WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年12月の課題図書>『TOKYO YEAR ZERO』 デイヴィッド ピース (著)
評価:
話題作になろうとしている話題作なのだろうか。
終戦直後の東京を舞台にしたミステリーをイギリス人作家が描いたというだけで、十二分に特異性を感じる。小平事件など、実際に起こった事件や人物が登場するやけにリアルな設定も、すえた街の様子や崩壊していく主人公の陰鬱とした語り口も、ドスンと落ちる結末も、独特の世界観を醸し出している。その取材力たるや、相当なものだ。
反復される散文詩のような文体は、好き嫌いがハッキリと分かれるところだろう。個人的には、読み進めるうちに妙なリズムを感じてしまった。小説を読むというより、音楽を聴いているような気分。オアシスなんかがイメージに近いかなと。
本書は東京三部作の第一弾であり、来年、再来年に続巻が英米に向けても発売されるとのことですが……ゴメンナサイ、自分はもういいかなって感じです。
評価:
終戦直後、占領状態にあった東京で起きた連続婦女殺人事件―小平事件を追う刑事たちの物語とその裏にうごめく闇。閉塞感が刑事たちの息遣いから伝わってきます。あとは現代では失われつつある汗臭さや泥っぽさ。真夏の、白くギラギラと輝く太陽の下であくせくしながら生きる人間のずるがしこさが目に浮かびます。
でも、もう少しノンフィクションぽい小説かと思っていたんですけど、ね。小平事件の真相とか占領時代の日本の裏側とかの面白い話かと思っていたんですけど、ね。ミステリという割にはこれといったすごいトリックでもなく、延々と独白めいた文章が続くので正直食傷気味です。
評価:
海外の人が描く「日本、および日本に関すること・もの」って、どう考えても日本を誤解している変なのが多い。それらを集めるだけで、テレビの1コーナーや雑誌の1ページが出来るくらいに(そして、それはそれで、ちょっとだけ面白い)。だからこの作品もそういう感じだろーなー……とか考えていると、頭ぶん殴られます(比喩ですよ)!
本書の舞台は太平洋戦争が終焉した1945年、米軍占領下の東京。登場人物は全員日本人。そして、実際にあった殺人事件が題材。生半可な知識量で書ける小説ではない。がっつり取材して、じっくり執筆された紛れもない大作。
注目すべきは、その文体。文章の合い間合い間に、一人称主人公の「意識の流れ」とでも呼べるようなモノローグが細かく短く挟まれるのだ。始めこそ少し読みにくいが、読者は次第にこの文章に取り込まれて、最後には……。
三部作の一作目ということなので、二作目以降も要注目ですね。
評価:
読み始めからじわじわと不穏な雰囲気が漂う。斜めの活字で表される語り手の心情に背筋が寒くなる。こんな風に、得体の知れない恐怖に追い立てられながら小説を読んだのは久しぶりだった。
終戦直後のこの時期を舞台に小説を書こうという試みがイギリス人若手作家によってなされたことにそのものに意味があると思う。いかなる形であれ、現在どれだけの日本人が戦後の混乱期について知ろうと思うだろうか。
ただ、著者の意欲に比して、肝心のミステリー部分の衝撃はそれほど大きくはなかったという気もする(驚いたといえば驚いたが)。この物語は実際に起こった婦女連続暴行殺人事件に絡めたフィクションであるが、ミステリー以外の部分の緊張感がはるかに勝っているのではないかと思う。むしろ史実である連続殺人事件について、ノンフィクションで書かれたものを読みたいと思ってしまった。
評価:
終戦直後の占領下の東京が舞台。
警視庁調査一課の警部補が主人公…。
物語は、かなり緻密で難解な構成となっているようで、正直、私のようなミステリを読みなれていない初心者にはかなり難しい内容です。
背後から不吉なメロディがいつ流れ始めてもおかしくない雰囲気の中、物語は時々「詩」のようなものを挟み進んでゆきます。私の頭では、一度読んだだけでは理解できない構成なのが悲しいですが、読み返して理解したい! 鬱蒼とした雑木林を掻き分け中にはいる気分で再チャレンジしたい作品です。
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