『流れ星が消えないうちに』

  • 流れ星が消えないうちに
  • 橋本紡 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込540円
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評価:星2つ

読んでいてこちらが恥ずかしくなってしまうような、純度の高い恋愛小説。事故死した恋人の思い出を引きずり、玄関でしか寝られなくなってしまった奈緒子。死んだ親友を思いながら、奈緒子と付き合う巧。間に死者を挟んだままそれ以上距離を近づけられない二人。最初のうちは妙に文章が硬いのだけれど、章が進むうちにだんだんと柔らかくなってくる。それが二人の関係のようでもある。
学校祭のプラネタリウムでの告白など、少しずつ描かれるきらきらと輝く思い出を最初は奈緒子視点で、次に巧視点でと交互に描くことで、不器用な二人の気持ちが読む側に伝わってくる。小説だけ読むと女性が書いたのだと思ってしまうほど繊細で純粋。
そんな恋愛部分に比べて、マンガと時代小説を貸し借りする家出中の父と娘や、ボクシングの試合を見に行く姉と弟など家族の描写が妙にリアルだ。どちらかというと甘い純粋な恋愛小説よりも、そういったリアルさのほうが私は好きかもしれない。

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『古本道場』

  • 古本道場
  • 角田光代 (著)
  • ポプラ文庫
  • 税込588円
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評価:星4つ

就職をして初めての、横浜での一人暮らし。仕事で有隣堂、紀伊国屋、ジュンク堂などを見て回るほかにも、休みの日には、『東京ブックストア&ブックカフェ案内』(交通新聞社)を片手に東京の本屋を歩き回った。六本木、新宿、青山、自由が丘、渋谷…。北海道にはない本、北海道にはない本屋の世界、それぞれの「町」の色があること。カルチャーショックの連続だった。
あのとき、この本と出合っていたら、新刊書店にしか寄らない私も、古本と古本屋の世界に今頃どっぷり浸かっていたかもしれない。
好きな作家である角田光代さんが、岡崎武志さん(古本道場の道場主という設定)の指令を受けて、様々な町でお題を出されて、古本屋を巡る。最初は恐る恐る入った古本屋。そこで古本を探す楽しみを、値段のことを、書店ごとの違いを、本と本との不思議な出会いを、そしてやはり「町」の存在を知っていくのだ。
もう、古本屋に出かけたくてたまらなくなってしまう。そんなわくわく感に加えて、角田さんの読書生活を知ることが出来たのも楽しい一冊だった。

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『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』

  • サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  • はらだみずき (著)
  • 角川文庫
  • 税込540円
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評価:星3つ

サッカーのポジションの違いなどほとんど知らなくても、キャプテンから外れた少年の挫折、小うるさい監督への反発、チームで勝てないことの苛立ちなど丁寧な描写に、いつしか桜ヶ丘FC(作中の少年サッカーチーム)の熱烈なファンに。
終盤に描かれるライバルチームとの試合は、間違って先の展開が目に入ってしまわないよう、左のページを隠しながら息を詰めて読んでいった。
一応主人公は小学校六年生の、ヒーローの座から滑り落ちる少年なのだが、周りの大人がいい味を出している。重い病気の妻を持つ監督、全国出場チームを育てたことのある、監督と幼なじみのコーチ、見るだけだったサッカーをプレイし始めるクラブチームの会長達。中年になっても腹が出てきても関係がない、かつてはサッカー少年だった男たちのその後の人生。そう、「サッカーボーイズ」とは、小学生サッカーチームのメンバーだけではなく、全ての男たちのことなのだ! 
熱血スポコンではない、今風のスポーツ小説。

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『翡翠の眼』

  • 翡翠の眼
  • ダイアン・ウェイ・リャン (著)
  • ランダムハウス講談社文庫
  • 税込893円
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評価:星3つ

私立探偵は禁止されているという中国で、法の隙間を突いて働いている梅(しかも女性なのだ!)
私立探偵小説というより、中国の家庭の中での女性の葛藤を描いた小説として読んだ。出来のいい、誰からも愛される妹。父を見捨て、妹を愛し、父と自分を比べる母。海外で結婚してしまったかつての恋人。優秀だった梅が、反対されながらも自分を信じ探偵としていきぬく姿、その孤独に、共感した。私立探偵ではなくとも、現代に働く女性なら、きっと思い当たるようなところがあるはず。
そういえば、私の初めての海外旅行は中国・北京だった。あまりにも大きい建物、あまりにも多い人。オリンピック開催が決定して続々と高層マンションが建設される中、胡同には今にも崩れそうな家がひしめき、路上には物乞いのひとたちがいた。屋台の家族や、駐車料金をせびる人などの描写で、そんなアンバランスな、生命力あふれた北京の町を思い出しながら読んでいた。それに加えて、中国映画の中でしか知らなかった「文革」や「下放」を、今回勉強してみるきっかけともなった。

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『人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)』

  • 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  • スティーブン・J・グールド (著)
  • 河出文庫
  • 税込1575円
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評価:星3つ

驚きと怒りの連続だった。
頭蓋骨が小さいから、サルに似た特徴を持っているから、黒人を白人の進化の途中の過程である。犯罪者は環境や状況のせいではなく生まれつきのものである。貧乏人は貧乏人しか生まない。精神薄弱者は子どもを持つべきではない。知能の低いものには、より知能の高いものがやるべきではない単純作業をさせるべきだ…。
これらの主張が大真面目に、社会政策にも影響を与えながら展開されていた時代があったとは。グールドは過去の論を詳細に紐解き、自らの手でデータを確認しなおして、それらの過ちを断ずる。
導きたい結論ありきで意識的・無意識的にデータを捏造する科学者たちの姿は、信じられないしあってはならないだろう。しかしそれと同時に、私たちが「科学は絶対」と無批判で情報を受け入れている限りなくならないものなのかもしれない。決して読みやすくはないが、知っておかなければいけない本だと思う。

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『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』

  • ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  • ランス・アームストロング (著)
  • 講談社文庫
  • 税込800円
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評価:星4つ

ツール・ド・フランスのことを全く知らない私も、心が熱くなり、これを読んでいる今まさにフランスで行われている自転車レースをどうしても見たくなってしまった。
これはツール・ド・フランスで7連覇という偉業を達成した(ものすごく有名らしいですね、全然知りませんでした…)ランス・アームストロングの自伝。ただし、これはただ自転車の話ではなく、家族との絆の話であり、癌との壮絶な戦いの話であり、一人の男の人間としての成長の話でもある。
まさにこれからという若手の自転車選手に訪れた癌との戦い。回復後も、調子が戻らないことへの苛立ちや苦悩。何度も涙ぐみながら一気に読んでしまった。自転車レースというのは個人の能力はもちろん、チーム力も、綿密な作戦も必要らしい。それを最初はただがむしゃらに突っ走っていた著者が、チームとは何か、作戦とは何か、ライバルへの敬意とは何かと学びながら初優勝する場面はただただ感動。
アッと思って「勝手に目利き」でも紹介させていただいた『いしいしんじのごはん日記』を読み返すと、2002年と2003年のツール・ド・フランスについての日記があった。わたしも、リアルタイムで彼の活躍をぜひ見てみたかった。

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『四十七人目の男(上・下)』

  • 四十七人目の男(上・下)
  • スティーヴン・ハンター (著)
  • 扶桑社ミステリー
  • 税込860円
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評価:星2つ

硫黄島、サムライ、近藤勇、新撰組…表紙カバーについている登場人物一覧のこれらのキーワードに拒否反応を起こしてしまうのは私だけなのか、もしかしたら私の世代特有のものなのか?アメリカ人が書くサムライの物語…。「『ラスト・サムライ』と『キル・ビル』の違いは、日本的なものの表現を、勘違いしているかわかっていながらあえてやっているかどうかだ」と英語の講師が言っていたことを思い出しながら、恐る恐るページをめくっていった。
刀、剣道、恩、仇、忠臣蔵、風俗……読んでいきながら私は混乱してしまった。映画評論家だというこの著者はわかってあえてやっているのか、それとも日本へのステレオタイプを盛り込んだだけなのか。それに加えて全編通しての英語の教科書の現代語訳のような会話文。この訳者も、本気で訳しているのか、アメリカ人と日本人の英語を通してのコミュニケーションをこの訳文で表しているのか。
ともかく、おかしな日本人と日本文化のオンパレードに笑いながら読みきった。巻末の謝辞を読むと、とても茶目っ気たっぷりな著者だということがわかり、ますます私の疑問は深まってしまった。

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勝手に目利き

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『三崎日和―いしいしんじのごはん日記2』 いしいしんじ/新潮文庫

 横浜から松本に越してきて一ヶ月、本屋も服屋もカフェもほとんどない松本で、お休みの日はどうやって過ごそう…と途方にくれていたときに、いしいしんじさんに出会った。いしいさんが作詞をされたという原田郁子さんのコンサート会場でのことだった。
「いしいさんって、松本に住んでるらしいよ」
作品は数作読んでいたけれど、特別に大好きな作家というわけではなかったのだが、それがきっかけで『ごはん日記』『ごはん日記2』を読んでみることに。そしてびっくりしたのだけれど、園子さんのおうちが私のアパートの徒歩10分ほどのところだと思われます。近すぎ。松本での生活が大好きになったのは、この日記のおかげでもある。
食べたものはもちろん、創作の話、三崎と松本での生活、美術館に行った話、雑誌の取材の話などなどが書かれていて面白い。海で泳いだり、ご近所さんと遊んだり、新鮮な魚を食べたり、そうして物語が生まれた過程を知ってから作品を読むと、頭の中で作って書かれたのではなく作品がまさに生まれたのだなあと思う。
この本、読んでいるとすっごくお魚が食べたくなるので注意。私は深夜に鮭を焼いて食べた。

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余湖明日香

余湖明日香(よご あすか)

1983年、北海道生まれ、松本市在住。
2007年10月、書店員から、コーヒーを飲みながら本が読める本屋のバリスタに。
2008年5月、横浜から松本へ。
北村薫、角田光代、山本文緒、中島京子、中島たい子など日常生活と気持ちの変化の描写がすてきな作家が好き。
ジョージ朝倉、くらもちふさこ、おかざき真理など少女漫画も愛しています。
最近小説の中にコーヒーやコーヒー屋が出てくるとついつい気になってしまいます。

好きな本屋は大阪のSTANDARD BOOKSTORE。ヴィレッジヴァンガードルミネ横浜店。
松本市に転勤のため引っ越してきましたが、すてきな本屋とカフェがないのが悩み。
自転車に乗って色々探索中ですが、よい本屋情報求む!

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