい放題ですな。
一言で表すなら「美貌の女忍びの冒険譚」。江戸時代初期を舞台とした、実在の人物がたくさん出てくる時代小説なのです……って、いや、そんな生易しいもんじゃない。
あれ? この人、そんなキャラなの?
うわ! 普通、そういう戦い方する?
確かに私も花村さんが言うように思っていましたけど(作品の中で、著者が度々読者に語りかけてくるのです)……ってええ?
という感じで、読んでいるこちらの頭に疑問符と感嘆符が浮かびまくる何でもありの設定。大量の薀蓄、くどいほど出てくる下ネタと駄洒落が、物語の勢いに拍車をかける。その荒唐無稽なパワフルさに一度ノせられたら、最後までイッキ読みしてしまうであろう、はち切れんばかりのエネルギーに満ちた作品。
とっても面白いんですけど、読者よりもむしろ著者の方が楽しんでいるような気が……。
評価:
花村萬月。私にとって意外性の男といえば、往年の読売ジャイアンツ山倉和博捕手ではなく(どれだけ前の話だ)この人だ。名前の風流さから例えばGacktのような耽美な美形を想像していると度肝を抜かれる(個人的には梶井基次郎の写真を見たとき以来の衝撃)。エロスとバイオレンスの代名詞のような作風なのに、コバルトの新人賞の審査員をやっていた。
不勉強を承知で告白すると、私は山田風太郎・半村良両先生の小説を読んだことがないため、どの辺がオマージュとなっているのかわからない。そもそも忍者小説というものを花村萬月とうまく結びつけられなかった。とはいえ、猥雑で混沌とした感じはこの作家の得意とするところか。時折地の文で出てくる作者としてのコメントがなかなかかわいい。
錏娥哢たという美貌の女忍びが引き寄せる騒乱の数々。徳川家康・家光や天草四郎といった歴史上の人物と彼女との関係。時代小説好きは、「ほんとかよ」と眉に唾をつけながらも楽しんで読むのが正解。
評価:
恐ろしいほどの美しさと色気を持つ「あがるた」が生まれるところから始まる忍者小説。
割礼が行われたり、忍びは言語こそがもっとも高度な技である、などなど、現実からかけ離れている小説世界の感覚が、だんだんなくなってくるような…。あがるたワールドへ入り込むのに時間はかかりませんでした。
蛆神様や狛犬など、かなりインパクトのある登場人物と、美貌のあがるたが物語を舞う様子に、なんだか素敵な現実逃避行気分です。
時折はさまる、作者の冷静というか、さめたコメントは、ちょっと癖になります。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年12月の課題図書>『錏娥哢た』 花村 萬月 (著)