『英国紳士、エデンへ行く』

英国紳士、エデンへ行く
  • マシュー・ニール(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,625円
  • 2007年10月
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  1. 私の男
  2. 錏娥哢た
  3. ウォッチメイカー
  4. TOKYO YEAR ZERO
  5. 灯台守の話
  6. 英国紳士、エデンへ行く
  7. オン・ザ・ロード
佐々木克雄

評価:星5つ

 史実は重い。それが戦争であったり虐殺であったりすると、ことのほかズッシリと今に生きる者たちに覆い被さってくる。19世紀、イギリスによるタスマニア先住民の迫害という史実を土台にしたこの物語は、しかしながら飄々と登場人物たちの視点で話を紡ぎ、しかもキャラたちの滑稽なまでの言動に、タブーを越えたユーモアまでも醸し出す。
 この本から滲み出てくるものは、文明、文化、信仰といった人類が築き上げたテーマを、異なる人種たちがどう捉えているかだ。人種差別論者の医師がタスマニア奥地で遭難し、先住民が活き活きと動くくだりは、かなりシニカルな場面として印象に残った。
 いい本に出会えた。日本だと中島らも、荒俣宏なんかがイメージ近いんじゃないかな。それと訳がかなりブッ飛んでます。P70先住民少年の語り「そのすっとこどっこいは〜」って……、しばらくフリーズしてしまった。原文では何て書かれてんだろ?

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下久保玉美

評価:星1つ

 本書は、差別と偏見による人種間の争いを扱っていながら、同じ舞台でキリスト教的世界観と科学的世界観との争いも扱っています。宗教と科学はどちらかが正しいとかどちらかが優れているとかではなく、どちらもこの世界を説明するための形式の一つであって、それぞれが異なるシステムで世界を説明しているに過ぎません。だから宗教はただの迷信ではないし、科学もその力を過信してはいけないのではないでしょうか。同じく、人種についてもどの人種が優れているとか正統であるということはなく、それぞれが異なったシステムを持つ人類であると思います。
 しかし、どの時代に限らず、自分側が正統である優れていると勘違いしている人間は多いもの。そんな人間の滑稽さを、偏見による不幸を、差別の行き着く狂気を本書はイギリス人的なユーモアに包みながらも描いていると思います。
 でもそんなイギリス人的ユーモアに耐えられなくて…。

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増住雄大

評価:星2つ

 帯に「プラチナ・ファンタジイ」とあるから「ファンタジイ? 指輪物語とか、ナルニア国物語とか、ハリー・ポッターみたいなやつかな?」とか何となく考えていたら全然違った(ポッターという登場人物は、いるけど)。
 時は1857年。聖書に描かれた歴史が現実だと思い込み、独自の調査により「エデンはタスマニアにある」と確信しているウィルソン牧師、人種による優生学を本気で信じている外科医ポッターなど、何らかの「偏見」にとらわれている登場人物たちのイギリス〜タスマニア珍道中(?)。総勢20名の語り手が入り乱れての歴史エンターテインメント大作(なんだか今月の課題図書は「大作」ばっかりだ。いいことなんだけど)。
 ごめんなさい。正直に申しますと、どうにも肌に合わず、課題図書でなかったら、おそらく最後まで読み切っていないっす。ユーモアに満ちていておもしろくないわけじゃないし、色々と考えさせられることもある良い小説だと思うんだが、ううむ。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 もっと軽妙な感じの読み物かと思って読み始めたので、人種差別的な(特にアボリジニに対する)記述に対してけっこうブルーな気持ちになってしまった。
 “エデンはタスマニアに存在する”という奇想天外な説を証明するために大海原へ船出した牧師、何やら思惑がありそうな医師、密輸に手を染める船長といった英国紳士(?)たち。かたや被支配層であり、略奪や暴行によって踏みにじられ疫病の前に為す術もなく命を落としていく原住民たち。前者のパートと後者のパートに温度差があり過ぎるように思えて、いまひとつ楽しめなかった(いや、もちろん人種差別は取り上げる価値のある問題だと思うし、英国紳士たちも脳天気なだけではなくかなりの苦労もしているのだが…)。
 けっこう感じ悪い登場人物が多い中で、善人だったり私が割と気に入っていたりしたキャラはおおむねハッピーエンドを迎えられてよかった。皮肉すぎて、人によってはハッピーと思わないであろう結末もあるが。

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望月香子

評価:星3つ

 “エデンはタスマニアにある”という新説を発表した牧師ウィルソン。医師ポッターと植物学者レンショーを連れてウィルソンたちはタスマニアへ、実証のために旅にでる…。
一行が乗った船がいわくつきで、最初からトラブル続き。旅先のトラブルは、もちろんお約束ですが、新鮮な気持ちで読み進められました。
 歴史奇想ものは、正直わたしには分かりにくく苦手だったのですが、これは妙にすっと頭に入りました。訳者さんの力でしょうか。
 地球ほぼ半周の旅にお付き合いする価値はありです!

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